タイミングはバッチリのはず
シャルロッテたちとナンバーズが交戦中、唐突に表れた二人組。
「つぶし合いを眺めてんのも楽しいけどよ、やっぱ直接殺しまくりたいよなあ」
一人は少年だ。見た目はシャルロッテと同年代に見える。
白い髪と赤い瞳の生意気そうな顔立ちに、背中に生える蝙蝠のような羽。
「めんどくさ……」
もう一人は肉付きの良い女性だ。
同じく白い髪はしかし、身長と同じほどの長さでひとつに編みこまれている。言葉の通り面倒くさそうな陰鬱な表情だった。
二人は羽をはばたかせることなく浮いている。
「あなたたちは……、どちらさまですか?」
「おい、聞いたかムルザラ? 人風情が魔人たるウリム様に質問を寄越しやがったぜ」
「……どのようなご用件でこちらに?」
「はんっ! 決まってんだろが。テメエらを人質に取って奴をぶっ殺すのよ。だからまあ、テメエらの何人かは手足をもぎ取るくらいで許してやるぜ。他はぷちっと潰しちまうがなあ」
「あー……、マヌケ」
少年魔人――ウリムは名と正体を明かし、目的までぺらぺらとしゃべってしまう。
女性魔人――ムルザラはため息交じりに呆れ顔だ。
と、ナンバー『4』が声を張り上げる。
「よくわからんが敵と見做す。飛翔魔法を操るのは驚愕に値するが、その隙を見逃す手はない。ゆくぞ!」
号砲じみた叫びとともにウリムへ目がけて突進する。
それに合わせ、抜け目ないナンバー『12』も回りこんだ。
「二人ともやめろ!」
アレクセイの制止は届かない。
こぶしに魔力を集める『4』と鞭を振るう『12』はしかし、
「ぐわっ!」
「きゃあ!」
ウリムから放たれた黒い魔法弾の直撃を食らった。
「アホウが。飛翔程度で魔力リソースの大半を使うかってんだ。テメエらとは魔力量が違うっつーの。って、自殺願望のある奴らにはご褒美だったか。もうちょい手加減して苦しませればよかったなあ」
ケタケタ笑うウリムに対し、またもムルザラがため息を吐き出す。
「ほんとマヌケ。よく見なよ。あいつら、まだ生きてる」
「なにっ!?」
二人は仰向けに倒れているが息はあった。
「テメエの仕業か、成り損ない」
ウリムがぎろりと睨んだのはアレクセイだ。
「私ではないよ。しかしその物言い、どうやらお前たちは私の敵でもあるらしいな」
「まあな。成り損ないもついでに始末しろって命令だ。ちょいと気が引けなくもねえが、ま、楽に殺してやるから安心しな」
そのやり取りを見ていたシャルロッテがステッキを掲げた。
「なるほどよくわかりませんけど、つまり『敵の敵は味方』理論。共通の敵を持つ者同士、ここは協力したいと申し出ますがいかがでしょうかアレクセイさん」
「仕方ないな。が、私もそうだが君たちも彼らに劣る。彼女の回復を待つ以外に手はないよ?」
いまだぷるぷる震えて横たわる白い布――フレイをアレクセイはちらりと見やる。
続けて別にも目を向けた。
ナンバーズの他のメンバーはジョニーたちに沈黙させられ、戦力として期待はできない。そもそも彼らがいても魔人には対処できないだろう。
「ナイト・スケルトンの皆さんはケガ人を守ってください。マリアンヌ王女とライアス王子はそちらのフォローを。イリスさんとアレクセイさんはあちらに対応しましょう。わたくしはお二人を支援しつつ、全体的になんとかします!」
ざっくりした指示にも、みなは自身の役割を天啓のごとく理解したのか同時に動き出す。
「おいおい、なんかやる気になっちまってるぞ。オレ様に勝てると思ってんのかあ?」
「そうゆうのいいから、ウザいチビを残して殺しちゃいなよ」
「テメエもやるんだよ」
「はぁ……めんど」
アレクセイたちは無理に攻撃せず、防衛に徹するようだ。
待ち構える彼らに、
「とりま、あんたは先に殺しとくね」
「っ!?」
にゅぅっとムルザラの両腕が伸びた。
頭をつかもうとしたのをアレクセイはギリギリ避ける。
執拗に追いかけてくる二本の腕を、黒い弾丸で弾きながら掻いくぐった。
「……足りないか」
ムルザラが面倒くさそうにつぶやくと、その肩がぼこりと隆起した。そこから別の腕がにゅっと生えてくる。
「また妙な特性を付与されたものだな」
四つの腕に追い回され、さすがのアレクセイも顔を歪ませた。
「何もたもたしてんだよ。とっとと始末してこっちに手を回しやがれ。言葉の通りにな」
「ウザ……」
一方のウリムは黒弾の雨を降らせている。
奥にいたジョニーたちナイト・スケルトンは剣で応戦するも、いくつかをまともに食らってバラバラになる。が、それもすぐ復活した。
「ぐわっ!」
ライアスにも命中して吹っ飛ばされる。
「くそ、重いな……」
なんとか立ち上がったところに別の黒弾が迫るも、
「すぐに動きなさい!」
マリアンヌ王女が水弾を見事に命中させて軌道を変え、事なきを得た。
「ごめん、ボクが近づけないから……」
イリスはこぶしや蹴りで黒弾を弾くので精一杯のようだ。ウリムに接近するどころか遠ざかっている。
一方的な展開だが、ウリムはちっと舌打ちした。
(妙だぜ。オレ様の魔法は〝核〟に作用する呪いがある。直撃食らって五体満足ってどういうこったよ?)
だがやはり、優勢なのは魔人たちのほうだ。
「ふわわわ……、このままだと危険が危ないですぅ……」
シャルロッテは光魔法で各所をフォローするも、だんだんと目が回ってきたらしい。
頼みの綱のフレイはいまだ横たわってぷるぷるしている。
「ちっ、面倒だ。とりあえずこれでも食らっとけ!」
ひときわ大きな――直径で三メートルを超える黒い球体がウリムの眼前に現れる。
「マズいです!」
空気を押しつぶしながら目指す先は、ケガ人とそれを守る骨骨軍団。
シャルロッテは自らその間に割って入り、両手を突き出し防ごうとする。
「はんっ! テメエは生かすつもりだったが仕方ねえ。闇に砕けろ!」
シャルロッテはぎりっと奥歯を噛んだ。
自らを犠牲にして仲間を守らんとするそのいじらしい姿に、お兄ちゃんは涙腺崩壊待ったなし。
よしっ! ここだ!
以上、迷彩結界で姿を隠して見守りつつ防御とか黒弾の変な効果っぽいのを無効化したりとわりと忙しかった俺は、迷彩結界を脱ぎ捨てて飛びこんだ。
巨大な黒い砲弾を防御結界で防ぎつつ、微小な結界を無数に撃ちこみ霧散させる。
いいね。
なかなかカッコいい演出だと自画自賛。
「シヴァ!」
シャルちゃんは目を輝かせている。
「テメエ、いつの間に!」
「みんなよくがんばったな。遅れてすまない」
ヒーローは遅れて現れるもの。
俺的にはさくっと背後から不意打ちしたかったが、まあシャルの喜びポイントを押さえなきゃなのでね。
実のところフレイもすでに復活している。でも俺が『手を出すな』と止めていたのだ。
「連中は俺が引き受けた。君たちは遺跡探索競争を続けてくれたまえ」
「――ッ!?」
「なんだこりゃ!?」
魔人それぞれの眼前に『どこまでもドア』が出現する。開いた扉が彼らを捕らえ、中へと取りこんだ。
そして俺は別の扉を生み出し、そこへと入る。
「がんばってください!」
シャルの声援を背に受け、闖入者を成敗しに向かうのでした。やる気出るぅ。