それ、測定器がダメなやつでは?
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お楽しみいただければ幸いです。
詳細は省くが、俺は異世界に転生した。
女神的な何かによれば、そこは魔法の力が絶対視される世界だそうな。説明がおざなりだったので不安だが、チート能力も与えてくれたらしい。
それで自由気ままに二度目の人生を謳歌しろ、とかそんな感じ。
中三の秋にイジメから逃れるためひきこもって五年。俺は未来に希望も何も抱けず漫然と生きていた。
いきなり『二度目の人生を謳歌しろ』と言われても……。
俺が望むのは、平穏な日常。
人の心を持たない者たちからの離別。
日がな一日アニメやゲームに没頭し気がついたら寝てた、という自堕落な生活こそ最高な生き方だった。
だから決めた。
俺は異世界でもひきこもり、怠惰に生を貪るのだ、と。
そのために、チートな能力とやらを駆使してやろうじゃないか!
で、俺は産声を上げたわけだが――。
ぼやけた視界の中、誰かが何か喚いている、ような気がする。
どうにか聞き取れないかな、と思ったら、唐突に声が鮮明になった。
「国王陛下、元気な男の子でございますよ!」
「おおっ! ギーゼロッテ、でかしたぞ!」
俺の体が誰かに抱かれる。
しかしなんも見えんな。ぼんやりして誰が誰だかわからない。
どうにか見えないものかな、と俺は目に力をこめてみた。
いきなり視界がクリアになる。
ダンディなおじさまがいた。
金髪で、彫りの深い顔立ち。ハリウッドのイケメン俳優みたいなオジサマだ。豪華な服も着ている。
イケオジは俺を抱えて歩き出す。
「どうだ、ギーゼロッテ。余とそなたに似て、美しい男児だぞ。髪と瞳の色はそなたと同じであるが、ほれ、左胸に〝王紋〟が現れている。余の子で間違いないようだ」
そっと差し出した先に、めちゃくちゃ美人さんがいた。
こちらは黒髪、瞳も黒い。若い。お肌真っ白。顔が気味悪いほど整い過ぎてる。
さすがイケオジで王様。若くてべっぴんの嫁さんがいるとはね。
「いやですわ。わたくしが不貞を働くわけありませんもの」
なんだろう? 会話に不穏な響きが混じっているような?
ともあれ、どうやら俺は、どこぞの国の王子に転生したらしい。
八男くらいならひきこもっても文句を言われないんだけどなあ、なんて考えていると、王様は俺を抱えて別室へと移動した。
なんかおどろおどろしい部屋に入ったぞ?
窓は分厚いカーテンで隠され、方々に置かれた燭台の明かりで室内が揺らめいている。
広い部屋の床には大きな魔法陣が描かれていて、その中央には木製のベビーベッドが置かれていた。
「お待ちしておりました、陛下。準備は整っております」
そして黒いローブを着た爺さんが、にたりと笑う。怖いよ。
「うむ。では頼むぞ」
俺はローブの爺さんに預けられ、ベビーベッドに寝かされた。
爺さんが取り出したのは、手のひらに乗っかるほどの水晶玉だった。
何やら呪文らしきを口ずさむ。
やがてクワッと目を見開いた。だから怖いってば。
と、水晶玉がぴかーっとまばゆい光を放った。うおっ、眩しい。
しかも手のひらから落ちそうなくらいぶるぶる震え、室内なのに突風が巻き起こる。
「な、何が起こっているのだ!?」
父、大慌てである。
やがて異常現象が治まった。
「む、むむむ……これは……っ!?」
「どうだ? 王子の最大魔法レベルは?」
どうやら今は、俺の魔法レベルを測定しているらしい。
女神的な何かの説明によると、この世界の人は生まれながらに誰でも魔法を扱う才能を持っていて、しかし素質は生まれた瞬間、決定している。
最大魔法レベルは、そいつが生涯で到達できる魔法レベルの最大値。
どんなに努力しても、これを超えることはない。
「なにせ余と、『閃光姫』ギーゼロッテの息子だ。40……いや、この不思議な現象を考えれば、50を超える資質を持っておるやもしれぬ!」
父、大興奮である。
最大魔法レベルの歴代最高値は、たしか77だと説明にあった。そいつは大賢者様と崇められていたそうな。
一般的に30を超えるとかなりすごい。平民でも後のレベル上げ次第で貴族にのし上がれるほどだ。
ところが、である。
「………………2、です」
「む? 今、なんと言ったのだ?」
「ですから、王子の最大魔法レベルは、2、であるようです……。あ、しかも属性が何も表示されていませんね。これでは結界魔法しか使えません」
これまた説明によれば、この世界の人は生まれながらに『属性』なるものが決まっている。
【火】【水】【土】【風】の基本四元素に加え、【光】や【闇】なんてのもある。
これらがひとつか複数あると、それ系統の魔法が使えるのだ。
自分が持つ属性と異なる属性の魔法は使えない。
結界魔法だけがその例外らしいが、その辺の説明はなかったな。
水晶玉には、【02】/【02】と表示されていた。それ以外はなんもない。
「あー、でもですね。現在の魔法レベルも2です。生まれながらに最大魔法レベルに到達しているとは。さすが王子ですな!」
爺さん、冷や汗を垂らしながらのフォローである。
が、王様はぷるぷると震え、怒声を吐き出した。
「バカ者が! 出生時に魔法レベルが2である事例などそう珍しくはないわ! 2……2だと……? 最大が? しかも属性ナシ? そんなポンコツが余の種から、閃光姫の腹から生まれたというのか!」
ひぃっと爺さんは腰を抜かす。
「いや、これは『ミージャの水晶』が壊れているのだ。うむ、そうに違いない!」
親父、必死である。
でも俺もそう思うよ。測定器がダメなパターンはありがち。
女神的何かがくれたチート能力は不明なのだが、仮に最大魔法レベルに関係しないとしても、いくらなんでも2ってことはないでしょ、2ってことは。
「し、しかし今も測定前の準備でも、私で試しましたが特に問題なく――」
「すぐに別の水晶を持ってまいれ!」
爺さんは四つん這いになって部屋を飛び出した。
しばらくして、爺さんと他にも何人かローブ姿の男たちが入ってくる。一人がバスケットボールくらいの水晶玉を抱えていた。
同じ儀式が始まる。
結果も同じ。
親父さん、目からハイライトが消えた。
たぶん俺も消えてる。
「本日生まれた我が息子、ラインハルト王子は…………死んだ」
ん?
「死産であった。そうだな?」
ぎろりと周囲を睨みつける。
ヤバいぞ目がマジだ。なに? 俺って転生直後に殺されちゃうの?
チートな能力は? くれるって言ったよね? ……ないのか。そうかー。
転生から一時間と経たずに、チートなひきこもり生活の夢は頓挫したらしい……。
口惜しさと憤りを『だー』とか『うー』とかでしか表現できない俺のすぐ横で、
「あれ? でも変だな……。どうして【2】じゃなくて、【02】って表示されてるんだ?」
ローブ姿の男の一人が、そんなことをつぶやいていた――。
★★★★★
一方そのころ、〝彼〟を転生させた女神的何かは同僚の女神的何かと話をしていた。
「なんかヤバいっぽいよ? ちゃんとチート能力与えたん?」
「あー、属性付与すんの忘れてた」とてへぺろする女神的何か。
「それアカンやつやん?」
「ダイジョブっしょ。魔法レベルはテキトウに高くしといたし」
あっけらかんと言ってのける彼女は、確かにちょちょいとテキトウに〝彼〟の最大魔法レベルと現在魔法レベルを高く設定しておいた。
〝彼〟の魔法レベルは2ではない。
魔力レベル測定用の水晶が二桁しか表示できなかったのが、〝彼〟の実力を正しく計れなかった原因だ。
真の魔法レベルは――。
【1002】/【1002】
本当に、テキトウすぎた模様である――。
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