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写真。

かしゃっと、電子音のシャッター音が屋敷に響いた。

フラッシュも同時にたかれた事で、写真が撮られたのだろう事が解る。

光の先に居たのは彼女であり、不機嫌そうに音の発信源に顔を向けた。


「ん~、何あたしなんか撮ってんの、あんた・・・あれ、角っ子ちゃん?」


てっきり羊角だと思っていた彼女は、思い切り不機嫌な顔を少女に向けてしまう。

少女は向けられた事の無い彼女の睨み顔に、ビクッと跳ね上がった後に、とにかく謝を下げた。

悪戯心が全く無かったわけでは無いので、余計に少女は素早かったようだ。

とはいえ、彼女ならきっと笑って許してくれる、と思ってだったのだが。


「あ、い、いや、ごめん、角っ子ちゃんだと思って無くて。怒って無いから、大丈夫だから。ね、顔上げて? ほら、いつもの優しいお姉さんでしょ?」


泣きそうになっている少女を慌てて宥め、ニッコリ笑顔を見せる彼女。

少女も半泣きになりつつもコクコクと頷いて、どうにか本格的に泣くのは抑えられた様だ。


「はふー、あー、びっくりした。ごめんねー、カメラのフラッシュだったから、てっきりあいつかと思ってさ」


落ち着いた少女の様子を見て安堵の溜め息を吐き、もう一度謝る彼女。


「あれ、角っ子ちゃんの持ってるカメラ、えらく可愛いカメラだね。角っ子ちゃんにぴったりで凄く似合ってる」


彼女に似合っていると言われ、先程泣きそうだったのも忘れて笑顔になる少女。

少女が紐を付けて首から下げ、今手に持っているカメラは、俗にトイカメラと呼ばれるものだ。

可愛らしい小さなカメラだが、機能としては安いデジカメと遜色ない。


ただその大きさは、子供が持つと尚可愛く見えるサイズであった。

少女の小さな手に丁度良いカメラは、まさしく少女の為に有る様に似合っている。


「これ、買って貰ったの? ・・・先輩、かな?」


彼女の問いに、少女はこれ以上ないぐらいに嬉しそうにコクコクと頷く。

ある日羊角がカメラを撮っている様子を見た少女が、自分もしてみたいと言い出した。

その時は羊角がデジカメを貸して撮らせてあげていたのだが、羊角が女にどや顔を向け、ここからは最早説明は不要だろう。

因みにその日は逆海老固めであった。


「あっまいなぁ・・・最近特に甘いなぁ・・・良いけどさ」


お金をかけている額で言えば、ある意味男が一番酷いので、まだ金額的には可愛い方だろう。

農地手続き、ビニールハウス、農具、苗、種、肥料、ゲーム機、ソフト、モニター、教材。

自分達の給料幾ら分だろうと彼女は少し思ったが、笑顔で首を傾げる少女を見て、これは勝てないよなぁとも思ってしまった。結局彼女も同類である。


「で、素敵なおねーさんの仕事っぷりを隠し撮りしたかったって事?」


彼女はポーズを取り、ウインクして少女に訊ねると、少女は気合いを入れてコクコクと頷いた。

余りに素直に応えられ、彼女は少し恥ずかしくなった様だ。


だが引けない。一度ふざけたならそのままふざけ切る。

と、良く解らない意地を張ってセクシーポーズを取り出す彼女。

少女もそれに応え、気合いを入れて撮り始める。


「ほら、存分に撮りなさい! 好きなだけ! どれだけでも撮って良い――――」


柱をポールに見立てポーズをとる彼女の視線が、呆れた顔の複眼とばっちりあってしまう。


「・・・何やってんのアンタ」

「えーと、その、撮影会? あの、その、そんな目で見ないで・・・」


恥ずかしさで顔が赤くなる彼女だったが、複眼は全ての目でジト目を送る。

彼女は耐えられずに蹲るが、少女は最後にそんな彼女をパシャッと撮った。


「あら、トイカメラ? ちみっこ良い物持ってるね。成程、色々撮ってたわけだ」


少女はコクコクト頷くと、カメラを複眼にも向ける。

それで察した複眼は、にこりと笑って少女がシャッターを切るのを待った。

少女は笑顔で複眼を撮ると、綺麗に笑う複眼がきちんと撮れていた。


「おー、上手上手。随分綺麗だけど、これ手振れ補正が自動であるのかな? 画素もトイカメラにしては綺麗だね。いや、最近のカメラってこんな物なのかな? 最新機器は解らないなぁ」

「あー、ずーるーいー、あたしも、あたしも普通に撮ったのほしいー」

「・・・あんた自分でノリノリでポーズとってたじゃない」

「う、そ、それは、忘れて貰う方向で」


彼女が何故恥ずかしがっているのか少女は良く解らないが、彼女がもう一度と望んでいる様なので素直にカメラを向ける。

すると彼女は複眼の肩を抱き、ピースサインをしてにかっと笑った。

複眼もしょうがないなといった様子の笑顔でピースサインをし、少女はシャッターを切った。


綺麗に撮れていたので彼女も満足し、その様子を見て少女は別の物を取りに移動を始める。

トテトテと可愛く歩くさまはいつも通りだが、今日は何を撮ろうかキョロキョロしているせいで余計に足取りが怪しく、それが尚の事可愛く見える。

少女が見えなくなるまで見送ったあと、複眼はぽつりと呟いた。


「あれ、自分で印刷するのかな。誰かに頼むのかな」

「げっ」


複眼の懸念通り、後日に写真印刷を頼まれた男の知る事となる。

廊下で女豹のポーズやら柱でポールダンスやらをしている彼女の写真を見て、大爆笑しながら写真をばらまく男に、背後からラリアットをかます彼女であった。

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