この手の作業はお手のもの
俺とシャルが箱から出されるタイミングを同じにすればいいんだし、最後まで待つ必要なんてなかったんだよ。
今さら真理にたどり着く俺。
んじゃまあ、サクッと……でもなあ、よく考えたら、まったく知らん奴だと俺が困るな。実際に困るのはハルトCなんだけど。俺はシヴァモードで試験を見守らなきゃいかんので。
俺は箱を透かし、中にあるカード――そこに記されている名前を確認する。
これは支援枠の奴らだな、どれどれ……ふむふむ…………お? これって謎の留学生の弟のほうだよな。あいつ支援枠だったのか。
他の名前はまったく知らないが、さすがにこいつと一緒のチームは避けたいところ。ま、支援枠なんて大して仕事しないだろうし、誰でもいっか。
お姉ちゃんのほうはどうかな?
残りの箱を調べると、攻撃枠の箱の片方にその名を見つけた。『近接』と名前の下にある。意外にも肉弾戦でやり合うタイプなのかー。
どうしよう?
姉弟の片方は近くで監視したほうがよさげな気がしなくもない。シャルと仲良くなってるみたいだし、注意を払いやすいって意味でも、同じチームにしとくか。
ちょうど次のチーム選定になりそうなので、俺はまずシャルのカードを握りしめた。
ベルカム教授が箱の上部にある穴に手を突っこむ。
すかさず横から箱をすり抜け、シャルのカードをバトンパス。
「む?」
やや不審がられたが、うまいことベルカム教授はシャルのカードを握ってくれた。光学迷彩結界で見えなくしてたのでそれを解除する。
「……ほう。ついに本命のお出ましか」
ベルカム教授は片眼鏡をキランと光らせた。
「おお、シャルロッテ・ゼンフィス君ですか。彼女の射撃精度はあのグーベルク君をもすでに超え、もしかすると兄ハルト君と同様に学院史上最高ではないかと私は考えています」
「うむ! 彼女の体捌きは兄のハルト・ゼンフィスと同様、独特のものではあるが洗練の極みに達していた。遠くからでも近づいてからでも、まったく隙がない」
「加えて筆記の成績も学年どころか学内でトップクラスだ。唯一未知数の指揮能力が、今回の全学考査で確認できるだろうな」
シャルちゃん、ベタ褒めされておる。兄としても鼻が高いな。
さて、次は支援枠。こちらは華麗にスルーして。
いよいよ攻撃枠の二人を選出することになった。
カードを引くのはマッチョな先生。
ムキムキっと無駄なポーズをしている隙に俺の準備はオーケーだ。他のカードをいったん外に全部出し、俺は自身の名が記されたカードを握って箱の横から手を入れる。
野太く毛の濃い右手が箱の中に突き刺される。
「ん? むむむ?」
くっ、あっちこっちと手を動かしてうまくカードを渡せない。しかもカードの手ごたえがないから不審がっているぞ。
ええい、ここは強引にでも!
「おっ?」
カードを手のひらに押しつけると、反射的に握ってくれた。
マッチョ教師はもったいぶったようにゆっくりと引き抜き、カードを確認する。
「なんと!? 何やら神の悪戯かのような不思議な感覚でつかんだカードだが、まさかこの名が記されているとは」
相変わらず大仰に驚いてから、他の二人にカードを見せつけた。
「ハルト・ゼンフィスだと?」
「彼はリーダー枠の箱に入っていると思っていましたが……」
めっちゃ疑われている!
まあ実際、俺ってばリーダー枠の箱に振り分けられてたのよね。
学院長さん、まったく役に立ってなかったじゃないか! と憤慨しても仕方ないので、俺の代わりを攻撃枠の箱の中からテキトーに放り込んでおいたのだ。
ちょっとした沈黙が降りてくる。
ハラハラ見守る中、口を開いたのはベルカム教授だ。
「選定は学院長の意見を反映しつつも、担当官が協議の上で決定される。今年選ばれた者たちがそう判断したのなら、我らは口を挟まず従うのみだ」
おお、いいこと言うね。
どうやらどのタイプかを選定する役の教師たちとは情報共有されていないらしい。厳格な秘密主義が裏目に出たな。俺にとっては僥倖にすぎるが。
そんなわけで。
もう一人をユリヤにしてチームは確定。
こんなところにもはや用はない。
俺は勝利を確信し、聞こえないように防音結界の中で高笑いをしながら、その場を離れるのだった――。