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かくれんぼ。

少女は困っていた。何故かは自分でも解らないのだが、女の顔が見れないのだ。

だからと言って別に女の事が嫌いになったわけでも、女の顔を見たくないわけでもない。

変わらず女の事は好きだし、尊敬の念も消えていない。

ただ何故か、女に見つめられると思わず顔を背けてしまい、そして隠れてしまう。


勿論視線を向けるとパタパタと隠れる少女の動きには女も気が付いている。

女はその度に表情を変えずに絶望しており、偶に動きが止まっていた。

目を見開いたまま微動だにしない女の姿には彼女も少し驚いている。と言うか怖がっている。


「なあ、お前避けられてない?」

「・・・煩いですね」


男も少女が逃げている事には気が付いている。

ただ少女のその逃げ方が男には面白かったので、少し揶揄ったつもりであった。

だが女が真面目に返答をして来た事で、これは揶揄っても面白くないと口を噤む。


「ま、多分大丈夫だろ」


男は女に聞こえない様に呟きながらその場を離れていく。

女は男が去って行くのを見届けてから、ほんの少しの希望をもって少女の方に眼を向けた。

すると少女はびくっとなって顔を背けて物陰に身を隠してしまう。


「何故だ・・・」


女は先日の看病で自分が好かれている事に安心感を持ったはずだった。

だが今現在は少女に何故か避けられている現実に、何とも言えない悲しさが浮かんでいる。

女はまた少女を視界に入れない様にして、深く溜め息を吐いて自分の仕事に戻った。









暫くして、女も何かが少しおかしい事に気が付く。

朝から少女に避けられていると思っていたのだが、その割には少女を目にする機会が多いと。

今も女が後ろを振り向くと少女はそこに居て、物陰から女を見つめている。

更にじーっと見つめると、パタパタと音をたてながら身を隠してしまう。


そして女が少女から視線を外して移動をすると、パタパタと付いてくる足音が鳴っていた。

少女は女と顔を合わせようとしないし、見られるとその身を隠している。

だが何故か、少女はずっと女に付いて回っているのだ。

その事に気が付いた女は少しだけ自分が安心している事に気が付く。


理由は解らないが少女に顔を合わせて貰えない。だが少女は何故か傍から離れる様子は無い。

顔が見れないのは寂しいが、どうやら単純に嫌われて逃げられているわけではないらしいと。

だからと言って完全に気が晴れたわけではないのだが、それでもある程度心に余裕が出来た。


「天使ちゃん、ほんと可愛いー♪ ああもう何であんなに可愛いの」


少女の背後では、少女がパタパタと慌てて隠れる様を羊角が撮影していた。

そして少女がぴょこんと飛び出して、女の後ろを付いて行く様も確りとカメラに収めている。

羊角はいつもこうやってさぼっている様に見えるが、実は撮影をする様になってからむしろ仕事の能率は良くなっている。


羊角曰く「天使ちゃんを撮る時間を作る為に頑張りました」との事だ。

その言葉を聞いたのは男と女なのだが、仕事が出来ている以上は何も言えなかった。

勿論羊角の鼻息の荒さには二人共ドン引きしていたし、以前彼女が咎めた様なものは撮らない様にと釘を刺されてはいるが。


「今日ばっかりは先輩も可愛いわねぇ。何であれで気が付かないのかしら」


羊角はカメラに映る少女の先にいる女をみて、クスクスと笑いながら撮影を続ける。

今日の少女の行動理由を、羊角は何となくではあるが察していた。

だがそれは女自身が気が付いた方が少女の為だと思い、わざと黙っているのだ。

勿論、少し面白いという気持ちも無いわけではないが。


単純な話、少女は何だか照れ臭いのだ。

ただその気持ちが上手く処理できず、女と顔を合わせると恥ずかしくて逃げてしまう。

先日の優しい女の様子を思い出し、弱った情けない自分を思い出し、恥ずかしくなってしまった結果、顔を合わせると逃げるが女からは離れないというおかしな行動になっている。


少女も自分の行動が変だと自覚はしているのだが、どうにも上手く女に接する事が出来ない。

けど何となく女の傍を離れたくなくて、後ろを隠れる様にパタパタと付いて行ってしまう。

女も少女も本人達は必死なのだが、周囲からすれば微笑ましい物以外の何物でもない。






結局少女と女が顔を合わせられるようになったのは、少女が寝る前になってからであった。

女が大きな安堵の溜め息を吐いた所に男が「ばーかばーか」と幼児並み事を言って来たので、心おきなく男を沈めて気持ち良く眠る女。

いつもより強めに殴られた男は中々立てず、冷たい床で寝た事で軽く風邪を引いたのであった。

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