心地いい季節。
「いやー、良い季節だなぁ。あたしこの時期が好きだわ。過ごし易い」
ポカポカと丁度良い熱を感じる日光と、だがそれでいて暑いと感じない丁度良い気温。
そんな過ごし易い時期になって来た事に喜び、玄関先で座ってまったりとする彼女。
そしてその膝の上には少女が座っており、同じ様にまったりとお日様に当たっていた。
彼女は少女のお腹を抱える様に手を回し、少女もその手を抱える様に握っている。
二人とも同じ様な表情でぽやーっとしており今にも寝そうな様子だ。
そんな二人を見て、正確には彼女を見て、小さく溜め息を吐く複眼。
「あんた何時でも同じ様な事言ってるわね」
「そうだっけ?」
複眼の突込みに彼女は惚けるが、大体彼女は何時も似た様な事を言っている。
春になれば過ごしやい気温でお昼寝が気持ち良い。夏は暑い暑いと騒ぎながらもアイスを食べるその爽快感が良い。秋は過ごし易く色々と収穫時期で食べ物が沢山有って良い。冬は寒いけど暖かい食べ物が美味しくて良い。
等と、文句を言いつつも大体いつも何かしら良いと言っていた。
「でもこの時期が過ごし易いのはホントじゃん?」
「まあね。暑くも無く寒くも無く楽で良いわ」
複眼も夏の暑さは堪える様で、涼しくなっている事は好ましいらしい。
だからと言って冬の寒さが好きという訳でもないので、複眼の場合は本当にこのぐらいの気温が丁度良いと思っている。
ただ夏は夏で生き物が活発に動き動くので、夏は嫌いとも言い難い。
特に爬虫類系が元気に動く時期は、複眼にとっては良い時期だ。
それが食卓に出て来る男にとっては地獄の時期かもしれない。
とはいえ年中何かしらゲテモノを持って来るので、余り関係ないかもしれないが。
「寒くなったら寒くなったで、角っ子ちゃんとこうやってくっついてれば暖かいし。ねー?」
前に居る少女の顔を覗き込むようにして、ねーっと笑顔で首を傾げる彼女。
少女も同じ様にねーっと首を傾げ、にかーっと笑う。
彼女はそれが可愛くて少女を後ろからギュッと抱きしめ、少女も楽し気にギュッと腕を抱きしめた。そして二人とも気持ち良さそうに頬を擦りつけている。
「子供って体温高いから気持ち良いのよね」
「そうそう、心地良いのよ。抱いてると寝そう! 今も寝そう! これは自慢出来るよ!」
少女の体温は確かに少し高めであり、だがそれでも心地よい暖かさを持っている。
その上少女は皆が認める程肌触りも良く、最近は食事もしっかりとって運動もしているので肉も付いてきており、抱き心地はかなりの良さを誇っていた。
いや、誇っているのは彼女だけで、別に外に言う事でも無いのだが。
「誰に自慢するのよ・・・じゃあ早く放しなさい」
「嫌だい嫌だい! あたしはこの心地良い暖かさを抱えて眠りにつくんだい!」
「もうすぐ休憩終わるのに寝てどうすんのよ・・・」
「・・・寝ながらお仕事?」
「出来るもんならやってみろ」
彼女のいつも通りの言動に、若干イラッとした様子を見せる複眼。
その様子を感じ取った少女はワタワタと彼女の膝から降り、複眼の前に気を付けをしてピシッと立った。お仕事をちゃんとします、という意思表示らしい。
複眼は思わずくすっと笑ってから膝を曲げ、少女の目線に合わせて頭を撫でた。
「ん、ちみっこは良い子だね。そこの駄目人間みたいになっちゃ駄目だからね?」
「ちょ、マジトーンで言うのやめてよ! 今の全然冗談に聞こえなかったよ!?」
「冗談じゃないし」
「それこそ酷くない!?」
ぎゃぎゃーと騒ぎながらも立ち上がり、複眼に文句を言いながら仕事に戻る彼女。
複眼も適当にあしらいつつも彼女と一緒に歩いて行く。
少女はそんな二人の後をニコニコしながらポテポテと付いて行くのだった。