やっちゃダメ、と言われてなければ無問題
アレクセイは勝利を確信していた。
シャルロッテたちとは階層ひとつ分の差が開き、目的の宝の在り処までは残り二階層。しかもこの階層は少し先にある広間で終わる。そこには下への階段があるのだ。
同じくフロアボス的な巨大な魔物が待ち構えているが、そう時間はかからないだろう。
もうすこしだけペースを上げ、宝を得たら彼女らに遭遇しないよう帰るだけ。
さすがにシャルロッテたちが猛スピードで追い上げても、アレクセイの頭の中では振り切れるとの算段がついていた。
しかし――。
ドドォン、と。
地下を揺らす轟音が響いた。
「な、なに? この先で、爆発みたいなのが起きたようだけど……」
ナンバー『12』が怪訝そうにつぶやく。
「急ごう」
アレクセイは不確かな悪寒を感じつつ、走る速度を上げた。
そうして、下へ進む階段のある大広間にたどり着いてみれば。
「直接対決で相手を倒せば、あとはのんびりお宝探しができますよね!」
ピンクのひらひら衣装を身に着けたシャルロッテが、ふわふわ浮きながらずびしっとステッキを突きつけてきた。
(バカな……)
アレクセイはぎりと奥歯を噛む。
一階層分の差が埋まったどころか、先回りされているなど本来はあり得ない。
だがその絡繰りは一目瞭然だった。
広間の床にはがれきが散乱していた。巨大な岩が積み上がるその直上は、ぽっかりと大穴が開いている。
どうやらフロアボスは岩の下敷きになったらしい。
(上階から床をぶち抜くとは、非常識にもほどがある)
この遺跡は不思議な力で守られていて、壁や床、天井を破壊するのは至難の業だ。高い攻撃力を誇る〝至高の七聖武具〟を、これまた高い魔力を持った者でようやくできるかどうか。
特に床――下から見れば天井は、階層間の距離が十数メートルはあるので突き破るのは不可能に近かった。
しかし広間は地下洞窟の道中に比べ天井が遥かに高い。
つまり階層間が比較的『薄い』部分である。
(あの、女魔族か……)
白い布の塊が、精も根も尽き果てたようにぐったりと横たわっていた。
彼女が全魔力を解放した最大魔法なら、この異常事態にもうなずける。
「まったく、無茶をしたものだ。しかし最大戦力を失って、私たちに勝てるのかな?」
アレクセイは冷静さを取り戻す。
ナンバーズは『7』のシャルロッテと『9』のザーラを欠いても総勢十名。みな学内でも実力の確かなエリートたちだ。
対するシャルロッテチームはフレイを失い四人となった。
フレイ一人でアレクセイ以外のナンバーズ全員を相手にする力があるものの、今は戦える状態ではない。
「ふっ、たしかに私の魔力はカツカツだが、すぐに回復してみせよう。五分……十分? まあ大負けに負けて二十分……いや三十分にしておくか。だいたいそのくらいで貴様らを蹂躙するに足る魔力をな!」
「フレイ――じゃなかった。交換留学生のフレッチ・ゼンポスさん、とりあえず今は休んでいてください」
「ぐぬぬ……絶対に負けるなよ!」
「はい! あなたの犠牲を無駄にはしません!」
「いやまだ死んでないぞ?」
脱力するようなやり取りで逆に怒り心頭になったのか、
「ごちゃごちゃうるさいぞ、貴様ら!」
巨漢のナンバー『4』が突進してきた。
「ふっ!」
「ぬっ!?」
しかしイリスフィリアが彼の側面から襲いかかる。
強烈な蹴りを、太い両腕で受け止めた。
「ほう? なかなかに重い。だがこの程度で俺を倒せるとわっ!? ぬ、この、どわっ!」
イリスフィリアの猛ラッシュ。巧みな体捌きで相手を翻弄する。
その様子をシャルロッテは満足げに見やった。
(さすがはイリスさん。スピードでは圧倒していますね。マッチアップ成功です!)
とはいえすぐに勝負がつくとは思えない。接近戦の要を欠き、人数的不利が加速した。
「君たちの負けだよ。たった三人で、私を含めて九人の相手ができるとでも?」
アレクセイの余裕の笑みに、シャルロッテはにっこりと応じた。
「数のお話ならご心配なく。取って置きを出させてもらいます!」
腰のポーチをごそごそまさぐり、取り出したのは折り畳まれた小さな布。
「そぉれ!」
虚空に布を放り投げると、みるみる大きく広がって。
ガシャンガシャンガシャンガシャンガシャン――。
「なっ!? ナイト・スケルトンだと!?」
その数五十ほど。数で言えばナンバーズの五倍以上になった。
「ジョニ……じゃなかった。召喚獣のみなさんは『1』、『4』、『12』の方以外の相手をお願いします。これで実質は四対四。では、正々堂々と戦いましょう」
「どの口が言うのよ!」
ナンバー『12』の叫びはしかし、
カチカチカチカチカチカチカチカチカチッ!
骸骨部隊の歯を鳴らす音に掻き消された――。
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