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力の対策。

少女はまた悩んでいた。最近自覚し始めた事に少し困っていた。

自分の力が強すぎると。そして加減が下手だと。

勿論注意を払っている時は大丈夫なのだが、最近はうっかり破壊が多い事に。


一昨日は仕舞って欲しいと渡された食器を、力を込めたつもりは無いのに砕いてしまった。

昨日は洗濯物のシーツをパンと伸ばした時、古くも無い布なのに引き裂いてしまった。

今日は男と一緒にゲームをしていたら、コントローラーが音を立てて半分に割れてしまった。


幸いそれで大怪我をした事は今の所無いが、だからこそ余計に悩んでいる。

屋敷の皆は自分が何かを壊した事など気にせず、怪我が無いかを気にするのだ。

ただでさえ壊して迷惑をかけているのに、心配までかけてしまっている。

その事に少女は思い悩んでいた。


本人も自分が怪我をしない程頑丈ではないと解っているから、余計に困っている。

普通に擦り傷や切り傷はつくし、ぶつかれば痛い。

勿論かなり頑丈な部類には入るのだが、それでも怪我をする事実が有る以上、周囲の人間の心配を完全に消す事は出来ないだろう。


以前から力は強く体力もあった少女だが、最近殊更に成長している。

恐らく幼児期から健康的に過ごしていれば、最初からこれだけの力を持っていたのだろう。

ただ少女のこれまでの人生では加減を覚える様な環境に無かった。

むしろ全力で生命力を振り絞って生きていた様な状態だ。


それが屋敷に来て、健康的な生活をして、本来発揮されるべき身体能力になっている。

いや、それも正解ではないだろう。正しくは、なりつつある、だろうか。

少女は未だ成長し続けており、この生活を続ければまだまだ力も体力も上がって行く。

本人もそれを何となく察し始め、早急にどうにかしなければと悩んでいるのだ。


「それで、私に対策を考えて欲しいと」


その相談に来られた単眼は、相談内容に少し困った様子を見せながら口にした。

だって単眼は確かに力は強いが、加減に困った事など無いのだから。

そもそも単眼と少女では育った環境が違い過ぎるのだ。


単眼はただただ普通に子供の頃からきちんと動いて成長し、自然と加減を覚えている。

対する少女はその覚える期間を経ずに、いきなり怪力になってしまっている。

前提条件が違う以上、頼まれてもどうしたものかと目を細めていた。


だが折角頼って来てくれたのだ、何か考えねばと頭を捻る単眼。

少女がその様子を期待した目で見ており、単眼は段々と嫌な汗をかき始めている。


「え、えっと、ちゃんと意識すれば、加減は出来るんだよね?」


単眼の質問にコクコクと頷く少女。

最初の通り、気を付けていれば少女は加減を間違える事は無い。

ただ気にしていないと、入れたつもりもないのにかなり力が入っているのだ。


「うーん、という事は、単純に物を触る時だけ意識する様にすれば良いんじゃないのかな。加減自体が出来ない訳じゃないならそれしかないと思うんだけど」


単眼の答えに少女は少し困った顔を見せる。

少女もそれを考えなかったわけではない。無いのだがうっかりやってしまうのだ。

とはいえやはり単眼の言う事は正しいと思い、それしかないかなぁと残念そうに俯いた。


単眼はそんな少女の様子に慌てるが、だからと言って良い案は思い浮かばない。

ただそこで、単眼はふと一つ気がついた。


「ねえおチビちゃん、私達に触る時も気を付けて触ってるの?」


単眼の問いに一瞬キョトンとした少女だが、すぐにフルフルと首を横に振る。

そういえばと、屋敷の人間達に触れる時は力に気を遣った覚えが無かった事に気がつく少女。

むしろ女には飛びつく様に腕を掴む事も有るのに、特に怪我をさせた覚えは無い。

当然彼女や羊角、複眼に単眼といった他の使用人達も同じくだ。


少年も時々手を引いて遊びに誘う事が有るが、その時も痛がる様子は見ていない。

ただし男相手には慎重に行く事が多いので、そこはカウントする気は無い様だ。


「加減はきっと出来てるんだよ。ただ張り切り過ぎて力が入り過ぎてるんじゃないかな。ほら、前に雪を落とした時もビニールハウス壊したりしなかったでしょ?」


単眼の言葉にコクコクと頷き、少しだけ表情が明るくなる少女。

だがすぐにその表情は曇ってしまう。

何故ならそれは、結局解決案が無いという事なのだから。


とはいえ一つの仮説が出来た事で、多少は気を付ける事が出来る事に良しと思うしかない。

自分のテンションが上がり過ぎている時は、破壊の危険性が有る。

ならその時は一度落ち着いて、加減をする様に気を付ける事で破壊を減らそうと。


そう決めてぎゅっと手を握り、掃除中であった為に持っていた箒を握り潰す少女であった。

暫くは屋敷の備品が目まぐるしく入れ替わる事だろう。

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