運命の出会いはそれほど劇的でなかったりするかもしれない
不可解な事件が起こるとき、魔神復活を可能とする秘密カードが姿を現す。
あるときは深い森にある山荘で。
またあるときは王都の近くを流れる川で。
さらにあるときは外界から閉ざされた修道院で。
初回の某貴族所有の邸内、夜霧に出没する露出魔に続き、シャルロッテたちは不思議な事件の情報をつかむたび、あちこちに出向いて騒ぎを起こ――難事件を解決してきた。
(ええ、とくに川面を疾走する幽霊船とのカーチェイスならぬシップチェイス? は緊迫感にあふれていました)
鼻歌交じりに、跳ねるように、学内の廊下をシャルロッテは歩いていく。
日々が充実している彼女はいつも気分がいい。けれどいつも以上に気分がいいのは、目下の最優先課題が順調に消化できているからだ。
(一昨日、イリスさんが育った修道院でゲットした右腕のカードで五枚目。残るは左腕と頭部の二枚ですね)
魔神復活を阻止するために必要な七枚の不思議なカード――仮称『ルシフェル・カード』。
今のところすべて自陣営が入手している。
あまりに順調。
順調であるがゆえに、不安もあった。
(魔神さんたちがこの状況を放置するはずがありません。起死回生、一発大逆転を狙ってなにか仕掛けてくるかもしれませんね。いえ、きっと仕掛けてくるはずです!)
身が引き締まる思いと共に、形容しがたい高揚が湧き起こってきた。
しかしながらもうひとつ、寂寞にも似た思いもまた、裡に燻るのを自覚していた。
(魔法少女には、互いに切磋琢磨して高め合える存在が必ずいます。でもわたくしには……)
仲間はいる。
イリスフィリアやマリアンヌ、フレイやリザ。なにより兄ハルトの存在は極めて心強くある。
けれど対等な――仲間でありながらライバルでもある、そんな関係の誰かは今のところいなかった。
要するに、魔法少女仲間が欲しいのだ。
とはいえ、そう簡単に見つかるものでもない。以前、リザにお願いしたことがあった。断られはしなかったものの、リザはとても恥ずかしそうにしていたのを思い出す。
(やっぱりみなさん、魔法少女スタイルは好みでないのでしょうか?)
歩みが緩んだところで、シャルロッテを呼び止める声がした。
「シャル、いいところで会ったよ」
長い銀髪を後ろでひとつに結び、馬の尻尾のように揺らして駆けてくる女子生徒――イリスフィリアだ。
「イリスさん、わたくしに何かご用ですか?」
「正確に言えば君にではなくハルトに、なのだけれどね。さっきベルカム教諭に声をかけられて、『ハルト・ゼンフィスに至急学院長室に来るよう伝えてほしい』と頼まれたんだ」
「兄上さま、ですか」
「うん。でもボクはこれから配達のアルバイトがあって急いでいてね。申し訳ないけれどハルトを見つけたら伝えてもらえないかな」
ハルトはおそらくティア教授の研究棟――から転移した先にある湖畔のログハウスにいるだろう。
イリスフィリアも研究棟へ向かっていた様子だが、そこまでも距離はある。急ぎの用事がある彼女は困っていたに違いなかった。
「わかりました。ちょうどわたくしもティア教授の研究棟に向かうところですので、兄上さまに伝えておきますね」
本来なら通信魔法で伝えるべきだろうが、ハルトに会いたい衝動が勝った。仮に不在ならそのとき通信魔法で伝えればいい。
「ありがとう、助かるよ」
では、と互いに会釈して、シャルロッテは踵を返して駆け出した、そのときだ。
「危ない! シャル避けて!」
「わわわっ!」
シャルロッテは曲がり角から現れた人影にぶつかりそうになった。とっさにふわりと浮き上がり、身を捩ってひらりと避ける。
すちゃっと着地。
「ふぅ、危なかったです……」
イリスフィリアが注意してくれなければぶつかっていただろう。安堵したものの、きっと相手も驚かせてしまったに違いない。
振り向き、謝罪すべく声を出そうとしたところで。
「すごいわ!」
「はへ?」
きゃっきゃとはしゃぐ声音が鈴の音のような、天真爛漫な美少女がいた。
「今あなた、飛んだわよね? 跳ねたのではなくて、飛んだ、飛んだわ!」
ぱっと見は自分と同じくらいの年齢だろうか、とシャルロッテは考える。
長い銀髪が一部後ろで結ばれたハーフアップ。金色の瞳をらんらんと輝かせてまっすぐにこちらを見つめていた。学院の制服を着ているがその容姿に見覚えはない。
ところで、ぴょんぴょん跳ねるたびにぼよんぼよんと揺れる胸元のそれは、もしかしてフレイと同じくらいではないだろうか?
同い年、くらい……?
シャルロッテは自らの胸元に手を当てて訝った――。