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補助。

「あれ、珍しい格好して・・・あれは一体何をやっているんだろう・・・」


庭で何かをやっている少女を見かけ、首を傾げる少年。

それもそのはずで、その日の少女は庭で珍妙な動きを繰り返していた。


何時もの体操に近い動きもしているが、それも普段と少し違う様な動きだ。

片足を高く上げ、だがバランスが取れずに途中でワタワタと両足を付き、むーっと納得いかない表情をしている。かと思えば逆立ちをして、そのまま前方に倒れて背中から落ちていた。

傍から見ると何をしているのか全く分からないが、解らないからこそ目を引いてしまう。


尚且つ珍しくスカートではなく、パンツ姿な事も目を引く要素だろう。

上着は余り装飾の無いシンプルなノースリーブで、下はレギンスの類で動きやすさ重視の格好だ。汚れても良い格好、とも言えるのかもしれない。

髪は後ろで纏められてポニーテールになっており、少女が動く度に可愛く揺れていた。


因みに日に焼けない様に日焼け止めはしっかりと塗られている。

着替えさせたのは女なので日焼け止めを塗ったのも女なのだが、その最中に少女の二の腕を無表情でプニプニしたり、首筋や足に塗る時にくすぐったがっている少女に般若の顔を向けていた。

その際の少女は楽しくて終始笑顔であり、楽し気な笑い声が部屋から漏れ出ている。

部屋から洩れる少女の楽しげな様子に、羊角が「なんで私がやっちゃ駄目なの・・・!」と廊下で絶望に打ちひしがれていたのは余計な話だったかもしれない。


「ん、あれ?」


少年はぼーっと少女の動きを観察していた。

ただそれは何をしているのか気になってというよりも、見惚れていた、に近い様子ではあった。

事実少女が少年の存在に気が付き、手をふって駆けて来るまで完全に停止していたのだから。

気が付いた時には少女は既に手の届く距離まで迫っていた。


「え、えっと、どうされました?」


少年はいつも通り距離の近い少女に少し気圧されながら、一歩下がりつつ答える。

だが少女はその分一歩詰めて来るので意味は無く、少年の手を掴んで庭を指さして手を引いた。

そしていつも通り慌てている間に連れていかれる少年。

それなりに触れる機会が増えているはずなのに、相変わらず耐性が付く様子は無い。


少女は庭に少年を連れて来ると、傍に置いていたらしいタブレット端末を見せる。

それには様々な種類の体操をする人々の映像が流れており、中には先程少女がやっていた様な動きに近い物も有った。


「もしかして、これをやっていたんですか?」


少年の問いに笑顔でコクコクと頷く少女。

とはいえ少女の動きは映像の動きとはかけ離れており、いちいち動きが珍妙であったが。


「でも、気を付けないと危ないのも有りますよ。誰か見てる所でしないと、怪我した時・・・」

「私、一応居るのよ? ちゃんと万が一に備えて」

「わあ!?」


少年は耳元にふっと息を吹きかけられながら声をかけられ、驚いて飛びのく。

そして声の主に視線を向けると、そこにはカメラを手に持った羊角が立っていた。

というか、実はずっと傍に居た。少年が気が付いていなかっただけだ。


「天使ちゃんが魅力的で視線を奪われちゃうのは解るけど、こんなに近くにいるお姉さんに気が付かないなんて、少し傷ついちゃうなぁ・・・」

「あ、あの、す、すみません!」

「ふふ、冗談よ。気にしないで。それだけ天使ちゃんが可愛くて素敵で大好きって事だものね」

「え、あ、そ、その、う」


羊角の言葉に何と答えれば良いのか解らず、完全に頭が真っ白になっている少年。

その様子に少女は首を傾げ、羊角はとても楽しそうに並ぶ二人を見つめていた。


「そうだ、折角だから、補助をやってあげたらどう?」

「え・・・補助、ですか、別に構いませんけど」


そして良い事を思いついたと言わんばかりに提案する羊角。

勿論そこにはとある意図が合っての事なのだが、少年は全く気が付く様子は無く、それぐらいならばと頷く。

それを聞いて少女は少年を軽く抱きしめ、感謝の気持ちを伝えるのであった。


「狙い通り」


小さく呟きながら即座に複数角度からシャッターを切る羊角。

そこには嬉しそうに笑顔で抱きつく少女と、顔を赤くしながら硬直する可愛らしい二人の姿が。

少女はそんな事は全く気にせずに離れると、少年の前に立って逆立ちの準備をし始める。


「ほらほら、戻っておいでー」

「はっ! あ、は、はい!」


羊角は少年の頬をプニプニついて呼びかけ、少年はワタワタとしながら構えた。

そして逆立ちをする少女の足を支えようとして、大変な事に気が付いてしまう。

補助をするという事は、足を掴むという事。少女に触れるという事。


どこを掴めば良いのだろうかと直前まで迷った挙句、少年は太ももを掴んでしまった。

少女は少年のおかげで逆立ちの状態を保てている事にご満悦だが、少年はそれどころではない。

太腿の柔らかい感触と、それと同時に距離がとても近く、何時もは服で見えないお尻や腰回りがはっきりと見える上に、かなり近い事にまた真っ赤になり始める。


その結果、少女がバランスを取れていないのに腕の力を緩めてしまい、二人は重なる様に倒れてしまった。


「ぐふっ! いつ・・ううっ・・・大丈夫で・・・すか・・・」


頭を打たないようにはしたものの、胸に強い衝撃を受けて呻く少年。

それでも少女の身を案じて問いかけるのだが、顔を上げて目にしたものに絶句してしまった。


少年が胸に痛みと重み感じつつ頭をあげると、目の前に少女の股があったのだ。

素直に倒れていたならそうはならなかったのだろうが、少女は倒れる際に思わず手で跳ねてしまった。結果少し倒れる位置がずれ、少年の胸に尻が乗る形で倒れてしまったのだ。

少年は胸の痛みと尻の感触と目の前の光景に、完全に思考回路が働かなくなっている。


少女は少年の上に倒れてしまった事に気が付き、ワタワタと慌てて離れてすぐに頭を下げて謝るが、暫くそのままで待っても少年の反応が無い。

怒っているのだろうかと恐る恐る顔をあげると、少年は頭を上げた体制のまま気絶していた。

どうやら先程の出来事は、少年の処理能力を超えてしまっていた様だ。

少女は少年の目が何処も捉えていない事に気が付くと、飛び跳ねる様に驚いてあわあわと羊角に視線を向ける。


「あらあら、大変。ベッドに連れてってあげましょうか」


羊角はクスクスと笑いながら少年を抱えようとしたが、少女がふんすと抱えてしまう。

そしてダッシュで屋敷に戻り、介抱する為に少年の部屋へ向かった。


「んー、これ、もう一回ぐらい何か有りそうねぇ」


羊角はその様子を見届けつつ、固定していた別のカメラを回収してから追いかけるのであった。

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