演出は過多なくらいがちょうどいい
遺跡探索対決がスタートした。
俺は解説者としてシャルたちの活躍を眺めつつ、遺跡の制御装置とやらで魔物をコントロールしながら、なんかあったときのために睨みを利かせ、さらに陰ながら支援する……って忙しいな!
そのせいではないとは言いきれないのだが、宮殿内で両チームとも最初に遭遇したのは地上階で出ていいはずのない難敵、フレイム・マミーというマミーの上位種だった。
いや、なんか弱そうに見えたんだよ。だから最初にはいいかな、とか思ったんだよ。
でも大丈夫。きっとシャルたちなら突破してみせるさ!
虚空に浮かぶ巨大スクリーンの一画、先に接敵したナンバーズどもの様子を見てみよう。
「これはまた……ひどいね」
ティア教授の実況テンションがだだ下がりになるほどの乱戦模様。
『どぉりゃあ!』
めっちゃ体格のいいおっさん顔の生徒――たぶん『4』の人が、こぶしを振り回してミイラさんたちの顔面やら腹やらをぶっ潰している。
『あはははっ! 切り刻んであげるわ!』
美人に見えるが目つきのヤバイお姉さんが鞭みたいな武器で動く屍を言葉のとおりに切り刻んでいく。ケバめなお姉さんだけど武器はカッコいいな。『12』の人か。
「さすがに本校でトップクラスの実力を誇る生徒たちですね」
「いやぁ、でも見た目が美しくないなあ」
「それに一方的というわけでもない」
4の人はときどき体当たりされたり、火炎球を食らって顔を歪めている。
12のお姉さんはなんかこう、すごい邪魔だ。他のメンバーが魔法攻撃しようにも、彼女に当たりそうで苦労していた。
そんな中で一人、異彩を放つ男がいる。
『ダーク・ストーム』
闇色の弾丸をいくつも撃ち放ち、ミイラさんたちを次々撃破していく。
別画面では聴衆の学生たちが騒ぎ出した。
『見たか? 今、魔法弾を遠隔操作したぞ?』
『すげえな……』
『きゃー! アレクセイ様ぁ~』
くっ、イケメンが大活躍とか悔しい。
見ていると腹が立つので、我らがシャルちゃんチームに目を移した。ちょうどミイラの群れに相対したところだ。
「さあ、先鋒は次代の国王との呼び声も高い学年主席のライアス王子だ!」
実況のティア教授のテンションが戻ってきたぞ。
「グーベルク君たちのチームと気持ちの入りように差がありすぎませんか?」
気のせい(ではない)です。
ライアスはイリスを押しのけて魔物たちの前に躍り出るや、
『ファイヤー・ストーム!』
炎を放った。火炎放射器みたいに炎の帯が突き進み、フレイム・マミーたちに襲いかかったんだけど……。
『なっ!? 効いてないだと?』
ふわふわ飛んでいたシャルちゃんがライアスに近寄って言う。
『あの魔物たちは火炎系に耐性を持っていますので』
『早く言えよ!』
ぷくく、王子様ってば顔真っ赤。
『ライアス、下がってください』
『ボクが押しとどめる!』
悔しそうなライアスはいったん下がり、イリスが前衛をこぶしで打ち抜いていく。その後ろからマリアンヌお姉ちゃんが水の弾丸で援護した。
そして空中にふわふわ浮くシャルが、魔法のステッキ(特にすごい機能はない)を振り回した。
その背から、光の翼が現れ大きく広がる。
シャルはなんだか哀しそうな表情ながら、厳かに告げた。
『無垢なる世界へ……』
まばゆいばかりの神々しい白色の光がシャルからあふれ、ミイラさんたちを包みこんでいく。
「おおっとぉ! シャル君の謎めいた神聖魔法で次々とフレイム・マミーが消え去っていくぅ!」
「天使だ……」
「いえ、あれは中位の浄化魔法ですよ? 彼女の年齢からすればすごいことではありますけれど、勝手に名前をつけなくても……。それに、明らかに光量が過剰な気が……」
素直な感想が口から出た俺に対し、横にいた学院長はなんだか呆れた様子でつぶやく。
うん、シャルの魔法少女衣装には、あいつが魔法を使うと属性によって違う色で発光するようになっているのさ。背中の翼もそんな感じで、ともに演出の意味以外はなかった。
聴衆の生徒たちも魅了される。
『すげえ! 一撃であの数を消したのか』
『ていうか天使かよ!』
『シャルロッテちゃん可愛い~』
『妹にしたーい』
俺の妹だよ羨ましいか!?
『くそっ、俺だって! ライトニング・アロー!』
ライアスは後方から光の矢を撃ち放つ。
残ったミイラさんたちの胸とか頭とかを貫き、乾いた肉片が飛び散った。
「絵面的に汚いね」
「対するシャルロッテは魔物に対しても慈悲ある攻撃を選択した。なんて天使……いや聖母」
「貴方たちは同一チームのメンバーに対しても評価に偏りがあるように思います」
いえ正直な感想です。
そんなこんなで緒戦は両チームとも魔物の群れを一掃した。
その後も(今度は弱っちい魔物を選んで送りこんだので)危なげなく進み、それぞれのチームはほぼ同時に宮殿ゾーンを通過するのだった――。
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