表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/285

陽気。

少女は最近強敵と良く戦っていた。

その敵は強大で、最近の少女は敗北を重ねている。

何度か勝利はしているのだが、勝率は二割といったところだろうか。


そして少女は、今日も敗北を喫していた。




「ねえ、可愛いのは解るけどさ、あんた流石に気持ち悪いよ・・・」

「黙って。起こしちゃうでしょ」

「・・・はぁ」


羊角の様子に溜め息を吐く複眼。

だが言っても無駄だと判断し、すぐにその場から離れて行った。

邪魔者が居なくなった事で羊角は集中してカメラを構える。

静寂の中カメラの先に映るのは、立ったままうつらうつらとする少女の姿。


箒を手に、少しだけ壁に寄りかかりながら俯き、頭がゆらゆらしている。

少女は最近睡魔に負けていた。段々と暖かくなって来た陽気に負け続けていた。

そして羊角は連日の少女の眠たげな姿を撮り続けているのだ。


首がカクンと落ちた所ではっと気がつき、寝ぼけた顔のまま頭を上げる少女。

そのまま暫くぼーっとしてから、やっと頭が覚めてきたようでプルプルと頭を振る。

そしてぐっと手を握って気合いを入れ、手に持った箒で掃除を再開し始めた。

ただしその目はまだ少し開き切っていないが。


「はぁ~・・・かぁわいぃ~・・・」


一連の動きにご満悦の羊角。

ここ数日転寝をする少女の様子を多く撮っており、それだけの動画編集などもしている。

女と二人並んで動画を見ている様は、流石の彼女も「これは怖い」と言った程だった。


だがそれでも羊角の撮影は続く。周りの反応など知った事ではない。

自身がどう思われようと、少女を撮り続ける事こそが今の羊角の至高の楽しみなのだから。

天使の記録を残し続ける事が、今の自分にとっての使命なのだと。


「本当に天使ちゃんってば天使なんじゃないかしら。可愛過ぎる」


羊角の視界にフィルターがかかっている気がしなくも無いが、少女が可愛い事は事実であろう。

その可愛さは幼さから来る物もあり、羊角は成長しないで欲しいと無茶な願いを抱いている。

そんな願いむなしく少女はすくすくと・・・育ってはいなかった。

むしろその呪いの様な願いが叶うかの様に、余り成長はしていない。


勿論少しは大きくなっているのだが、成長速度は遅い部類だろう。

屋敷に来た頃と殆ど変わらない、小さな可愛い少女のままだ。


ただ違うのは健康である事と、元気である事。

それに外見が変わっておらずとも、内面は変わっている。

体も心も少女はきちんと成長しているのだ。

その様子が尚の事、羊角や女が見つめる結果になるのだが。


素直で可愛らしい部分はそのままに、少しだけしっかりして来た様子に羊角は悶える。

来た頃の怯え等もう既に無く、花の様な笑顔で向かって来る様子に眼光を鋭くする女。

ある意味でこの二人は同類なのだろうと、さぼりに入り始めた羊角の尻を蹴りながら思う複眼。


「あうっ!」

「ほら、終わり終わり」

「あー、あー! もうちょっと、お願いもうちょっと撮らせてー! 今可愛いのー!」

「さぼりは流石に見逃せない。私が先輩に怒られる」

「あー! あー! 天使ちゃんが可愛いのにー! 私の天使ー!」

「あんたのじゃないから」


その大声ではっと起きる少女。

少女はまた敗北していたのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ