外向けキャメロット、その名はクロノス
ナンバーズとの戦いに勝利して彼らを取りこみ、意気軒高なシャルちゃんたちは魔神との最終決戦に向かうぞがんばるぞ、というのが前回までの超簡素なあらすじ。
静かな湖畔にある円卓で、いつもの面子が集っていた。
しかし普段とは趣が異なる。
メジェド様がいっぱいだった。
白い布で全身を覆い、目のところだけくり抜いて、額にはそれぞれ好きな数字が記されている。
てか『7』が三つも被ってるんですけどそれは……。
ともあれ、俺だけ真っ黒な出で立ちなので気が引けてしまうな。
「それでは新生キャメロット――今回はリモートでの参加者がいらっしゃいますので、外向けの仮称『クロノス』の円卓会議を始めます」
額に『1』と書いたシャルが厳かに告げる。
我が妹の言葉のとおり、今回はシヴァの通信用結界でお一人部外者を招いての会合だ。
虚空に浮かぶ画面には、『1』の人ことアレクセイ・グーベルク先輩がとんがり頭巾を被って映っていた。
最初ということもあり、ナンバーズの他の面々は参加せず、代表者一人だけらしい。
『わざわざ正体を隠す意味があるのかな? いや、どう見ても人ならざる者が通信魔法具の端に映っているので隠したい気持ちは理解できなくはないが……』
ギガンですねわかります。
巨大な仏像の除幕式前みたいになってるよな。
「かたちは大事です。様式美を疎かにしてはいけないとわたくしは思いますので」
『ナンバーズは〝みな対等であるべし〟との理念の下に数字で呼び合っていたが、君たちには明確な序列があるように思える。覆面を被り、数字で……というか『7』が被っているから本当に意味がないのでは?』
やはりそこに気づいたか。さすがアレクセイ先輩。
「ともかく! です! わたくしたちとナンバーズの皆さんはあたかも河原で夕日を背景に殴り合いをしたあとの清々しく美しい友情が芽生えた感じで手を取り合うことになりました。ともに! 巨大な悪に打ち勝つために!」
『……』
アレクセイ先輩は呆れたような悲しそうな複雑な表情だ。覆面をしててもわかるよ。
「では、巨大な悪とは何か? そう、魔神復活を企む悪の巨大組織! だと思っていたのですけど、状況はより深刻に推移しているようですね」
「と、いうと?」
メジェドナンバー『13』の人が問う。
この『時間の神的にどうなの? 24時間表記でおけ?』という妙なチョイスをしたのは妙な女であるところのティア教授だ。
「わたくしたちの対決の場に魔人が二体現れました。これもう、魔神さんは復活しているのではないでしょうか?」
相変わらずシャルちゃんは核心を突きまくってくるなあ。
「魔神が復活してるなら直接出向いてこないかな?」
ぼそりと告げたのはメジェド『4』、リザだ。
「ラスボスは座して待ち構えるがゆえにラスボスなのです。そもそも神の字を抱くほどの方が直接手を下すとは考えにくいですね。またあれほどの力を持つ眷属を二体も生み出したところから、その悪の力を大いに行使できる状況にはあると思います」
なるほどー、と何人かがうなずく。
『……』
アレクセイ先輩は何か言いたげではあるが、言わない。
なぜなら、事前に俺との協議で口を閉ざすよう合意に至っているからだ。
魔神的何かが憑依したっぽい彼に、俺はわけわからんのが嫌なので接触してあれこれ聞いてみた。
なるほど、びっくり。
魔神ルシファイラの本体は王妃ギーゼロッテの体を乗っ取っているそうな。
まだ完全ではないらしいが、これからいろいろ悪さをするかもしれないとのこと。
一方でギーゼロッテに首輪をつけ、これまで散々(意図したわけではないが)邪魔しまくった俺を警戒しているそうです。
シャルに『王妃、魔神になったってよ』などと言おうものならどうなるか?
『さすがは兄上さまですねー。わたくしたちが何もしなくても解決してしまうに違いありませんー』(棒)
目からハイライトを消した我が天使を誰が見たいというのか。
今回もまた、俺は黒子に徹してシャルに楽しんでもらいたいと思う。
というわけで、いろいろ考えております、はい。
額に『0』のメジェド様(フレイ)が応じる。
「敵が定まっているのなら遠慮はいらんな。さっそくギッタンギッタンにしてやろう!」
「でも、まだ魔神さんがどこにいるのか、その姿かたちも定かではありません」
シャルの言葉に、『10』の人――イリスが深刻そうに言う。
「ボクたちは後手後手に回らざるを得ないね。あちらからのアクションに対処しつつ、情報を集めないと」
「んーな面倒なことやってられないぞ」と『7』の一人、ライアス。
「あちらは明確に私たちを狙っていました。常に警戒し続けるのも疲弊するだけですね……」
マリアンヌ王女が『8』を選んだ理由は知らない。他のメンバーもそうだけど。
「正義の味方とはそういうものです。あちらが小出しする悪だくみをひとつひとつ潰しながら中ボスに苦戦しつつもパワーアップし、ラスボスを討ち滅ぼすのですよ」
アニメとか特撮ヒーローモノではそうよね。数話で終わったらマズいからね。
ただ現実は非情だ。
魔神がご丁寧にそんな『お約束』を守ってくれるとは……………………ん?
敵の素性を俺はもう知っている。
しかも俺が生殺与奪の権利を握っているギーゼロッテだ。
ひと声かけて釘を刺せば、こちらの思惑通りに進めることだってできるのでは?
守らないなら、守らせればいいじゃない。そんな感じ。
まあ、相手は魔神とかいう神様的な何かだ。きっと強い。でもまだ完全復活には至っていないはず(楽観的予想)。
ラスボスがギーゼロッテってのも、ちょいと問題があるのよね。
ひとまず俺はとある確認をすべく、辺境伯のお城――父さんのところへ向かった――。