巨大な敵を相手にするならコレ
「大きいねえ、コレ。ドラゴンの成体ほどはあるんじゃないかな?」
暗闇に浮かぶ巨大な影。
暗視ゴーグル的な結界を介して映し出された映像には、広大な洞窟内に珍獣もといバカでかい魔物が佇んでいた。
体はごりごりマッチョな人のそれ、しかし頭は獅子っぽい何かで、うねっとした雄々しい角が二本生えている。鱗のある竜みたいな尻尾を生やし、よくよく見れば下半身は馬だか鹿だかの後ろ脚になっていた。
「なんすかコレ?」
ここはティア教授の研究室。今は二人きりなので俺はシヴァモードにはなっていない。
「うーん…………魔神に、巨大な魔物、か。ちょっと待っておくれ」
ティア教授はあちこちを駆け回りながら、そこらに落ちていた本を広げてさらっと目を通しては放り投げていく。もっと大切に扱お?
「あ! あった。これだね」
ちょこちょこと駆けてきて、得意満面で小汚い本を俺に掲げて見せる。
「この本は古い文献をいくつか読み解いてつなぎ合わせ、独自見解を記したものでね。一次資料にはついぞ辿り着けなかったし、分析自体がかなり雑だったから記憶の隅に追いやっていたんだけど……ほら、ここのところを読んでみて」
読む。
小難しい言い回しが多用されていてよくわからんのだけど……ひとつ、気になる単語が。
「合成魔獣?」
「古代の神々――と呼ばれていた超常生命体が造り上げた魔物の総称、だね。既存の魔物を改造、さらには複数の魔物をまさしく合成させて強力な魔の生物を造ったらしい、と書かれているね」
「なるほど。要するに『キマイラ』ってやつですか」
「キミはよくワタシの知らない言葉を使うよね。それって何さ?」
だから複数の獣の合成体ですが? ゲームとかファンタジーアニメによく出てくるでしょ。
などと言っても通じないのでさくっと話を戻そう。
「でもティア教授、合成体にしてはでかすぎないっすか?」
ドラゴンとかバカでかいのをつなぎ合わせるならわかるけど、ぱっと見でそれほど大きくない魔物が組み合わさっている気がする。
「後半部分は読んだかい? 〝神〟なんて超常の存在が造り上げる過程で、その妙ちきりんな魔力がなんやかや作用して巨大化するんだそうだよ。それ以外に何も書いてないところからこの本の著者はそもそも分析というか思考実験すら放棄して妄想を垂れ流しているだけで――」
なんかヒートアップしているティア教授はしばらく放っておき、俺は『現物』を分析することにした。
ふふふ、遠隔からでも俺特製の『ミージャの水晶(改)』は使えるのだよ。
「魔法レベルは68ありますね」
「うぇ!? それもう魔王クラスじゃないか。いやあっちはもっとすごかったらしいけど……」
なんかやる気なくてギーゼロッテ率いる人類に敗れたとかなんとか。
それはさておき。
ぶっちゃけドラゴン形態のリザや、フェンリル形態のフレイより強い。最大魔法レベルならどっちも70超えてるけど、現在魔法レベルは60に達してないので。
ただ逆に言えば、二人が本気出して連携して戦えばたぶん勝てる。
俺も遠くから応援もとい各種ヘンテコ結界で援護すれば、きっと。
ティア教授が珍しく真面目な顔で、
「こんなのが王都で暴れたら尋常じゃないくらいの被害が出るね。まだ稼働していない今のうちに何か手を打たないと……」
とても意外なことに真っ当なことを言った。『解剖ーっ!』とか嬉々としてやりそうなのになあ。
「それはそれとしてできれば解剖とかしてみたい!」
やっぱこういう人だよね。安心した。
「でもまあ、確かにこんなのを実戦投入されたらたまったもんじゃないんですけど……」
んなこと言ったらそもそも魔神と遊んでいる現状からして異常なのだ。
あいつの魔法レベル諸々はいまだにわからんし。このでかい珍獣より強いんだよな?
でも、うーん……。
「またよからぬことを考えていないかい?」
マッドなちびっ子教授が安定のおまいう発言。
「よからぬことと言うか、これはチャンスなのではないかと」
「ほう?」
その心は? とティア教授が目をらんらんと輝かせて身を乗り出す。
驚異的な強さを誇る、巨大な合成魔獣。
現在進行中の、魔神勢力とのカード争奪戦。
こいつが今後投入されるのは確実だ。
であれば正義の魔法少女陣営が対抗する策としては、アレしかなくね?
「巨大ロボ……」
「は?」
いや、うん。
魔法少女じゃなくて、その前後で放映される戦隊モノの定番なんだけど、シャルはそっちもカバーしてるのでね。
俺はさっそく資料集めに走った――。