やはり苦労していた偽学生
「はっ!? あたしってば今まで何を?」
ヴァリは荒れ地で目を覚ました。
学内で警戒中、大きな魔力の発生を感知して現地に急行してみれば、不可思議な大型の魔物(?)が暴れていた。
きっとカードが現れる! と歓喜したのも束の間、突然意識を失ったのだ。
「頭がズキズキする……。いったい何が……?」
遠く、王城を臨む荒野だ。
自身の意識を刈り取った何者かに連れてこられたのだと考えたものの、付近にはなんの気配もない。
頭痛はするが体に他の異常はなく、身に着けているものにも砂が付着している程度で変化はなかった。
何がどうなっているのか? その答えを知るかもしれない者が、この場には一人いた。
「目が覚めたようだな」
金髪が風に揺れる。整った顔を向けて見下ろしているのは、彼女の主がその力の一部を授けた者――アレクセイ・グーベルクだった。
「アンタが、アタシをここへ?」
「覚えていないのか? 君はカードの探索に集中していたようだが、連中が魔物に放った攻撃魔法の余波に弾き飛ばされてね。私は混乱に乗じて君を回収し、ここへ連れてきたというワケさ」
ヴァリにはまったくもって記憶がない。あるのは魔物を発見してさあこれから、というところまでだ。
弾き飛ばされたことで記憶が混乱しているのかもしれない。
いや、そんなことは今どうでもよくて。
「ルシファイラ様になんと言えば……」
きっとカードは小娘に奪われてしまっただろう。これまで順調だったのに、一度の失敗ですべてが帳消しになってしまう。
「なるほど、やはり記憶が定かではないらしい。だが逆に感心するよ、君のその執念にはね」
「皮肉は相手を見て吐くことね。ルシファイラ様の力を一部与えられたとはいえ、アンタはただの消え損な――ん?」
立ち上がろうと手を着いたところで、何かに触れた。ひんやりして、つるりとした感触。石ではなく、金属質の板のような――。
「こ、これってぇっ!?」
黄金に輝く手のひらサイズのそれは間違いなく、対象魔神の力を封じているとされるカード型魔法具だ。
「まさか、アンタが?」
アレクセイは肩を竦める。
「さっき言ったろう? 君の執念には感心する、と。はっきり見たわけではないが、おそらく君は魔物の中から飛び出したカードの位置を把握し、それを手に入れた。連中の魔法攻撃を食らってしまうのも厭わずにね」
そうだったのか! さすがアタシ! と内心で自画自賛しつつ、
「これで学院に潜んでいたカードは回収されたのよね? もう学生に紛れて『ハルト君って可愛いよね』とか言われても愛想笑いで返さなくていいし、『授業ダル』って振られても『それなー』とか無理に応じなくてもいいし、なにより衆人環視の中で人族どもとチーム戦なんてやらなくてもいいのよね!」
「いや、私に訊かれても……」
切実なる想いは当事者にしかわからない。理解されてなくとも、それらから解放される喜びが勝ったので気にならなかった。
「さっそく報告ね!」
ヴァリはふわりと浮き上がり、創造主の下へと急ぐのだった――。