シャルがいいなら無問題(ということにしよう)
おかしい。
何かが間違っている。
「なんっすかこのチーム分けの結果はぁ!!」
ちゃぶ台をひっくり返す勢いで叫ぶ俺。
研究棟の端っこにある、防音結界でガッチガチに固めた部屋の中。巨大モニターには学内に掲示された四騎戦のチーム分け表がでかでかと映し出されていた。
呆れた声で応じたのはティア教授である。
「ワタシに言われてもねぇ。キミがしくじったからじゃないの?」
そんなはずはない。俺は完璧にミッションをコンプリートしたのだ。
「んー、なら学院長が最終判断で変更したとか?」
「にしても変わりすぎっすよ!」
シャルのチームにはイリスに加えて謎の留学生姉弟が名を連ねている。
俺は? ここに俺の名がありませんよ?
「そりゃまあ、ねえ? リーダーは同じチームにはなれないし?」
そこが一番の問題である。
「俺は自分をリーダー枠からちゃんと外しましたよ?」
シャルちゃんがリーダーのチームに入れたもん。
「しかもなんだよ、この面子……」
攻撃枠の二人はバルド・ゲッテル五年生とアデーレ・ゾンネ四年生とある。
名前だけ聞くと誰やねんと思うも、この二人はこう言い換えることもできる。
ナンバー4、ナンバー12。
これだけでも厄介この上ないのに、残る支援枠の一人は二年生の女子生徒だ。直接の面識はないものの、名前から容易に推測できる。
その名もヴァリ・ルーシア。
そういやこの魔人さん、上司に無茶振りされて学生に扮して潜入してたんだっけか。
「まあ、おかしな点はあると言えばあるね。正直、この2チームは実力が突出している。仮に公平にくじ引きで決まったとしても、調整を入れたくなる面々だよ」
「いや調整してこうなったんじゃないんっすか?」
そんなのが許されてるか知らんけど、そう考える以外にない。
「だとしても、最終決定権は学院長にある。彼女がこれで問題なしと判断したからこうなっているのさ。ま、さすがに学院長の真意を問い質したくなるよねえ」
それなー、とわざわざ声に出すまでもない。
こんな不公平があってたまるか。俺は俺の不正しか許さないのだ!
「じゃあその真意とやらを問い質してきますよ」
頭に血が上っているときの俺は行動力の化身だ。シヴァモードにチェンジして、
「は? ちょ、待――」
制止を無視して部屋を飛び出した――。
「説明してもらおう!」
ノックとかちゃんとしてから、俺は学院長室に押し入った。
「来るとは思っていましたよ、シヴァさん。さあ、空中に座らず、そちらのソファーにお掛けなさい」
俺は空中足組みポーズを解き、すごすごとソファーに座った。
なんか出鼻を挫かれた感。
学院長は自らお茶を淹れてくれて、俺の対面に腰かける。
「今回のチーム分けは、偶然にも抽選により決まったものです」
えぇ……そんな偶然あるぅ? てかその抽選で俺は不正を働いたわけだが? どゆこと?
「ただシヴァさんもお気づきのとおり、ある2チームの実力が明らかに突出しています。通常はこういった場合、抽選を担当する教師たちの裁量でチーム構成の変更が認められています」
おぉぅ、やっぱりそんなのあったんだ。
つまり俺が帰った後に変更された可能性大ってことか。あれ? でも今、『変更なしでこうなった』みたいな話ぶりだったよな?
「当然、私は担当教師のみなさんに尋ねました。2チームに強者が偏る結果を、なぜ是正しなかったのか、と」
うん、俺も気になります。
「彼らは口をそろえてこう言いました。『この2チームの対戦が見てみたい』と」
いやいやいや、エンタメショーとちゃいまんがな。あー、でも学外のお偉いさんたちへのお披露目でもあるんだっけか? それにしても、ねえ?
「もちろんそれだけでは私も承諾しませんでした。けれど――」
彼らの言い分はこうだ。
ハルト・ゼンフィスは実力が飛びぬけているため、同じチームのメンバーは相応の実力者でなければ一人舞台となって彼の適性が測れない。また対戦相手が弱すぎても同様だ。
全校試験で俺を品定めする流れやめてもらえます?
「私も悩みましたが、最終的には彼らの話を受け入れました。納得できない話ではありませんでしたから」
俺は納得いかんのだが?
つーかホントに変なんだよなあ。
ベルカム教授は俺がリーダー枠じゃないのに納得していたし、他の二人も同意していた。結果もそうだが、学院長に話した内容と辻褄が合わなさすぎる。
今度は彼らの真意を問い質したいところだが、これまでの会話で学院長は『誰』とは言っていない。俺が抽選担当の先生たちを特定しているとなれば、何かしら不正をやらかそうとしていたと勘づかれる危険がある。
そもそも問い質したところで決定が覆されるとは思えない。学院長が了承しちゃってんだもの。
あ、これ詰んだわ……。
俺は半ば放心して、学院長室を後にした――。
どうしよっかなー♪
無理に明るく振舞ってもまったく問題が解決するはずもなく。
ログハウスの自室でベッドに転がり悶々としていると。
「兄上さま! 四騎戦のチーム分けの結果はご覧になりましたか!?」
ノックののちにバーンとドアが開かれ、トニカク可愛いシャルちゃんが入ってきた。
「あ、ああ、知ってるよ……」
「兄上さまとは、別のチームになりましたね……」
ごめんな、お前と一緒のチームになるって言ったのに……言ったかな? 言ってないか。でもまあ、そこは暗黙の了解ってやつだよね。うん、ごめんね。
俺が心の中で謝っていたら、シャルちゃんはなにやら神妙な面持ちで。
「つまり、宿命のきょうだい対決……」
ん?
「そびえる壁は遥かに高く、堅牢で」
おや?
「何度も何度も跳ね返され、その度わたくしたちは成長するのです」
静かに語っていたシャルは、くわっと愛らしい目を見開いて、
「来たる魔神さんとの最終決戦に向け、兄上さまの胸をお借りしますね!」
高らかに宣言すると、
「本の気と書いて『マジマジのマジ』でぶつかる所存。では、兄上さまも手加減なさらず応えてくださいませ!」
言いたいことを言って満足したのか、シャルは優雅にお辞儀して部屋から出ていった。
「……要するに、これでオッケー、……ってコトォ?」
シャル的に問題ない、というかむしろウェルカムなのであれば、俺の立ち回りも変わってくる。
んじゃ、シャルと決勝で戦う熱い展開になるよう、いろいろ調整しますかー。
一方そのころ。
気になってとある女子生徒の様子を観察してみると。
掲示されたチーム表を見上げ、女幹部ヴァリ(女子生徒に変装中)が呆然と立ち尽くしていた――。