学院行事に参加せよ
「で? 俺になんの用っすか?」
妹の前で怠慢を叱りつけようってんなら速攻で帰る所存。
学院長は淡々と告げる。
「ハルト・ゼンフィス君、もう貴方だけですよ? 登録を済ませていないのは」
「登録?」
はあ、とこれみよがしにため息を吐き出す学院長。教育者としてどうなのか。
「やはり知らなかったのですね。ルセイヤンネル教授も知っていながらわざと伝えなかったのでしょうか」
困ったものです、と肩を落とす。
「だから登録とは?」
俺の問いに、ソファーに座る天使みたいな可愛い子がずびしっと手を挙げた。むろん得体の知れない留学生ではない。
どうぞ、と促されて愛らしい声を張り上げる。
「全学年共通魔法技能考査ですね!」
あー、アレね。ほら、アレよアレ……あれ?
記憶をまさぐるも、なんも出てこない。
「何それ?」
正直に訊いてみた。
元気よく答えたのは我が妹だ。
「毎年秋の始まりに行われる、その名が示すとおり全学年が共通の課題からひとつを選択して実施される試験のことで――」
ふむふむ。
研究室に所属する博士コースでは日頃の研究成果を、騎士コースなら日々の鍛錬によってどれだけ魔法力が上がったかをひけらかす場であるらしい。
当日は貴族院のお偉いさんだとか宮廷魔法師を管轄する上の方々が値踏みしに来るそうな。
「ハルト君の場合は研究室所属ですが、魔法技能においても優秀な成績であるため、どちらのコースでも構いません」
ぶっちゃけどっちも嫌だ。
が、やるなら研究発表かな。なんもやってないけど、ティア教授に頼めば各種データを捏造して研究成果をでっちあげるのはたやすい、はず。
『わかるよ、またワタシに無茶振りしようと考えているね?』
なんか耳元で聞こえてくるが無視。
ちな学院長に呼ばれたので研究棟を出る前にアドバイザーをね、念のためにね。
「そういや、シャルは何に出るんだ?」
こいつはつい最近編入したばかりだからなんもやんなくていいのかな?
「わたくしは『四騎戦』にエントリーしています」
「よんきせん……?」
聞けば、四人でひとチームを組んで行われる魔法戦らしい。
魔法技能を披露するのにチーム戦なんてやるの? との疑問が顔に出ていたのか、学院長が説明してくれる。
「騎士コースの生徒たちは将来、まさしく騎士となって国に貢献することを期待されていますからね。そして有事の際は単騎ではなく、味方と連携して事に当たるのが重要となります」
なので、四騎戦とやらは花形競技となっているらしい。
となると当然、学院の猛者たちが大集合するわけだ。けっこう危なくない? シャルちゃん大丈夫かな?
なんとなく心配になってしまったので。
「じゃあ、俺もそれにしようかな?」
とたん、緊張が走った。といってもシャルからだけなんだけど……なにゆえ?
「ぉ、おぉ……、兄上さまが参戦となれば、わたくしもいっそう気を引き締めなければなりませんね……」
そこまで気張らんでも、前に遺跡探索したときみたいに楽に行こうぜ。
どのみち俺は同じチームでシャルのサポートに回り、こいつの優秀さをアッピルするという方針そのままに立ち回るのだしね。
安心安心。
このとき俺はただただ余裕ぶっこいていた――。