不正の勝利は誰の手に
ヴァリは事前にチーム分けした名簿を準備していた。
それを正規の名簿と入れ替えるべく待ち構えていたのだ。
シャルロッテもハルトも、その他の仲間たちが同じチームにならないように。成績が下位であったり協調性のない者であったり、チームとして能力が発揮しにくいメンバーにして。
(けっきょくこの方法が一番手っ取り早くて、なにより確実なのよね)
懸念があるとすれば。
テレジアが結果に不審を抱いて三人に内容確認をすると、名簿を入れ替えたのが発覚する危険はある。
しかし杞憂に終わるだろう。
むしろヴァリが行ったチーム分けはある意味バランスが取れている。強力な個が分散し、それぞれのチームメンバーは全体からすればやや劣るようになっているのだから。
(そしてアタシのチームはアタシ自身が弱者って設定になっているのよねぇ)
対する他のメンバーはかなりの実力者。うち二名はナンバーズに名を連ねていた。
(完っ璧だわ!)
ヴァリは老教師が厳重に鞄に魔法をかけ重ねるのを確認したのち、勝利を確信した。
(ルシファイラ様にお褒めいただけちゃうかもぉ!?)
そうして気配を隠したまま、ウッキウキでその場を後にするのだった――。
――けっきょくのところ。
「詰めが甘いって言うのかしら?」
「「「ッ!?」」」
ベルカムたちが空き教室から出た、まさにその瞬間。
どこからともなく現れた、金色の瞳をした小さな女子生徒が立ちふさがった。
「ううん、この場合は『想定が甘い』ってことよね。彼にしても彼女にしても、自分以外が同じ企みをしないなんて、どうして安心していられるのかしら」
呆れたような物言いだが、その美貌には笑みが咲いている。
「でも不思議よね。学生が自分を有利なチームに入れたいって気持ちは理解できるけれど、どうして〝あの彼〟が学生の試験に干渉するのかしら?」
「貴様は……帝国からの留学生だな。たしか――」
「ええ、ユリヤ・マルティエナよ」
屈託のない笑みに男性教師二人の頬が緩む。ベルカムも緊張が解けかけたが、鋭い目つきで見下ろした。
「どうしてここにいる? 迷うにしても、こんなところに来ようとする意図がわからんな」
ユリヤは相変わらずニコニコと物怖じしない。
「迷ったのではないわ。その大事そうに抱えている物の中身に用があるから、わざわざ足を運んだの」
ユリヤは老教師が持つ鞄を指差す。そこには四騎戦の名簿が入っていた。
ベルカムはもちろん、男性教師二人もさすがに顔を強張らせる。
「どこから情報をつかんだか知らんが、不正は許されない。ただの興味本位であろうと貴様には徹底的に――」
「わたしはね」
「――ッッ!?」
ベルカムの声が押しとどめられる。
「運任せもいいかな、って思ったの。けれどせっかく面白いイベントなのだし、楽しみは多い方がいいでしょう?」
声だけではない。体が固まって動かない。
それはベルカムだけでなく、他の二人も同じだった。
「だからって無理強いはしたくないの。お願いでもなければ提案でもない。まして命令でもない。あなたたちはただ、受け入れてくれればいいの」
金色の瞳がぼんやりと光る。
(ダメ、だ……。あの目を見ては…………)
本能がそう告げるのを感じるも、ベルカムは目を背けるどころかまぶたを降ろすことすらままならない。
「さあ、受け入れて。大丈夫、怖くなんてないわ。それにあまり長く抵抗するようだと、脳がすこし焼けてしまうわよ? それはわたしの本意ではないの。だから、ね?」
三人は一歩、二歩と後退する。
押しこまれるようにして空き教室に戻ると、ユリヤはゆっくりと歩み寄り、扉が勝手に閉じられた。
「そう、いい子ね。それじゃあみんなでもう一度――」
虚ろな瞳で左右に体を揺らす三人を見渡して、
「チーム分けをやり直しましょうか」
歌うように少女は告げた――。