しつこいくらいに検証です
ザーラ先輩の尊い犠牲により、俺は最大魔法レベルを上げる方法を見つけるという歴史的な発見をしてしまった。
「いやハルト君? 彼女、死んでないからね?」
そうでした。
ところで俺は今シヴァモードなので『ハルト』呼びはしないでほしい。まあ、ザーラ先輩はげっそりして白目を剥き、口から泡まで吹いてるからいいけども。
いやよくない。気絶した彼女をどうしましょうね?
リザがなんか魔法をかけてる。
「治癒魔法は効いてない。肉体面ではなく、精神がズタズタになったみたい。意識を取り戻してもしばらくは起き上がれないと思う」
「ずいぶんと負荷がかかるのだね。ひとまずワタシの研究棟に戻って寝かせよう」
ということで、フレイをシャルたちのお世話係として残し、俺たちは舞い戻った。
ポルコス氏がザーラ先輩の惨状を見て腰を抜かしたのはご愛敬。侯爵家のご令嬢がとんでもないことになってたから仕方ないね。
ザーラ先輩をソファーに寝かせてひと息つく。
ちなみにポルコス氏もめまいを覚えたようで、別室で寝込んでしまいました。
「さてハルト君、さっそくワタシにもやってみてはくれまいか」
「頭大丈夫ですか?」
自分を実験台にするのを人一倍嫌がるお方がどうしました? 最大魔法レベルが上がるなんて異常事態を目の当たりにして気が触れちゃったかな?
「うん、大丈夫じゃない」
やっぱりか。目、ぐるぐるしてますもんね。
「この歴史的快挙に、ワタシは人生でもっとも興奮しているのだよ。だからこそ、今ならいろんな恐怖を克服してこの身を実験台にできるのさ」
なるほど勢いか。
「さあ、やってくれたまえ!」
ティア教授は大胆にも全裸になって俺に背中を向けた。上半身だけでよかったんだけどねー。
ちんまい背中には黒い穴がなんと21個もあった。全部埋めたら最大魔法レベルが57に跳ね上がる。閃光姫涙目である。
「んじゃ、やりますね」
地面に未接続の一本をぐりんと動かし「ひゃわっ!?」、カチリ「あばばばば」と嵌めてみた。
何事か叫びつつ、がっくんがっくん立ったまま跳ね踊る小さき人。
ばたり。
倒れた。
「ハルト様、ティアが白目を剥いて口から泡を吹いてる」
「そうだな。ザーラ先輩のときと同じだ。これ大丈夫?」
「症状は同じ。治癒魔法でも回復はしないからやるだけ無駄」
結果も同じで、接続した管はふたつに分かれて最大魔法レベルが36から37になった。
仕方がないのでティア教授の自室に運ぶ。ザーラ先輩も一人にしちゃ可哀そうなのでついでに持ってきた。
本とかが床に散らばってて歩きにくいったらない。ベッドの上にもいろいろあったので吹き飛ばした。
ティア教授とザーラ先輩を並べて寝かせる。
「ぅ、ぅぅ……、ワタシは、いったい……?」
おお、すごい精神力だ。もう目を覚ますとは。
「安心してください。実験は成功です。先生の最大魔法レベルは上がりましたよ」
「そう、か……。ワタシも、歴史的な快挙を、成し遂げたんだね……」
やったのは俺ですが? まあ弱った人にツッコみはしないけども。
「ところでもうひとつ試したいことがあるんですけど、先生を使っちゃっていいですかね?」
「悪魔か、キミは……」
ツッコミに覇気がない。この状態で試したら永遠に目を覚まさないかもしれんな。
でも困った。
さすがにここまで衰弱するような実験を、シャルたちにはできない。
「キミが何を、試したいのか、わかるよ。ポルコス君を、呼んでくれたまえ……」
こいつもたいがい鬼だな。
でもポルコス氏は実験台としてうってつけではある。なにせ彼は、レベルがカンストしている。(て言っても21だけど)
そう、俺が試したいのは『レベルカンスト状態の人でも最大魔法レベルが上がるのか?』だ。
この場合、途中まで伸びた管は存在しない。
地面に接続された管を、どうにかして穴に嵌められないかを試したかった。
俺の意図を汲んだハルトCがポルコス氏に『秘密の実験中にティア教授が倒れた』と曖昧に事情を説明して、ティア教授の部屋へ連れてきた。
「おお、博士……、なんておいたわしい……」
「ポルコス君、ワタシはもう、長くないようだ……」
「っ!? しかしハルト君は大丈夫だと――」
「ふっ、自分の体のことは、自分が一番よくわかっているよ……」
なんか小芝居が始まったぞ?
「最後にひとつ、ワタシの願いを聞いてくれないだろうか……?」
「な、なんなりと! 私にできることなら……いえ! 何がなんでもやってみせますとも!」
涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔になってた。リザがちょっと引いてる。
「ありがとう……。では早速、上半身裸になってシヴァ君に背中を見せてくれ」
「は? ぇ、まあ、そのくらいでしたら……」
疑念たっぷりながらも素直に上着とかを脱いで、ポルコス氏は俺に背中を向ける。
哀愁たっぷりな中年の背中はしかし、何がなんやらわからないながらも決意に満ちたたくましさを感じた。
けど………………穴一個て。
実験に差し支えないとはいえ、平凡を絵にかいたようなおじさんだなあ。まあ、穴があるだけマシか。
ともあれやってみよう。
穴はあれども嵌める管はない。
地面に接続された管はこのように、ずるずる引っ張っても「ひゃわぁっ!?」伸びるだけ。
管が切れないのはザーラ先輩で実証済み。
念のためポルコス氏の管を切り「へぎょ!?」刻もうと「たわぁ!」した「こほぉ!」ものの、奇声を発して暴れるだけで、まったく切れる気配がない。
埒が明かないので俺は強引に、伸びまくった管を黒い穴にあてがってみた。
「にょほぉ!?」
すぽん。カチリ。
なんとあれだけ頑丈だった管が黒い穴に押しこんだ部分で分かたれたではないか。そして地面に接続しているほうの切り口が吸い寄せられるように穴に嵌まったのだ。
もともと背中から地面につながっていた管は途中まで伸びている感じになった。
最大魔法レベルは22に上がり、現在魔法レベルは21のまま。
「レベルがカンストしてても最大魔法レベルは上がる。これもまた大発見だな」
自画自賛する俺の目の前では、倒れ伏して痙攣する哀れなおじさんが。
ん? ぴたりと止まってしまったぞ?
「ハルト様、ポルコスの心臓が停止した」
「心臓マッサージを! 早く!」
大慌てで蘇生処置を施す。迅速な対応のおかげか、ポルコス氏の脈動は戻り、息を吹き返した。
いや、さすがに焦ったな。いくらなんでも死人を出したら冗談じゃ済まなさすぎる。
ポルコス氏を丁寧にティア教授の隣に寝かせた。
「あんまお気軽にできないな、これ」
「一回や二回ならまだしも、ワタシはあと20回だっけ? さすがにそれは、考えてしまうね」
一回や二回ならやるつもりなのかよ。
「いや~、もう勘弁かな。最大魔法レベルが高い者は、相対的に効果が低くなるからねえ。体、というか精神への負担を軽減する措置を見つけないと、実用に耐えないよ……」
まあ、そう簡単に最大魔法レベルが上がったら苦労しないわな。個々人で上限もあるし。
とはいえ人によっては夢が果てしなく広がるのだ。
対処法を見つけて、仲間内はみんな上限まで上げたいところ。
課題はあるが前向きに受け取ろう。
ティア教授が元気にならんと考えても仕方ないし、いまだがんばっているシャルたちを喜ばせに行くか。
で、滝に打たれて修行中(?)のシャルとイリスの管を一本、地面(ていうか水面)に接続しました。
「レベルが! 上がりました!」
「まさか本当にこんなことで上がるなんて……」
「やはり修行には滝が一番だと証明されましたね!」
シャルは唇真っ青にして小躍りし、イリスは信じられないといった表情ながら目はキラキラ希望に輝いていた。
ところで――。
きゃっきゃとはしゃぐシャルロッテは白襦袢が滝の勢いでずり落ち、上半身がほぼ露わになっているのですけども。
彼女の小さな背に見える黒い穴は、全部で77個もありました。
既存の管の数より多いとか、お前、ホントどんだけ……。