ジュース。
「簡単フルーツジュースの作り方講座ー」
突如始まった彼女のジュース講座に、ぱちぱちと可愛い拍手が響く。
受講者は少女だけで他の人間は誰も居ない。
少女はちょっと高めの椅子に座ってワクワクした様子で説明を待っている。
場所は台所であり、テーブルにはミキサーが一つとコップが二つ。それ以外は何も無い。
「ここに完熟したバナナの皮を剥き、パック詰めして冷凍庫に入れて凍らせたものが有ります」
事前に用意しておいたバナナを冷凍庫から取り出し、少女に見せながら説明をする彼女。
ただし今日作るつもりで入れていたのではなく、気が向いたら作ろうと適当に入れた物だ。
内心「入れてたの早めに思い出してよかったぁ。まーた先輩に怒られる所だったよ」等と思いながら作業に入っている。
因みに思い出したのはお茶に氷を入れようと冷凍庫を覗き、その際にバナナを発見したからだ。
もう二、三日放置していれば複眼が彼女に直接怒るか、女に報告して怒られるかのどちらかになっていただろう。
羊角と単眼は誰の仕業か解っているので気が付けば教えてはくれるのだが、冷凍庫から使いそうな物を出すのが大体複眼なので気が付く事は少ない。
折角なので少女にも振舞おうと、特に意味は無いが講座形式で調理が始まったのであった。
「これを適当に切ってミキサーにドーン。あ、切り方は本当に適当で良いよ」
凍っている果物独特の音を鳴らしながら刻まれるバナナ。
その音にも少し楽しい気持ちになりながら、少女はフンフンと説明を聞いている。
刻まれたバナナは説明通りポーンと投げる様にミキサーに入れられた。
凍っている為に少々高めの音を鳴らしている。
「そして取り出したるは牛乳でーす。これを・・・目分量で適当な量を入れます」
既に説明が怪しげになって来ているが、彼女なので気にしてはいけない。
とはいえ普段からそれなりに作っている様で、本人の言う通り適度な量が注がれる。
少女はトプトプとミキサーに注がれる牛乳を真剣に見つめていた。
「そして塊が無くなるまでまぜまーす」
ギュイーンと音を立てて動き始めるミキサー。
少女は足をパタパタさせながらその様子を見つめていた。
そのまま暫くミキサーが動くだけの時間が続くが、二人ともとても楽しげな様子だ。
少女は混ざっていく様子を見るのが楽しく、彼女は楽し気な少女を見るのが楽しいらしい。
「さーて、そろそろ良いかにゃー?」
ミキサーを止め、中の様子を見る彼女。
そして納得したのかミキサーの器部分を外し、コップにトプトプとジュースを注いでいく。
少しだけとろっとした白い物を、少女は今か今かと待ち構えている。
「はーい、こちらが完成したフルーツジュースとなりまーす」
そう言って少女にジュースをずいっと近付ける彼女。
そして自分の分も注ぎ、コップを手に持った少女を確認。
「かんぱーい♪」
コンと可愛い音を立ててコップがぶつかり、少女もにっこりと応える。
そして二人でくいっと一口含み、二人共ニカーっと笑顔を見せた。
美味しく出来ていたらしい。
「あ、そうだ。今回は凍った果物でやったけど、凍って無い果物の場合は氷と一緒に入れると良いよー」
どうやら途中で講座だった事を思い出し、説明を付け加え始める彼女。
少女はフンフンと真面目に聞いている。後日女か男に作るつもりになっている様だ。
その時の事を想像し、コクコクとジュースを飲みながら楽しみにする少女であった。
尚、後日複眼がこの事を知り「それはバナナジュース。フルーツジュースっていうのはこういう物」と、もっと色々な果物を使ったジュースを振舞い、少女は衝撃を受ける事となる。
その後しばらく色んなジュースを持って来られる男であったが「コーヒーとかお茶を偶には飲みたい」と思いながら口に出せない日々が続くのであった。