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市場。


「こら、あまりキョロキョロしていると迷子になるぞ。せめて誰かの手を掴んでおけ」


女に注意され跳ね上がり、慌てて一番近くにいた彼女の手を握る少女。

そして手を繋いだままぺこりと頭を下げた。

女は素直に従った少女の頭を撫でようと手を伸ばすと、先に彼女に撫でられてしまう。

少女は気持ち良さそうに受け入れているが、横取りをされた女は射殺す様な目を彼女に向けた。


「先輩、最近嫉妬酷くないですか。流石に些細すぎるでしょう」

「・・・そんな事はない」


彼女はその眼光に怯む事も無く突っ込むと、少し恥ずかしくなった女はフイッと目を背けた。

少女は撫でられている間目を細めていたので、何が有ったのか解らず首を傾げている。

それが尚の事女に羞恥を感じさせたのか、それ以上応えずスタスタと歩きだした。


「あはは、最近の先輩、本当に可愛いよね」


その様子を皆の後ろで見ていた単眼が、クスクスと笑いながら感想を口にする。

彼女もそれに苦笑で返す事で同意し、少女は良く解らない感じで首を傾げていた。

少女にとって女は格好良くて何でも出来る凄い人なのだから。


むしろ少女にとっての可愛い人物は、少年の様な存在だ。

少女の知る少年は、何処か遠慮がちで、恥ずかしがりやで、ちょっとびくびくしていて、気を遣いがちで、とっても可愛い男の子となっている。

無論それは少年が少女にある想いが在るからなのだが、少女がそれを察する気配は無い。

少年の恋は、本当に遠い。





今日は彼女と単眼と女と少女の4人でお出かけしている。

と言っても遊びに来たわけではなく、市場でお買い物だ。


四人とも私服で買い物に来ているのだが、最初は使用人服で来る予定だった。

だが彼女がそれを拒否。たとえ仕事でも街中で使用人服は着たくないと主張した。

最初こそ女は仕事だからと却下したのだが、少女もいつか行きたいと言っていたし可愛い格好をさせて行こうと言われ、即座に手のひらを返したのであった。


「ふっ、他愛ない」

「聞こえているぞ、減給女」

「ああー、どうかー! どうかご勘弁をー!」


等という一幕もありはしたが、最終的には今の状態で落ち着いた様だ。

一応明記しておくが、流石に減給は冗談である。流石にこの程度で減らしては彼女も怒る。


女は前と同じ様なピシッとした服装で、少女は以前お出かけした様な可愛らしい服装に帽子を被っている。今回も帽子にご機嫌の様だ。

彼女はチュニックにミニスカという組み合わせで、まるで穿いていない様に見える。道行く男達の視線が彼女の足に行っているが、彼女が気にする様子は無い。

単眼は腰に絞りの付いているマキシ丈ワンピースで、全体像を見ればそれなりにスタイルは良い。だが周囲に溶け込まない巨体により、殆どの人間がただその大きさだけを見ていた。


中々目立つ4人組であるが、本人達は特に気にしていない。

単眼だけは少し気にしてはいるが、それは「大きいなぁ」という視線が少し悲しいというもの。

四人組の女性達に向けられる視線に関しては、意に介す気がない様だ。


ただし少女という存在により、下手に声をかけるという選択は誰も起きない様子ではある。

子連れに声をかけるのは、色々と難しい事を考えるのだろう。


その当の少女は見た事有る物も無い物も沢山有る市場に、興味津々でキョロキョロしていた。

勿論少女も買い物をした事が無い訳では無いが、大きな市場に来るのは始めてだ。

初めての場所に大分テンションが上がっている。

何より少女が一番興味深く見ているのが、まだ捌く前の巨大な魚達だ。


屋敷では小さい魚介程度はそのまま冷凍庫に入っていたりするが、大きな生き物の食材は捌いた物しか基本は見ていない。

先日の猪は別として、基本的に少女は既に捌いた後の物しか見た事は無かった。

映像などでは多少見た事は有るが、実物を見るのは今日が初めてな物が多い。


勿論それ以外にも初めて見る物は多く、少女の興味は尽きる事は無い。

彼女の手を握りながらも、右にふらふら左にふらふらと興味深々だ。

手を繋いでなければ本当に迷子になっているかもしれない。


「ふふ、おチビちゃん、楽しそうね」

「角っ子ちゃんにしたら初めて見る物が沢山だろうからね」


少女の様子をクスクスと笑いながら面倒を見る彼女と単眼。

その間に女は一人真面目に必要な物の注文をし、ちょっと寂しくなっていた。

ただ真面目に仕事をする女の姿はしっかりと少女の目に入っており、女の株は上がりっぱなしではあるのだが。

とはいえそれを女が察せるはずもなく、やはりどこか寂しそうではあった。


「ほら、先輩買い物終わったみたいだし、行っといで」


女の買い物が終わった辺りで、彼女が少女に声をかける。

少女はほんの少し躊躇いを見せたが、こくりと頷いてパタパタと女の下へ駆け寄った。

そして女の手を飛びつく様に握り、女はほんの一瞬驚くもその手を優しく握り返した。


「全く、世話が焼けるねぇ、あの二人は」

「あはは、二人共本当に可愛いよね」


少女はただ近いからというだけで彼女と手を繋いだわけではなかった。

女は先程からずっと真面目に仕事をしている。なので邪魔してはいけないと思っていたのだ。

だが買い物は終わり、女の仕事は終わった。

だからもう甘えに言って良いよと彼女は促したのだ。


「さて、じゃあ二人には楽しんで貰うとして、私達は積み込みやってこようか」

「そうだね、声かけると角っ子ちゃんも手伝うって言いそうだし、行こうか。終わったら後で電話すれば良いでしょ」


因みに市場にはトラックでやってきており、注文した品はトラックの傍まで運ばれている。

それらの荷物を載せるのが単眼の何時もの仕事だ。

運転手は女で助手席には少女。荷台には彼女と単眼が乗る形となっている。




なお、彼女が何故来たのかと言うと、彼女を気に入っている人間が市場には多く、少々まけてくれる事が多いからである。

本日はその役割を少女が無意識に担っており、各店舗の店主たちはでれっとした様子で少女の相手をしていた。

無論、少女にそんな気は一切無く、無いからこその破壊力だったのであろう。

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