学院長との一騎打ち(アドバイザー付)
「失礼するぞ!」
俺は勢いに任せて学院長室へ舞い戻った。
でも相手は曲がったことが大嫌いレディなので、ちゃんとノックしてお返事を待ってからドアは静かに開けてちゃんと挨拶してドアを閉めたのち振り向きざまに叫んだのだ。
「珍しいお客様ですね。しかし貴方とはじっくりお話もしたかったところですから、訪ねてきてくださって嬉しいです」
にっこり微笑む学院長。
意外にも歓迎されて俺は動揺しそうになるが、それを誤魔化すようにふわりと浮いて空中で座るような姿勢になって脚を組んだ。
「まずはご用件を伺いましょう」
ちょっとドキドキしてきたな。いちおうここへ来るまでに何度も脳内シミュレーションしてきたが、やはり緊張する。
「全学年共通魔法技能考査、という学院行事があるそうだな」
「ええ、毎年恒例のものですが、ご存じありませんでしたか?」
「王都やこの学院には馴染みがなくてね。その行事で、四人チームの対抗戦があると聞いた」
「ハルト君に、ですか?」
早速探りを入れられてるんですけどー? まあ想定内だ。
「直接、ではないがね。彼は俺の監視対象の一人だ。動向は探っている。ま、プライベートに干渉をしない範囲で、だがな」
ふふふ、学院長がちょっと驚いた表情をしているな。
ハルトとシヴァの関係性をあえて誤魔化さず、むしろ興味の対象であると明示すれば二人がイコールで結びつかないよねって寸法よ。これホント大丈夫? ティア教授、信じていいの?
「貴方ほどの魔法の使い手が一目置く……やはりハルト君には底知れぬ才能があるのですね」
よくわからんが誤魔化せた?
俺は褒められたっぽいのにも気を良くし、すらすらと続きを話していく。
「彼の力量を測るうえでもよい機会だと捉えている。ただ現在の競技規定では正しい評価が行えるか疑問もあってね。制約のある中では、彼にはかなり窮屈だろうよ」
「学生同士の対人戦である以上、安全には細心の注意を払わなければなりません」
「ああ、理解している。だからこそ俺は今日、ここに来たのだよ」
学院長が片眉をピクリと動かした。
「貴方が、対応してくださる、と?」
流石に察しがいいね。
「前回の遺跡探索勝負で実績があるから安心だろう?」
あれ? なんかげんなりしてません?
「あのときのように面白可笑しくされては困りますが……今回はそもそも学外にアピールする意図もある、イベント的要素も含まれていましたね」
ふっと息をついた学院長は続ける。
「わかりました。貴方を信頼してお任せすることにします。ただしレギュレーションを具体的にどう変更するかは、貴方の提案内容が実際の運用にどう反映されるかを見極めてから、とさせていただきます」
要は一人一人に防御結界を付与したとして、安全性がどのくらい高いかをちゃんと計ってからねってことやね。
「ああ、もちろんだ」
耳元でアドバイザーが何も言わないので了承を返す。
ひとまず話はこれで終わり、と学院長は考えているだろうがここは畳みかけさせてもらいますよ?
「もうひとつ、いいかな?」
学院長が怪訝そうに眉根を寄せる。「どうぞ」と返されたがなんか身構えてるっぽくない?
「ハルト・ゼンフィス、彼はリーダー枠に分類されているな?」
「そうですね。最終的な判断はチーム分けを担当する教諭がたに委ねていますが、私はそのように推挙しています。彼の能力は多岐にわたり、それぞれで群を抜いていますからね。将来のリーダー候補として当然の分類です」
褒められてくすぐったいが受け入れてはいけない。にしても、最終決定は学院長じゃないのか。
これは期待が膨らむな。
俺は体の内で気合を入れて、続く言葉を紡いでいった――。