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絵。

「んー、こんな感じでどうかな」


単眼は紙に描いた絵を少女に見せる。

少女はその絵を見て驚きを見せ、尊敬する様なキラキラした瞳を単眼に向けた。

紙には犬の絵がデフォルメで描かれており、とても可愛らしい絵になっている。


「あはは、気に入ってくれた?」


単眼の問いに少女は大きくコクコクと頷く。

そして再度絵に視線を向け、はーと溜め息を吐きながら見つめている。

どうやら余程気に入ったらしい。


「人形を作る時にどんなの作ろうって、一度絵にしたりするから慣れてるんだ。ただデフォルメの絵しか描けないけど」


単眼の言葉通り、描かれた絵は確かに可愛らしくデフォルメされた物だ。

絵画や美術品の様なリアルな物とは程遠い。

だがそれでも悪い絵などではなく、味のある可愛いイラストに見えた。

勿論少女はとても気に入り、物凄く嬉しそうにその絵をどう残すか考え始めている。


「あはは、確か部屋に使ってないファイルが有ったから、後であげるね」


単眼が楽しそうな少女の頭を撫でながら言うと、少女はニコーっと良い笑顔を見せる。

それがまた可愛くて、単眼は少女を抱き上げて優しく抱きしめた。

少女もきゃーっと楽しそうに応え、単眼の首に抱きつく。


「あら、今日はお絵かきしてたの?」


そこに羊角がやって来て、テーブルに並ぶ紙を見ながら訊ねる。

散らばる紙に描かれた絵を見て、羊角は思わずにやけてしまった。


少女の描いたらしき、おそらく懸命に描いたのであろう絵。

明らかに絵を描き慣れていない、幼児が描いた様な絵に。

いや、その絵を描いている様子を想像してにやけてしまったのだ。


「可愛いぃ・・・絵の練習してたの? 今からまだ描くの?」


スチャッと何処からかカメラを取り出す羊角。

描いていた様子を撮れなかった事に悔しがるよりも、今からの事に力を入れるつもりらしい。

だが少女はその答えより、単眼に描いて貰った絵を羊角に見せる。


「あら可愛い。もしかしてもうそこまで描けるようになったの?」

「ううん、これは私が描いた物だよ」

「それはそれで可愛いわ。貴女本当に可愛らしいわね」

「え、えへへ、そうかな?」


羊角に可愛いと言われ、少し照れる様に笑う単眼。


「これで大きくなかったら完璧なのにねぇ」

「うっ、ぐっ・・・酷い・・・喜びを返して・・・」


だが次の一言で単眼は崩れ落ちた。

落ち込む単眼に慌て、優しく頭を抱きしめる少女。

だが単眼は頭を落としたまま少女に抱きつき、起き上がる様子を見せなかった。

上げてから落とされた為に少々ダメージが大きかったようである。


「まあまあ、可愛いっていうのは本当だから」

「うう~・・・ふーんだ」

「あら、拗ねちゃった」


羊角はこの会話の間も慌てる少女を撮り続けている。

単眼は出汁に使われた事に気が付き、少女を隠す様に抱きしめてぷいっと羊角から顔を背けた。

本当に体の大きささえ目を瞑れば可愛らしい女性だと、羊角は内心思いながらクスクスと笑う。


「ごめんなさい、揶揄い過ぎたわね。今度お詫びに何か甘い物でも驕るわ」

「まったくもう・・・おチビちゃんの分も買ってね」

「天使ちゃんの分ならいくらでも♡」


喜ぶ様に応えた羊角に溜め息を吐き、単眼は少女を抱えてテーブルに戻る。

そのまま椅子に座り、少女を膝の上に乗せる。

単眼の機嫌が直った事に少女はほっと息を吐いていた。


「所で何で絵を描き出したりしたの? また旦那様がらみ?」

「そうといえばそうだけど、違うと言えば違うかなぁ。ほら、この間楽しそうに絵本読んでたの覚えてない?」

「ええ、可愛かったし、ちゃんと撮ってるわよ」

「・・・ああ、そう、えーと・・・それで、ちょっと、絵を描いてみたくなったらしくてね」


先日少女が買って貰った絵本。それは少女に絵を描くきっかけを与える物になったらしい。

可愛い絵を見て自分も描きたくなり、色々と殴り描いていたのだ。


単眼は偶々そこにやってきて、最初は少女のお絵かき風景をのんびり眺めていた。

ただ何となく見ていて自分も描きたくなり、描いている内に少女が興味津々で見つめ始める。

その結果が冒頭の様子であり、今に至るのだった。


「成程ねー。それでこの可愛らしい様子って事なのね」

「そうそう」


そしてその説明をしている間、少女は鼻歌をフンフンと歌いがなら絵を描いている。

やはりその絵はけして上手いとは言えず、どう見ても幼児が描く落書きそのものだ。

字はそれなりに綺麗だというのに何故なのか。


「・・・ねえ、おチビちゃん、もしかしてこれ、旦那様と先輩?」


単眼は少女の書く絵を見つめて訊ねると、少女は解って貰えた事に笑顔で頷いた。

その絵はスーツの様な服を着た何かと、使用人服っぽい何かの絵。

どうやら男と女の絵らしい。そしてまたご機嫌に絵の続きを描いて行く少女。


「あー・・・これは先輩、暫く凄い顔になりそう」

「うん、絶対なると思うわ」


この絵を渡された女を想像し、一日使い物にならなくなるだろうなと思う単眼と羊角であった。

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