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猪。

ある日、いつもの様に少女が本日の分の野菜をもぎって顔を上げると、猪と目が合った。

どうやら山から下りて来て、畑の野菜を食べに来たらしい。


猪は臨戦態勢で今にも飛び掛かって来そうだ。少女もそれを感じ取って身構える。

すると猪は少女の何に気圧されたのか、じっと少女を見つめ始めた。

ただそれは襲うのを止めたというよりも、何をするつもりかと警戒している様だ。


お互い見つめ合う確かな緊張感。そして―――大きく、どこか乾いた印象のある音が鳴った。

直後に猪は力なく倒れ、少女が驚きながら音源に顔を向けると、ライフルの弾を装填している複眼の姿が。

複眼は弾を装填し終えると倒れた猪に銃口を向ける。


「・・・一発で行けたか。久々だったけど使えて良かった。何やってんのちみっこ。猪に真正面から行くとか、危ないよ」


ふぅと息を吐きながら銃を下ろす複眼。

だがテクテクと猪に近づくと、念の為と頭にもう一発撃ち込んだ。どこまでも冷静である。

少女はその光景に少し悲しくなってしまったが、ちゃんと食べるので安らかに眠って下さいと祈るのであった。


「何事かと思ったら猪か。中々デカいな。怪我は無いか?」


そこに女も現れ、少女の頭を撫でながら訊ねる。

少女はコクコクと頷き、手を大きく広げて無事な姿を見せた。

何となく幼児がだっこしてほしいとねだっている姿に見えて、思わず抱き上げそうになる女。

だが背後から聞こえた音にはっと正気を取り戻し、微妙に手を彷徨わせながら止まる。


「銃声の音が近かったから驚いたー。角っ子ちゃんは無事ー?」

「天使ちゃんに怪我は!? 怪我はない!?」

「猪かぁ、危なかったねぇおチビちゃん」

「二人とも怪我はありませんか?」


どうやら音を聞きつけて全員畑にやって来たらしい。

皆少女の心配をしているが、複眼の心配をしているのは少年だけの様だ。

その事に少しだけ不満を持ちつつ、少女に抱きつこうとする羊角を蹴る複眼であった。

勿論皆の内心は別であろうが、態々言い直す程の仲でもない。


尚彼女と羊角の手には拳銃が握られており、どういう状況を想像していたかが察せられる。

彼女は気楽に指でくるくると回しているが、セーフィティはかかっているので大丈夫だろう。

そして男が最後に走ってやって来た。どうやら銃声で目を覚ましたらしい。

ただ皆が既に談笑している姿を見て、完全に出遅れた事を察した様子だった。


「あー・・・問題無さそう?」

「遅いですよ旦那様。もし悪漢だとすれば今頃この子が大変な事になっていますよ」

「いや、だって、俺、寝てたし・・・」

「役に立たない男ですね」

「うぐっ」


女の容赦の無い言葉が男に突き刺さる。

今日は完全に出遅れた自覚があるだけに言い返し難い様だ。

悔しそうな顔を女に向けるが、いつもの様に言い返す様子は無い。

女は男を見下すような視線を向けた後に口を開く。


「旦那様、私は近所の方に先程の銃声の説明をしに行きます」

「ああ、頼む」

「あ、先輩、あたしも行きます。近所だけで良いですよね?」

「東側から頼む。私は西側に行く」

「らじゃーっす!」


女と彼女はご近所さんに先程の銃声の説明に向かい、少女は二人に手を大きく振って見送る。

彼女は同じ様に大きく手を振って返し、女は軽く手を挙げて返した。


「これ血抜きしたいから手伝って。ロープ取って来るからその間持っててくれる? 屋敷の近くの木に吊るすからそこで待ってて」

「うえー・・・私こういうの苦手なんだけどなぁ・・・」


複眼は何処に持っていたのかナイフで猪を斬り、さかさまに持つ様に単眼に指示。

単眼は嫌がりながらも猪を逆さまに持ち、そのまま二人は屋敷に戻っていく。


「じゃあ私達は朝食の用意しましょうか」


羊角にそう言われ、野菜を渡そうとして持っていない事に気が付く少女。

どうやら先程猪を警戒した時に落としたらしい。

半分以上の野菜が割れるか折れるかしてしまっており、しょぼんと肩を落とす少女。

そんな少女の姿にも悶える羊角だったが、少しだけ自分を抑えて野菜を拾う。


「大丈夫。どれも洗えば使えるわ。そんな顔しないで、ね? 貴女は笑顔が一番可愛いわ」


膝を突いて優しく告げる羊角。

その言葉に少女は素直に笑顔になり、落とした野菜を全て拾う。

そして台所に向かい、それらをきっちり使ってくれた羊角に少女は満面の笑みを向けた。

最近の羊角個人には余り向けられた記憶の無い種類の笑顔である。


「ああ、この感じ久しぶりだわ・・・!」


素直に少女が笑顔を向けてくれる光景に、少し懐かしい喜びを感じている羊角。

勿論調理前にカメラを動画でセットしているので、その辺りは相変わらずである。




因みに男は普段起きない時間に起きたせいで、退屈そうに朝のニュースを眺めて一人寂しく時間を潰すのだった。

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