カードをゲット! その勝者は――
見るからに怪しい宝箱は魔物っぽい何かだった。
食いつかれた魔人ヴァリは憤慨する。
「ええい! なんなのよこいつはぁ! 離しな……さい!」
腕をガジガジしていた宝箱に、下から強烈な蹴りを食らわせた。
ぽんっ、と気の抜けた音を出し、宝箱が煙と共に消え去ると。
「ちっちゃいのが出てきました!」
手のひらサイズの宝箱が地面に落ちた。
「こ、今度はなんだってのよ……」
ヴァリは警戒の眼差しを向けるも、小さな宝箱は転がったままだ。
「サイズ的にカードがぴったり収まりそうですね」
シャルロッテがほんわかと核心をつく。
とたん、みなの目の色が変わった。
「つまりコレがぁ――」
「させるかよ!」
ヴァリが手を伸ばしたその先――小さな宝箱目がけて石つぶてをライアスが放つ。
小石は狙いを違わず、宝箱を弾き飛ばした。
「よくやった、と言いたいところだけど」イリスは気まずそうに、
「中身まで破壊する危険がありましたよ」マリアンヌは呆れたように、
「むしろ箱が開いて中身をまんまと取られていたかもしれませんね」シャルロッテは屈託ない笑みを浮かべた。
「結果オーライだろ!」
涙目になりかけたライアスは横に置き。
シャルロッテがステッキを振るうと、風が渦を成し、小さな宝箱が舞い上がった。
「ああ、もう! ホンット、ムカつくわぁ!」
赤い瞳がぎろりと上へ向けられる。
このときシャルロッテを含め、みなの意識は宝箱へ集まっていた。
ヴァリに奪われてはならないと、そのために何をすべきかに集中していたのだ。
しかしヴァリの視線は旋風に舞う小箱にではなく――。
「隙だらけだってーの!」
片腕が数倍に膨れ上がった。引き絞り、撃ち出したこぶしから特大の黒い砲弾が放たれる。
まっすぐに、シャルロッテへ向かって。
ヴァリは口の端を持ち上げた。
相手は完全に不意を突かれ、防御も回避も間に合わないと確信する。
元よりカード集めは手段であり、目的は『シヴァを生んだ魔神と思しき少女の殺害』だ。
あのふざけた衣装にどれだけの防御力が備わっているかを測るだけでも意味はある。
黒い砲弾が少女へと突き進む最中。
キィン、と。
涼やかでありながらも脳を刺すような音が聞こえた。
シャルロッテの前に立ちふさがるように、彼女の身長ほどの円形魔法陣が現れる。
しかし暗黒の砲弾を受け止めたものの、ガラスのごとく砕け散った。
(はんっ、あの程度――)
シヴァとやらの力も大したことはない、とヴァリがほくそ笑んだ直後。
「なっ!?」
もう一枚、同じような円形魔法陣が進路をふさいだ。
が、これまた受け止めきれずに瓦解する。
ホッとしたのも束の間。
「ッ!?」
またも現れる円形魔法陣。
しかもよくよく見れば四枚目、五枚目と、砕けたものを合わせて七つが砲弾の射線上に並んでいた。
「驚きました」
シャルロッテが真剣な眼差しで告げる。
「あにう、じゃなかった、シヴァの自動防御システム『七熾天使の護り』の二枚をも破壊するとは」
黒い砲弾は三つ目に防がれ、消滅していた。
「冗談、じゃないわ……」
砕いた円形魔法陣は確かに強固な防御力を備えていた。それを破壊できるほどの威力だとの自負があり、実際に突破して見せたのだ。
だが、三枚目は違う。
先の二枚で威力が減衰したのを考慮しても、消え去ったのはどういう理屈なのか?
(受け止めたんじゃないわ。アレは、吸い込まれたのよ)
転移魔法の応用か、あるいは別の何かなのか。
いずれにせよ、あんなものが自動で発動するならシャルロッテにはどんな攻撃であろうと届かない。
仮に突破できたとしても、残る四枚はそれ以上の護りに違いないのだ。
放心。
ヴァリのそれはわずかな時間だったが、この場、この瞬間においては致命的と言えた。
「イリスさん、パスですよ!」
小さな宝箱に風が絡み、ぴゅーっとイリスフィリアの下へ。
「おのれ!」
ヴァリが鋭く睨むも、
「マリアンヌ!」
受け取るやすぐさま横へ放った。
「ライアス、どうぞ」
さらに小宝箱はライアスの手に渡り、
「任された! んじゃ魔人の女、あばよ」
なんとなく小者臭を漂わせながら、ライアスは脱兎のごとくその場を離脱する。
「くっ、逃がすか――ッ!?」
当然ヴァリはライアスを追いかけようとするも、上空と側面から魔法弾を浴びせられ、さらに煙幕で視界も奪われてしまい――。
「う、嘘でしょ……? アタシが、あんなガキンちょどもに……」
まんまと目的の宝を持ち去られ、ただの一人も殺せずに逃げられてしまうなど。
「ルシファイラ様に、なんて報告したら……」
告げたとたんに殺されるのは、まだいい。
敬愛する主に醜態を告げなければならない屈辱に、ヴァリは体の内を掻きむしられるようだった。
――が、しかし。
「ん? なに、アレ……?」
茂みの中に、夜なのにきらりと光る小さな宝箱。
まさか、と疑いつつも駆け寄って拾い上げる。
開けたら『ハズレ』なんてものが出てくるのでは? 疑念たっぷりに開いてみると。
「ふ、ふふふふ、あはははっ!」
黄金に輝く金属製のカードが入っていた。シンプルな文様に『6』の数字が刻まれている。
「このあふれるほどの魔力……こっちが本物に違いないわ!」
先に現れた小さな宝箱は偽物であったに違いない。
今ごろシャルロッテたちはさぞ悔しがっているだろう。
ひとまずこのカードが、真に主が求めるものか確認すべきとヴァリは考えた。
黄金のカードを胸の谷間に押しこんで、ふわりと浮き上がる。
「次もアタシがいただくわ!」
哄笑を上げながら、ヴァリは夜空の向こうへと消えるのだった――。
一方、シャルロッテたちは。
「金色のカード、ゲットですね!」
こちらも『金色で金属質のなんか模様があって数字の6が刻まれたカード』を手に入れていた――。