ご希望どおりの水着回?
即席とはいえ、海に作った迷宮はオリンピウス遺跡そっくりそのまま。
魔物は今現在、本物の遺跡内をうろちょろしている奴らを俺が結界でコピーしたものを配し、うまいこと操作していた。
シャルロッテも、イリスも、マリアンヌお姉ちゃんも、ライアスも。連携を模索しながら迷宮内を突き進む。
そしてなぜだかメジェド様スタイルを貫くフレイは前へ出過ぎなので都度窘めたところ、彼らを指導する役割に落ち着いた。
入り組んだ迷宮の地図を頭に叩きこみ、魔物を倒したり倒さなかったり。
前衛はイリスとライアス。彼らを後方から支援するシャルロッテとマリアンヌお姉ちゃん。ときおりメジェド様が目から炎を撒き散らす。
フレイが現場で大雑把に指示を出す一方、外からティア教授が細やかな助言をしてくれた。
ナンバーズの妨害をも想定した訓練は順調に進んでいく。
ぶっちゃけ訓練風景なんてダイジェストでお送りするのも面倒だ。
というか俺は魔物を動かしたり罠を発動させたり仮想ナンバーズで悪戯したりと、はっきり申し上げて働きすぎでは?
というわけで、あっという間に本番が明日になった。
「よくがんばったなコンチクショウ! 存分に遊ぶがいいさ! 俺は寝かせてもらう!」
半ギレでみんなを労う俺。
シヴァはすでに「さらば」との言葉を残して退場したことにしていて、俺はラッシュガードを着こんで疲労を顔ににじませていた。
身体的にも魔力的にも疲れてはいないのだが、精神的になんかね。
「兄上さま、ありがとうございました! そしてごゆっくりお休みください」
シャルはてきぱきとビーチパラソルを立てかけ、ビーチチェアを置いて「どうぞ」と俺を誘う。
本当にできた妹だ。ありがとう。
「さあみなさん、明日はいよいよ本番です。今日はしっかり遊んでたくさん食べて、英気を養いましょう」
ピンクのセパレートタイプの水着を着てにっこり微笑む我が天使。胸の下側と腰回りのふりふりが可愛い。
「ちょっと待て。その前にこの衣装はなんだ!?」
ライアスは自身のサーフパンツを指差し絶叫する。
つーか、ラガーマンみたいなアイツが着るとチャラ度がえらく増すな。ゴテゴテのネックレスや指輪を嵌めたらまんまビーチの寝取り男だ。
「水着ですがなにか?」
「露出が多すぎだろ!」
どうやらこの世界での水着はふつうの服みたいな感じらしい。そしてレジャー感覚で海水浴を楽しむ習慣はないそうな。
「た、たしかにこれはあまりにも……下着みたいで……」
とか言うマリアンヌお姉ちゃんは三角ビキニを着てもじもじしていらっしゃるが、それ選んだの君だからね? いくつか用意した中で、もっとも露出が多いのを。
「機能的ではあるのだろうけど、やはり気恥ずかしいな」
イリスは競泳用水着を選んだ。露出は少ないほうだが股間はかなりきわどいV字だし、ぴっちり体に張りついて艶めかしい。
「さすがのワタシもちょっと抵抗があるね。でもイリス君の言うように、泳ぐには適している」
ティア教授はワンピースだが肩ひものないタイプ。するっと落ちやしないかハラハラする。
「貴様ら頭は大丈夫か? 着てから文句を言うな」
まっとうなご指摘ありがとう、フレイ。
こっちは赤くデザインが凝ったビキニだ。マリアンヌお姉ちゃんに比べてやや布面積は多いものの、胸は上下左右から肉がはみ出していた。
「てかハルト、お前だけなんで上に着てるんだよ?」
「これはラッシュガードといって、主に日焼け対策だ」
「日陰で寝る気満々のくせにか!」
いちおう左胸の王紋を隠す役割もある。『びっくりテクスチャー』を貼り付けてはあるが、それが何かの拍子に取れたら困るのでね。
ライアスはぐぬぬと睨んでくる。
しかしアレだね。俺はずっとシヴァモードでいたから、今日になって突然現れた俺に『お前なんもしとらんやんけ!』と文句を言ってくると思ったんだけど、誰も何も言わないな。
「遊び道具はたくさん用意したから勝手に使ってくれ」
俺はライアスの睨みをさらっと無視してビーチチェアに寝転がる。
「ハルト様、飲物」
そこへリザが寄ってきて、トロピカルなジュースが入ったグラスを持ってきた。
「ありがとう」
受け取って飲む。キンキンに冷えてて甘くて美味しい。
「あの……どうしてわたしまで? 特に手伝ったりしてないのに」
彼女もまた、水着を着ている。ワンピースタイプの可愛らしいやつだ。
「お前を仲間外れにしちゃ可哀そうだからな」
というシャルの言葉を受けてだが、もちろん最初から呼ぶつもりだった。
「ありがとう……」
はにかんだような笑みで応えると、リザはシャルに波打ち際へ連れられた。
なんだかんだで皆さん、思い思いの水着で遊び始める。
水をかけあうシャルとリザ。水飛沫が陽光を弾いてキラキラと絵になるなあ。
イリスとフレイがビーチボールで対決する。思いきりアタックしても壊れないよう頑丈にしているが、ものすごいスピードでボールが往復していた。
ティア教授は黙々と砂のお城を作っていて、ライアスは一人で海に入って泳ぎ出した。
さて、俺もお仕事から解放されたのでゆっくりアニメでも見て寝落ちするか。
眼球に結界を貼り付け、耳にはイヤホン型結界をねじ込んでアニメを視聴する。
ああ、実に自由だ。
海風に撫でられながらのアニメもなかなか乙なものだな。
「ふひっ」
主人公のラッキースケベが発動したところで変な声が出た、直後だった。
「うぎゃーっ!」
野太い叫びはライアスのそれ。
ノイズキャンセリング機能をオフにしていたのを後悔しつつ、なんじゃらほい? とアニメ視聴を中断して海に目を向ければ。
ぬぅっと水面から伸びる大きな影。
リザの元形態ちっくな黒い竜の頭が、こちらを向いておりました――。