避けられたかもしれない対立
――事態は混沌を極めていた。
カッコよさげに表現してみたが、まあ当然だよね。
例によって小汚い建物の一室に、とんがり頭の覆面集団が居並んでいた。
その中には覆面を断固拒否した新メンバーが二人、マリアンヌ王女とライアス王子である。
「正気かナンバー1。王女と王子をナンバーズに加えるなどと!」
額に『4』のガタイのいい兄ちゃんがドンッとテーブルを叩いた。
「そして! このふざけた奴は! 誰だ!」
ずびしっと指差した先には、メジェド様みたいなのがいた。
頭からすっぽり白い布を被り、目の部分だけ開けている。頭にはちょっとした盛り上がり。耳なんだけど透明にした意味がなかった。
そう。フレイである。
昨夜、自作の覆面を作ろうとちくちく針仕事に勤しんでいたが、けっきょく諦めてこうなった。
額には『0』の文字がでかでかと。お前何様?
「この場では正体を明かさない規則ではないのか?」とフレイ。
「あからさまに怪しい奴を誰何して何が悪い!」と『4』の人はご立腹。
「では特別に答えてやろう。私は一昨日、交換留学でやってきたフレッチ・ゼンポスだ」
雑な偽名を使いやがって。
「思いきり部外者ではないか!」
ナンバー1ことアレクセイ先輩(この人も覆面なし)が『4』の人を見やる。
「まあ落ち着いてくれ、ナンバー4。彼女は……ナンバー7の従者だよ。両殿下をお招きするにあたり、彼女も参加させてほしいとの要望があってね。要するに護衛だよ」
「私は秘密兵器であって、こいつらの護衛ではない」
「秘密兵器だと?」
「ふっふっふ、貴様らの悪巧みも今日を最後に――ん? ああ、はい。え? ………………」
フレイにはちょっと黙っておくように耳打ちした。ちなみに俺もこの場にいる。姿を隠してね。
「なんだ? 言いたいことがあるなら言ってみろ!」
「落ち着け、と言ったぞ? ナンバー4」
じろりとアレクセイ先輩がにらむと、『4』の人はドカッと椅子に腰を下ろした。
「諸君らに説明もなく両殿下をお迎えしたことは謝罪しよう。しかし事前に言ってしまえば今のように、反発は必至だったからね。であれば両殿下にご同席いただいたうえで議論すべき、と考えたのだよ」
「ふん、独断専行とは貴様らしくないな」と『4』。
「そうね。気持ち悪いくらい『和』を重んじる貴方が」とは『12』。
「まさか王妃に取りこまれたのではないよねえ?」と『6』。
「はっ、設立者が裏切るというのですか」と『2』
アレクセイ先輩の求心力低下が著しい。
しかし当の先輩はどこ吹く風。冷ややかな笑みを浮かべていた。
「私の理念は一貫している。混迷する祖国を憂い、我ら若い力で国を盛り立てようとの想いは、諸君らと同じであると思うが?」
「それは、そうだけれど……」と『12』。
「両殿下の前だがあえて言おう。国が乱れた原因は国王と王妃の対立によるものが大きい。しかし王女も王子も我らと想いは同じと信じ、こうしてお招きしたのだよ」
顔を向けられ、マリアンヌお姉ちゃんが応じる。
「この会合の趣旨は理解しています。しかし目的を同じくしても、貴方がたとは手段の面で方向性が大きく違います。はっきり言いましょう。貴方がたのやり方では国が乱れる一方です」
「ふんっ! 箱入りのお姫様が偉そうに」
「見聞を広げたほうがよろしくてよ?」
「甘いんだよねえ」
こいつら王女様にも容赦ないな。正体が知られないとでも思ってんのかね?
嘲笑にもお姉ちゃんは怯まない。
「私からすれば、見識が狭いのは貴方がたのほうです。悪しき者たちの手のひらの上で踊らされている様は滑稽でもあり、哀れでもあります」
覆面集団が色めき立つも、
「ルシファイラ教団」
凛とした声が室内に響くと、しんと静まり返った。
「彼らは危険です。貴族派の根元に大きく食い込んでいるのみならず、王妃様をも篭絡しているのはご存じでしょう? 彼らこそ国家転覆を企む悪しき集団となぜわかりませんか」
王女の重い言葉はしかし、『4』の人には届かない。
「……高がミージャ教の一派閥が、そんな大それたことを企んでいると? 誇大妄想も甚だしい」
「いいえ! 彼らが真に企むことを知れば――ぁ……」
「お、おい姉貴。それは……」
赤面する二人に、ここぞとばかりに『4』の人が食いつく。
「ほう? その真なる企みとやらを教えてほしいものだなあ」
にやにやといやらしい笑み(俺にしか見せないが)を浮かべる奴に追随し、他の覆面たちも早く話せと迫ってきた。
お姉ちゃん、顔を真っ赤にしてつぶやく。
「ま、魔神の復活、です……」
しぃーんと呆けた静寂の直後、
「うわはははっ! 魔神だと? それは大変だなあ!」
「王女殿下、おとぎ話をされましても困りますわ」
「真面目に話すつもりがないのかなあ?」
これにはさすがのお姉ちゃんも沈黙し、ライアスも赤面して奥歯を噛んでいた。
だがしかし。
ずびしっと片手を挙げた『7』の人。
アレクセイ先輩に促され、声高らかに告げる。
「魔神の復活が成されれば、我が王国のみならず世界の脅威となりましょう。今こそ我らは派閥を超え、一致団結すべきとき! 皆さま、事態はとても逼迫してると気づきましょう!」
「貴様、本気で言っているのか……?」
「もちろんですナンバー4。実際の脅威とは嘘のようなホントの話。先の王都騒乱事件――『無血の第四曜日』をお忘れで?」
「ブラ……なに?」
シャルの独自呼称でいい感じに混乱しているようなので、ここがよいタイミングだと俺はフレイに耳打ちする。
「愚かなる人間どもよ聞けぇい! 我らが声が届かぬならば、その心に直接打ちこむまで。我が情熱の炎をもって、お前たちの無知を知らしめよう!」
立ち上がったフレイが叫ぶと同時、その身が炎に包まれる。
超ビビる皆さん。カオスである。
しかし唐突に入ってきた二体目のメジェド様がどこからともなく水をざぱあっ!
火は消し止められ、ずぶ濡れのメジェド様1号を置いて、2号はそそくさと退室した。お疲れ、リザ。
というか、俺は『直接対決で白黒つけるようにもっていけ』と指示したはずなのだが、アレンジしすぎじゃない? てか意図が伝わらんぞコレ。
「……なにが起こったのかよくわからんが、貴様はつまり、どちらが正しいか魔法戦で決着をつけようと?」
脳筋には通じるらしい。
「わかりやすくていいわね」
「しかし無謀な」
「戦闘に不向きな王女殿下と、一年生が二人」
「口だけの色物も加えたところで」
「我らに敵うとは思えませんね」
覆面さんたちはノリノリな一方。
「あれ? ここで対決フラグ立っちゃいました?」
おや? シャルちゃんが困惑しているような……?
「まあ仕方がありませんね。修行の成果を見せてあげます!」
ほっ。ノッてくれたみたいね。
ともかくナンバーズとの直接対決のお膳立てはできたわけだ。
さあ、存分に暴れるがいい!
ところでアレクセイ先輩、こめかみ辺りを指で押さえて頭を左右に振っていらっしゃいますが、頭が頭痛で痛いですか?