謎の留学生たちはなんとなく優秀
呼び出されて来てみれば、学院長室に見知らぬ男女がおりました。
謎の美少女ちゃんを指差したところ、彼女とそっくりな顔した男子生徒が割って入る。
「王国では、無遠慮に他者を指差してよいのか?」
声まで美少女ちゃんにそっくりなのかよ。口調はぜんぜん違うけども。
「魔法行使につながる疑いがある以上、帝国では禁忌される行為なのだがな」
帝国? って、昔ギーゼロッテと組んで父さんたちに悪さしてきた奴らか。なんでここで出てくるんだ? まあいっか。
「そいつは悪かった。けど魔法を使うかどうかなんて見りゃわかるだろ」
なぜだろう? いつもの俺なら絶対しないようなことを、している気がする。
理由は、アレか。
こいつの金色の瞳だ。
敵意とか悪意とか、そんなのを感じるような感性が俺にはない。でもキョドって殺気から逃れようとしたなら――
「兄上さま?」
なんでか付いてきちゃってた、俺の後ろにいるシャルロッテに突き刺さりかねない。それは絶対に避けなければならないと、俺の中の何かが警笛を鳴らしていた。
一方で妹の前だから、不意打ち一閃とばかりにさくっと謎時空に飛ばしちゃえってのも難しい。学院長もいるから無理ゲー。
どうしたものか? と。
「ウラニス、邪魔しないで♪」
緊張感のまるでない弾んだ声音に、ウラニスと呼ばれた男子生徒は表情も変えずにすっと横に身をずらした。
再び俺の前に姿を現した美少女は相変わらずのニコニコ顔。
逆に怖いんですけどぉ?
「また挨拶を忘れていたわ。わたしはユリヤ・マルティエナよ。今日からこの学院に留学してきたの。あなたと同じ一年生、でも歳は十二だからちょっと下かな? よろしくね♪」
何事もなかったかのように自己紹介を始めた美少女あらためユリヤさん。
ちらりと彼女の横に目をやれば。
人形のように佇む男子生徒がいる。
「そっちはウラニス。外見はわたしとそっくりだけど、性格は見てのとおり正反対……ってわけでもないかな? ただ真面目すぎるのよね」
満面の笑みでわりと雑な紹介をするも、やはりウラニスとやらは表情を変えない。
双子、なんだろうか? 男女なら二卵性なのでそんなに似ないって聞くけど……まあ気にしないでおこう。
「ユリヤ・マルティエナさん、そこまでにしていただけますか」
呆れたような声に目を向ければ、そこにはやはり呆れ顔の学院長がいた。
「先約はハルト君なのです。こちらの用事が済むまで大人しくしていただけますか」
どうやらこの二人組がここにいたのは、俺の呼び出しに割りこんだからのようだ。
「むぅ、仕方ないわね。それじゃハルト、またあとでね」
謎の留学生ユリヤさんはぱちりとウィンクして部屋の隅にあるソファーに――って出ていかんのかーい!
ばふっと座ってニコニコとこちらを眺める彼女はあろうことか、
「シャルロッテ、こっちにきてすこし話さない? さっきの続き」
我が妹を馴れ馴れしくも呼びつけやが……って、続き? さっきの?
シャルちゃんはすぐには応えず俺に目をやり、『大丈夫ですよ』とばかりに微笑むと、ユリヤのところへ向かった。
「今は兄上さまと学院長がお話をされるので、わたくしたちは後ほどでもいいですか?」
「そう? まあ、あちらの話にも興味があるし、まずは大人しく聞いていようかしら」
どうやら面識があるみたいだし、そのときに警報が俺に届いていないなら危険はないか。同じ部屋にいるなら何かあってもすぐ対処できるし。
とはいえ気になるウラニス少年。
ユリヤの座るソファーの後ろで、虚空だか壁だかどこ見てるのか怪しいくらいぼーっとしている。なんやのん。
しかしこいつら、ホントに似てるな。
容姿だけじゃない。
二人そろって魔法レベルは24/48。属性は高い順に闇、火、風、土の『上級四属性』か。たぶんこれ、めっちゃ優秀だよな。最大魔法レベルは閃光姫より高いし。
まあ脅威ってほどではない。シャルのが断然ポテンシャルは上ですし? うちの妹の方がすごいってことですから!
とはいえ警戒を密にしつつ、シャルを視界の端に捉えながら俺は学院長に向き直った――。