学院長との一騎打ち(アドバイザーのみ)
「俺としては純粋に彼の魔法能力を測りたい。彼はまだ一年生だ。リーダーとしての才覚を今この段階で測る必要があるかね?」
テレジア学院長がわずかに眉をひそめた。
「それは貴方個人の願望ですね。さすがに過干渉は控えていただきたいところです」
「私の望みであることは否定しないが、彼のためでもあると確信している」
「……現状、リーダー候補者は数が少なく、無理にそちらに割り振らざるを得ない生徒もいます。ハルト君を外すのは現実的ではありません」
くっ、さすがに手強い。
だが実のところ今の俺は、自身の言葉ではなくアドバイザーの言葉を垂れ流すスピーカーと化しているのだ。
がんばれティア教授!
「いやはや、呆れたものだな」
いきなり煽って大丈夫?
「では遠回しではなく、はっきりと告げよう。そもそも彼をリーダーと考えているのが間違っている」
「なん、ですって……?」
珍しく目つきがきつくなる学院長。これヤバくない?
「彼は個として完成された魔法使いだ。こと戦闘に関しては誰かに頼る必要がまったくないと断言できる。つまりそういった経験が皆無なのだよ」
「ですから、彼にはリーダーとして経験を――」
「まだわからないのか? 必要ないことを強いるのは、彼の将来をつぶしかねないと言っているのだ。すくなくとも回り道をさせることになるだろうな」
「……」
黙ってしまった学院長に、とどめとばかりに言い放つ。
「未来ある少年を枠に嵌めて苦しむ姿を衆目に晒すのが、貴女の言う教育なのかね?」
ヤバいなこいつ。煽りスキルが高すぎる。
学院長は奥歯を噛みしめるような表情になった。
「……わかりました」
おっ?
「ハルト君はその特性を生かすよう、チーム分けの担当教諭には伝えておきます」
マジで学院長が折れたぞ。面と向かわなければこれほど強いとは……。ティア教授、恐るべし。
まあ学院長も『あくまで最終判断は担当の人』ってのは徹底するみたいだな。
でも学院長が『リーダーじゃなくていいよ』と言った以上、結果として『ハルト・ゼンフィスがリーダー枠から外れた』としても学院長が不審に思うことはない。
つまり、担当の誰かがどう判断しようと、俺様不正をし放題! ってわけよ!
ではさらば、との言葉を残しつつ。
一礼して静かに部屋を出て、俺は喜び勇んで安息の地へと急いだ――。
――ところで。
「どうしてシヴァが学院長室に? もうすこし近づかないと会話は聞けないけど、さすがにアタシの存在がバレるわよねぇ……?」
学院長と話している間、周囲を警戒していて気づいた。
廊下の曲がり角から学院長室を窺う、エッチな肉付きをした女教師っぽい誰か。
黒いスーツスタイルでマントを羽織っている。胸はぱっつんぱっつんでボタンが弾けそうだし、タイトスカートからむっちむちの太腿を露わにしていた。
髪色がブロンドで肌も白くなっていてメガネをかけてはいるがどう見てもあの人――ヴァリとかいう女魔人だよな。
実は数日前から学内でこそこそ何かしら嗅ぎまわっているらしいのは知っていた。今のところなんもしてないので泳がせていたのだが……。
シヴァモードの俺が学院長室を飛び出すと、女教師風ヴァリはしばらく迷った様子をみせたあと、学外へ向かった。
たぶんご主人様に報告に行くのだろう。
ちょいと監視結界で追いかけておくか――。