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実は俺、最強でした?  作者: すみもりさい
第六章:学院引きこもりライフ
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やっぱり弱い魔人さん


 妙なドアをくぐったら、そこは雲の上だった。


 さらに奇妙なことに、


(あれは……床?)


 訝るムルザラの視線の先には、格子状の模様が入った白く円形の巨大な床が浮いている。

 そこにぽつんと置かれたひとつのドアから、ひょいと全身黒ずくめの人物が姿を現した。


「けっ、転移魔法かよ。妙な魔法具を使いやがって」


 同じく転移させられた(・・・・・)ウリムが、空中で体勢を整えぎろりと睨む。


「けど場所を移したからなんだってんだ。オレらを一人で相手するつもりか? 舐められたもんだぜ!」


 そう、舐めている。

 転移に困惑するその隙をつきもせず、あえて正々堂々と戦いの場を設けたのだから。


「なに、君たちと戦う様を楽しみに待っているちびっ子がいるのでね。ちょっと卑怯なとこ見せられないんだよなぁ……」


 後半は小声になったものの、ムルザラは聞き逃さなかった。しかし意味はわからないし、真面目には受け取れない。


(あのオルセが簡単に倒された。うん、アレは無理。勝てない)


 かつて音信不通となったメルキュメーネスを始末するため派遣された魔人、オルセ。

 強襲・殲滅に特化した彼が為す術なくやられた相手。

 けれど――。


(黒い戦士、シヴァ……。その力を、すべて暴いてやる)


 ムルザラは長く伸ばした四つの腕の手のひらに魔力を集める。黒い霧上のものが渦を巻き、球形に収束した。


 めきめきと腕に力をこめ、思いきり投げつける。

 黒い球体はうなりをあげてシヴァへと襲いかかった。


「ほう? 面白い。野球はやったことないが、その剛速球を打ち砕く!」


 何やら意味不明なことを言って、シヴァは半身に構えた。

 その手に、木の棒らしきを握りしめ、


 カキーンッ!


 あり得ない音が鳴った。

 棒を振ったと思ったら、これまたあり得ない感じで黒弾のひとつが弾き飛ばされる。


「まだまだぁ!」


 ささっと移動し、黒弾のひとつを待ち受ける。


 またもカキーンッと心地よい音色を響かせて、黒弾は空高く舞い上がった。


(接触した瞬間の音を消し、別の音を発生させた。あたしの魔法球が破壊されないよう結界で保護して飛ばしてる、か)


 ムルザラは彼が持つ木の棒にも注目する。


(あれも結界で作ったものか。床もそうだけど、なんの意味が?)


 わざわざ形状を棒型にする必要性が見えてこない。互いに空を飛べるのに床を用意した意図も。


 けっきょく四つの黒弾は空の彼方へ飛んでいく途中で消え去った。保護するための結界が弾けたのだ。


「ふっ、おぼろげな記憶だったが様にはなっていたはず。たぶん」


 木の棒を肩に担ぎ、満足げなシヴァを注視する。


(さっきあいつは言ってた。『ちびっ子』とか、『卑怯なとこは見せられない』とか…………………………っ!?)


 まさか、とムルザラはひとつの可能性に思い至る。

 が、思考を邪魔するようにウリムが叫んだ。


「これならどうよ!」


 無数の黒弾を撃ち放った。


「む? さすがにそれは打ち返せないな」


 シヴァは慌てる様子もなく、


(うそ……)


 背後にあちらも無数の小さな光輝く球体を生み出す。


(あれも結界? なのに……)


 光弾が飛び出す。まるでそれぞれ意思でもあるかのように、黒弾をひとつひとつ丁寧に砕いて消した。


 オルセが死の間際に上位存在――魔神ルシファイラへ伝えたとおり、シヴァは結界を自由自在に生み出し動かせるようだ。


 とはいえあれだけの数を作り、黒弾の軌道を捉え、正確に撃ち砕いていく。


(魔力の、桁が違う……)


 正確には測れない。しかし少なくとも魔神クラスの魔力量だとムルザラはおののいた。


「くそっ! なんだってんだよ、こりゃあ……」


 さすがのウリムも戦意が喪失しかけている。


「ふっ、やはりお前たちはあの……ええっと、名前なんだっけ? 狼だか豹だかに変身した奴」


「オルセのことかよ」


「たぶんそれ。そいつと同じで弱っちい魔人だろ? あいつは見掛け倒しだったなあ」


 ハッタリとは思えない。

 ルシファイラの使徒でも最強を誇るオルセを『弱い』と断じたシヴァの実力は、おそらく魔神が生み出す中で最強にして最高クラスだ。


「もう打ち止めか? ならば、こちらから行かせてもらう!」


 シヴァは木の棒を消し去ると、両手にそれぞれ妙な武器を生み出してつかんだ。


(たしか、『魔法銃』とかいうんだったかな)


 彼に近しい存在、ハルトと呼ばれる少年が学院で使っていたものだ。


 シヴァは魔法銃を乱射する。


 ムルザラは四本腕で必死に叩き落とそうとするも、魔弾の数が多くていくつも体に食らった。

 ウリムは抗う間もなく翻弄され、空中で魔弾を浴びまくっている。


(やっぱり、アレには勝てない)


 ムルザラは諦念に染まるも、口元はわずかに綻んでいた。


(でもわかった。あいつは魔人だ。そしてあいつを作った魔神は、その力のほとんどをアレに移してる。なら――)


 上位存在たるシヴァを創りし魔神を探し、倒せばいい。


(きっと、あのウザいチビだ。人に成りすましてる意味はわかんないけど、きっと……)


 シャルロッテの顔を思い浮かべたころには、体中が鈍い痛みに包まれて指先ひとつ動かせなかった。

 ウリムはすでに意識がない。まだ死んではいないが抵抗はできないし、意味はない。


「こんなもんか。ちょっと一方的過ぎたかな。まあ、そこは編集でうまいことやろう」


 またも意味不明につぶやいたシヴァから、禍々しいほどの魔力を感じた。


「さて、ちびっ子に見せる手前、血がどばーっと吹き出したりするのはマズかったんだが……こっからは容赦しない」


 本当に意味がわからないが、どうやらようやく殺してくれるらしい。


(でも、いい。役割はこなした。ウリムのバカは知らなかったけど、あたしたちの役割はただの調査。こいつの本質を知り、ルシファイラ様に伝えるだけの存在なんだから……)


 ここでの情報はすべて、リアルタイムでルシファイラへ送っていた。


(だからもう、いいよね、ルシファイラ様……………………あれ?)


 おかしい。何かがおかしい。


「どうして、何も応えてくれないの……?」


「なんだよお前? 俺に何か質問があるのか?」


「違う! 応えて! 応えてよぉ!」


 首をひねるシヴァが、ぽんと手のひらを叩いた。


「お前もしかして、念話的な感じで魔神とかいうのとやり取りしようとしてた?」


 この際バレても構わない。


「そうだよ! でも、どうして……」


「できないってか? うーん、たぶんだけど、ここを囲ってる結界のせいじゃないか?」


「……は?」


「人里からは離れてるけど、流れ弾とかが誰かに当たったらマズいからな。ここを中心にした半径一キロの球形結界を張っておいたんだ。外から光とか空気は入ってこれるけど、外へは光すら通さない。見られても困るんでね」


「うそ……うそだよ、それじゃあ……」


「ああ、念話的な何かも、通さないと思うよ?」


 絶望に、押しつぶされる。


「んじゃ、余計なことされる前に」


 自身とウリムの体がふわりと浮いた。球体の中に閉じこめられ、その球体が徐々に小さくなっていく。


(せめて、なにかひとつでも情報を……)


 どうやって伝えようかと思案する間もなく。


 ぷち。


 二人は点となって消え去った――。


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アニメ化したよーん
詳しくはアニメ公式サイトをチェックですよ!

― 新着の感想 ―
[良い点] 悪に容赦ないところがいいです [気になる点] 魔力量と使える量が出るのに 2の魔力表示量に対して 999/2にならないこと [一言] 早く姉弟の名乗り?が見たいです
[一言] 幼女王、真・魔神説 幼女王の歴史に新たなる1ページが・・・
[良い点] 作者さん、更新はお疲れ様です! 偉そうな魔人さんなのに、学園や学生の情報まで詳しくご存知ですか!?戦力差を冷静に見極め、而も命を懸けまで情報収集、今回の魔人さんはかなり出来るですね!?単純…
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