あらかじめ決められたことをするのだから不正ではない
全学なんとか考査の花形であるところの魔法小隊なんちゃら試験――通称『四騎戦』、すなわち四人チームの魔法戦だ。長い。
俺とシャルはこれに出場することになった。
しかしチームは厳正なる抽選で決定するとのこと。むろん、日時や場所、誰が担当するかを含め、学院長を筆頭に数名しか知り得ない極秘中の極秘事項だ。
だがしかぁし!
俺はここ数日、監視結界を学院中に張り巡らせて情報を集めまくった。
そして今日、たった今から、とある教室内でその抽選が行われることをつかんだ俺は、さっそく現場に急行した。
先回りして光学迷彩結界で姿を消しつつ、待ち構えること十五分。
「はっはっは! 筋肉が! 疼きますなあ!」
なんか暑苦しいのが入ってきた。ムキッと力こぶを誇示するポーズで現れたのはタンクトップ体術教師だ。片手にひとつずつ、金属製の箱を持っている。
「今年の一年生は粒ぞろいですから、楽しみですね」
このお爺ちゃんは魔法射撃の精密級を担当していたっけ。同じ金属製の箱をひとつ、大事そうに両手で抱えていた。
「直前になって生きのいい一年が三名も編入してきたしな。アレクセイ・グーベルクが考査の対象でないのは残念だが、貴重なデータはいくつも取れそうだ」
たぶん一番若いのに一番偉そうなこの女の人は、オラちゃんことオラトリア・ベルカム教授だ。そして試験を私物化しようとしてませんかね? こちらも金属製の箱を脇に抱えていた。
しかしアレだな。事前に知ってはいたが、なんて濃い面子だ。
どうやらチーム分けを担当するのは、ハイレベルな授業を受け持つ教授陣から三名が毎年ランダムに選出されるらしい。ティア教授ってたぶん一度も選ばれたことなさそう。
三名である理由は公平を期すため。
一人がくじを引き、もう一人とともに記された名前を確認する。残る一人がチーム名簿に記録していき、それを一回ごとに交代しながら行っていく。
三人の教師たちが持ってきた四つの金属製の箱には、木製カードが入っている。
カードには一枚につき一人、試験対象の生徒の名が記されていた。
なんてこった!
つまりタイプ別の選定はすでに別の教授たちによって終わっていたってことかよ!
などと慌てる俺ではない。もちろん抜かりはないとも。
誰がどのタイプかを分けるのは、この三人とは別の教師が担当していた。違う日時に違う場所での徹底ぶり。
その情報をもつかんでいた俺は今回同様、こっそり選定の場に侵入し、最終決定後に厳重に保管された金属製の箱から俺とシャルのカードを抜いておいたのさ。
今回の抽選で箱の中にある最後の一枚が抜かれたのち、すかさず手元のカードを転移用結界でリーダー枠と攻撃枠の箱の中にそれぞれ送りこめば、俺とシャルは同じチームとして登録されるって寸法よ。
「では、さっそく始めるとするか」
ベルカム教授の掛け声で抽選が始まった。
静かに見守る俺。
作業は淡々と進んでいく。黙々と、厳かに、ときどきマッチョ教師がムキッと筋肉を誇張させるくらいだ。
いやホント暇だなこれ。
しかもカードを引いてから何度も二人で確認し、チーム分けの名簿に記載するときも三人で目視なんてやりやがるから時間がかかるかかる。
ちょっと眠くなってきたな……………………はっ!? いかん一瞬寝てた。
さすがに待っていられない。
俺は早々に切り上げる決意をした――。