アドバイザーは仕事して?
「それでは、ハルト君も四騎戦に登録することでよろしいでしょうか?」
面倒臭いが妹のためだ。
「ええ、構いませんよ」
ややカッコつけて言ってみたところ。
「ハルトも出るの? ならわたしも。わたしも出たい!」
謎の美少女留学生が跳ねるように立ち上がってアピールする。
「……オレも出る」
謎の留学生の片割れ君もぼそりとつぶやくも、誰も聞いてなさそう。もうちょっとお腹から声出そ?
「貴方がたは本校に来たばかりで――」
「えー? ダメなの?」
「ダメ、ということはないのですけれど……」
「なら決定ね♪」
きゅるんって擬音が聞こえてきそうなほど、あざとく俺にウィンクを寄越す謎の美少女留学生……長いな。ユリヤだったっけ?
「でもチームはどうしようかしら? ハルトと一緒が楽しそうだけれど、対戦してみたい気持ちもあるし……」
うーん、とうなりつつぐるりと顔を巡らせたユリヤが視線を止めた先。
我が最高にカワイイ妹にパッと笑みを咲かせたかと思うと。
「ねえシャルロッテ、一緒のチームになりましょうよ」
隣に座るシャルの手を取った。
「ぇ、ぁ、その……」
わりと社交的というか物おじしないシャルがちょっと緊張している。というか、辺境伯の娘にして最年少で編入してきたシャルに対し、ここまでぐいぐいくる奴は珍しいのかもしれん。
いや、待てよ? この手のタイプってたしか身近にいたような……。
「今日出会ったばかりだけれど、あなたとはとても気が合いそうな気がするの」
「ふぇ? は、はい! わたくしも、なんだか他人の気がしません!」
手を握り返し、らんらんと目を輝かせるシャルロッテちゃん。
見える、見えるぞ。
この屈託なく距離感がバグった感じ。
我らがお母ちゃんナタリア・ゼンフィスと重なる!
「イリスって子も面白そうだったわね。彼女にも声をかけてみたいわ」
「イリスさんは兄上さまやわたくしと同じ研究室ですよ」
「そうなの? わたしも行ってみたい。ねえシャルロッテ、お邪魔していいかしら」
「もちろん構いません! 指導教官のティア教授も楽しい方ですから、ユリヤさんもきっと気に入りますよ」
「あはっ♪ 楽しみ~♪」
すっかり意気投合した二人は、転入したてのユリヤにシャルが学内を案内するという流れにもなり、
「それじゃあテレジア、またね」
「学院長さま、失礼します」
そろって出ていった。
しれっと後を追うもう一人の転校生の襟首をむんずとつかむ。振り返らずに奴は言う。
「なんだ?」
「シャルになんかしたら許さんぞ」
「他者を傷つけるなと命じられている。ユリヤに危害が及ばない限り、オレは手出ししない」
命じられてるって誰に? ユリヤ? それともお父さんとかそんな感じ? いずれにせよ、なんかよーわからん関係性だな。
「ならいい」
襟首から手を離すと、これまた振り返らずにそいつは出ていった。
ま、いちおうシャルには防御結界を何重にもかけているし、どこまでもドアの起点も刻んでいる。
俺のカワイイ妹になんかあったらすぐさま飛んで行って連中を謎時空に飛ばしてやるぞ!
と意気込んだところで、よくよく考えたら俺もここにはもう用がないことに気づく。
「では俺も」
カッコつけてみたものの、なんか締まらないね。
回れ右して足を前に出そうとしたときだ。
「ハルト君」
呼び止められたので再びの回れ右。ホント締まらないなあ。
「なんっすか?」
学院長はなんだか難しい顔をしていらっしゃる。
「もしかして……と言いますか、ほぼ確実に誤解しているようですから指摘しておきます」
え、なんなのこの空気。
ドキドキする中、もったいぶる素振りも見せずに学院長はのたまった。
「貴方とシャルロッテさんは一緒のチームになれませんよ?」
耳元で、まったく使えないアドバイザーがケラケラ笑っていた――。