ちびっ子メガネは説明好き
学院の隅っこに佇む研究棟に駆けこみ、ちんまい人を探し当てて研究室に突入した。
「どういうことっすか!?」
「なんでわざわざワタシに訊くのかねえ? 学院長に直接尋ねたほうが早いだろうに」
「あの人と話しこむと、それだけ取り返しがつかなくなりそうで」
あっはっは、とティア教授。
「なにわろとんねん」
俺はまったく笑えんのだが?
「ゴメンゴメン。ようやくキミも学院長のなんたるかを感覚レベルでも理解したのだと思うと感慨深くてねえ。うん、いい判断だよ。あのまま食ってかかっていれば、キミは確実にシャル君と一緒のチームにはなれなかったはずだからね」
ティア教授は「まあ落ち着いて話そうか」とお茶を用意し始めた。
俺も心を落ち着かせ、ソファーに座る。
やがて紅茶が運ばれてきた。いい香り~。
「さて、まずは全学年共通魔法技能考査における四騎戦について話そう」
ティア教授は対面に座ってひと口お茶をすすった。
「正式名称は魔法小隊戦想定試験だ。四人一組のチーム戦で、トーナメント方式でトップを競う。生徒同士の戦いだから殺傷レベルの高い魔法は使用禁止。安全にはかなり配慮されているよ。ワタシからすればぬるすぎてやる意味あるの? って感じだけどね」
この人の感想は半分に聞いておくことにしよう。
「扱いの難しい魔法や大魔法を使えるかどうか、みたいなのはこの試験科目では扱わない。それは別の試験科目でやるからね」
またもお茶をすすってから、
「見たいのは〝魔法騎士〟としての能力さ。魔法戦における状況判断やチームの一員としての連携だね。どの魔法をどのタイミングでどれほどの速度でどれだけの数を発動するか。リーダーの指示は的確か、明確か、過不足ないか。チームメイトはそれぞれ役割や指示を理解しているか、それに合わせた動きができているか、などなどなどなどなどなどなど」
「多いっすね」
「いずれ軍の中心で王国に貢献すべき者たちの、総合力を測るがゆえさ。だからこそ一番人気で『花形』と呼ばれている」
要するに面倒臭いってことか。
「要するにキミにはまったく向いてない試験ってことだよ」
「ひどい」
まあ聞けば聞くほど引きこもりには無理ゲーだとわかる。
「べつに悪い意味じゃないよ。キミは単体で完成されすぎているからね。無理にチームを組んでも他の連中は足手まといにすらならない。せいぜい案山子がいいところだね」
それもまたひどい言い草だ。ホントにこの女教師は人の心が足りてないな。
てか、そろそろ俺とシャルがチームを組めない理由を教えてほしい。
「さて、前提は飽き飽きみたいな顔をしているから本題に入ろう」
だから心を読まないで。
「チームは抽選によって決まる。ただし完全にランダムで選出するわけでもない」
ティア教授はひと呼吸置いてから続けた。
「魔法使いには中・長距離魔法を得意とする者や支援に特化した者、中には前線に突っこむ特異なタイプと様々だ。さらにはそれらの複数か全部乗せの万能型もいる」
「ふむふむ、つまりまずはそのタイプ別に振り分けて、そこからバランスよく四人を選ぶってわけですか」
「そ。キミは順序立てて話すと理解が早くて助かるね」
つまり順序立てないと突っ走っちゃう、と。悪かったな。
「突っ走るのもまたキミのよさのひとつだとは思うけどね」
また俺、顔に出ちゃってましたかあ?
「さて、チーム戦である以上、まずはリーダーを決めなければならない。基本的には万能型が選ばれるけれど、この辺りは魔法以外の資質も考慮されるから一概には言えないかな。次に支援タイプも一人だけ選ばれる」
これで二人が決まるわけだな。
「残る二人は純然たる攻撃担当だ。中・長距離型と近接型をごちゃまぜにして、二人を選出する」
中・長距離型と近接型でバランスが悪くなる可能性もあるが、これは実戦でも大いにあり得るとして許容されるようだ。
しかし説明長いな。
俺はずずっとお茶をすすって眠気を誤魔化した――。