シミュレーターをご用意します
静かな湖畔の大きな丸テーブルに、関係各位を集めた俺。
シヴァモードでナンバーズとの対決方法について説明する。
「――というわけで一週間後、オリンピウス遺跡で二チームによる探索合戦が行われる」
緊張した面持ちの面々の中、シャルちゃんがぴんと手を挙げて言う。
「はい! おやつは持って行ってもよいのでしょうか?」
「探索に必要な物であれば問題ない。おやつは小腹を満たし、英気を養う重要な物資だ。金額に制限もないから好きなだけ持っていくといい」
おおっ! とシャルやフレイが色めき立つ。
王族の二人とイリスは白けたご様子。ノリは合わせようぜ。そしてせっかく連れてきたコピーの俺は円卓に突っ伏して寝てやがる。
「で、逆に言えばまだ一週間もある。何かしたいのであれば俺が協力しよう」
ライアスが怪訝そうに応じた。
「ありがたい話だが、あんたは審判扱いだろう? こっちにだけ肩入れしていいのかよ?」
「ダメとは言われていないからな」
またもシャルちゃんがぴんと手を挙げる。お行儀がいいね。可愛いね。
「勝利条件は『事前に学院側が迷宮のどこかに置いた〝何か〟をゲットして持ち帰ること』、とのお話でした。なのでその何かを『どこ』に配置するか、予測を立てれば勝利がぐっと近寄るかと」
学院長室から情報を盗んでくればいいんじゃね? と喉まで出かかったけどやめておいた。
「つっても遺跡内は学院でも全容を把握してないくらい広い。把握してる限りの地図は学院が管理して持ち出せねえし、予測のしようがねえだろ」
「地図が欲しいならくれてやるぞ?」
「へ?」
変な声を出したライアス以下、マリアンヌお姉ちゃんたちも呆気に取られる中、
「これでだいたいつかめるかな?」
俺は虚空に三次元映像を浮かび上がらせた。
実際には触れないが、透明な模型だ。全六十階層からなるオリンピウス遺跡の地下迷宮を正確に写したもの。
「なんでこんなもんお気軽に用意できるんだよ!?」
監視用結界を万ほど飛ばして測量したからね。そんな大変じゃなかった。
「さすがはシヴァですね! でも……これをわたくしたちだけが利用するのはズルくないでしょうか?」
真面目で可愛いシャルちゃんはちょっと抵抗がある模様。
「案ずるなシャルロッテ。ナンバーズも事前に遺跡に入って何事かしていたからな。相手もやっていることだ」
アレクセイ先輩もこれくらいできるんじゃないかな? 魔神が憑依してるっぽいし。
「戦いは、すでに始まっているのですね」
キリリとしたシャルちゃんもまた可愛い。
「けどよぉ、やっぱ広すぎるぜ。どこに課題の品が置かれるかなんて予想できんのか?」
ライアスは相変わらず文句ばかり言う。
俺がティア教授に顔を向けると、やれやれといった風に指を掲げた。
「学生が潜るのを前提とするなら、深いところには置かないだろうね。卒業試験でも三十階層より下は使わない。というか教師の実力からして使えない。ま、せいぜい二十七、八階層までだよ」
これだけで半分未満に絞られる。
俺が意見を述べた。
「道端に唐突に置かれることもないだろう。突き当りか、開けたポイントに配置するだろうな」
「ワタシが試験官なら、チーム戦を考慮して階層ボスモンスターの出現ポイントにするね」
先に見つけて終わりではなく、戦って得る、それを邪魔する、あるいは共闘する、相手チームが得たところを奪う、といろいろできるもんな。
あまりに上層階ではつまらないだろうし、そこには階層ボスもいない。
二十階層から(ちょっと範囲を広めて)三十階層までのボス的強敵がいるポイントに赤い印をつけていく。
「念のため開けた場所にも青い印をつけて……まあ、こんなもんか」
けっこうな数になっちゃったな。
それでも策は打てる。
「二十階層までは全力ダッシュ。青い印を最短ルートで進みながら赤いポイントを突破していく、という感じでどうだろう?」
「長い道のりですけど、今のところはそれ以外なさそうですね」とマリアンヌお姉ちゃん。
「ボクも異論はない」とイリス。
「数日……いや一週間はかかっちまうな」とライアスは肩を落とす。
シャルちゃんが三度目の挙手で告げる。
「では、立体地図を頭に叩きこむのは当然としまして」
「えっ、これ覚えるのか……?」
愕然とするライアスは放っておき、シャルは続ける。
「さっそく遺跡内で事前シミュレーションといきたいところですが、それはルール違反行為でしょうか?」
「んー、バレなきゃよさそうではあるけど……」
俺もアレクセイ先輩も一度は入っちゃったのはある。が、バレる危険を考えるとやめたほうがよさそうだ。不正は絶対許さないレディに怒られてしまう。
「では、VR的シミュレーションではどうでしょう?」
VRゴーグル作って、あたかも遺跡内部を探索している感じを出すのはできる、と思う。
ただちょっと面倒くさそうだし、実際に魔物やらを相手にするわけじゃないから、臨場感はあっても実戦的ではない。
そんなわけで――。
ザザーン、と。
寄せては返す波打ち際に俺は仁王立ちした。王国の西側、海沿いをしばらく南下して、人っ子一人いない開放的な砂浜にやってまいりました。
陽射しが強い。ここはもはや真夏。
そして海原の彼方に、海面から唐突に顔を出す小さな島――というか平地。その真ん中にはオリンピウス遺跡の入り口たる宮殿みたいな建物が佇んでいる。
あそこから入ると、遺跡の内部とそっくりそのままの迷宮がある。魔物っぽいのも配置しておいたから、実際に遺跡に潜るのと変わらぬリアルシミュレーターを作ってみました。
ここで訓練をする。
俺がシヴァモードで説明すると、砂浜に立ち尽くす面々は呆然としつつ。
「あんたのやることにいちいち驚きゃしねえけどよ」
「なぜ、海なのでしょうか?」
「広さは適当だと思うのだけど……」
ライアスもマリアンヌお姉ちゃんもイリスも不思議そう。
そりゃあ、アレだよ。
訓練が終わったら、ねえ?
「水着回ですね!」
シャルちゃんが目をらんらんに輝かせて叫んだ――。