角持ち奴隷少女の使用人。

洗車。

「じゃあ頼むけど・・・割と簡単にへこむから力加減に気を付けて」

男が心配そうな様子で口にする言葉を聞いて、気合いを入れた様子でコクコクと頷く少女。

一体何をするのかと言うと、少女は今から男の乗用車の洗車をするつもりである。

男は別に車にそこまで思い入れが有るわけではないのだが、その車で仕事に行く以上傷だらけやへこみがあっては少々困ると思っている。

少女が偶にやるポカを知っている男としては、少女の洗車には少し怖いものがあった。

だが男が洗車をする様子を見て、代わりにやると張り切る少女の好意を断れなかったのだ。

バケツとホースを腕にかけ、脚立を肩に、脇に掃除機を抱え、スポンジとクロス、カーシャンプーにコーティングスプレーを手に持って、完全にやる気満々である。

尚あれらの道具は少女が使用人達に相談し、皆が持たせてくれた道具である。

なので使用人が代わりに来る事もなく、男の退路は完全に断たれていた。

因みに男は頼むとは言ったものの、少し心配でまだ少女の様子を窺っている。

だが少女は見られている事に尚の事気合いを入れ始める。

少女の性格を考えると逆効果であった。

少女はホースとスポンジを手に、先ずはタイヤから洗っていく。

先にタイヤから洗っておかないと、折角綺麗にしたボディが汚れてしまうからだ。

少女は洗車手順を女にしっかりと聞いて、前日に何度もメモを読み返して覚えている。

男の為に絶対に間違えずやるぞ、という気合いと共に叩き込まれた手順を確実に実行していく。

水洗いが終わったらバケツの中で洗剤を泡立たせ、スポンジに付けて洗剤でタイヤを洗う。

ホイールの隙間迄しっかりと洗剤を付け、細かいところまできちんと綺麗にしていく。

男はその様子を見てあまり心配し過ぎても申し訳ないかなと思い、少し不安は残って入るもののその場を離れた。

少女はいつも通りの集中力で作業をしているので気が付かず、真剣な様子で洗車を続ける。

最後に洗剤が残らない様にしっかりと水で流し、次の作業に移行。

今度はボディの掃除なのだが、少女はこの為に脚立を持って来た。

何故なら少女の体の大きさではどう足掻いても天井に手が届かないからだ。

少女は脚立をくみ上げ、一番上に登って水を車に巻く。

ちょっと楽しくなってきたのか、少女は満面の笑みを見せている。

そこで羊角が心配になって様子を見に来て、脚立の上で楽しそうに水を撒く少女を目にした。

「何あの天使。可愛い」

と呟き、何処から取り出したのかデジカメで写真を撮り始めた。

音の出ない物を使っている辺り色々と問題ありである。

羊角は暫くしてホクホク顔で去って行くが、女が一部始終を見ていたので羊角の末路は決まったのであった。自業自得なので誰も擁護はしないであろう。

少女はボディーの水洗いをしっかり済ませ、コンデンサーの汚れも優しく手で綺麗にしていく。

これはお世話になっている男の車に万が一があってはいけないと、してはいけない事をきっちりと頭に叩き込んだ成果だ。

そして今度はタイヤを洗ったスポンジとは違う物を取り出してボディを洗い始める。

少女は体が小さいので、この作業が一番大変であった。

立ち止まった状態だと手の届く範囲がいかんせん小さいのだ。

なので少女はピョコピョコと移動を重ねながら車体を洗っていく。

余りに小動物さを感じるこの光景を羊角が見ていたら、写真ではなく動画で撮っていただろう。

体が小さいという事は天井を洗うにもいちいち脚立を動かさなければいけない。

ちょっと洗うたびに脚立から降りて移動させ、また登って洗い、また降りて移動を繰り返す。

恐らく誰が見ても可愛らしい光景であろう事は間違いない。

実を言うとこの屋敷、一応監視カメラが何ヶ所か設置されており、車庫にも一台有ったりする。

この光景を後で女がデータを抜いて自分の端末に保存するのだが、それはまた別の話である。

ただ一つ語るなら、少女に関しては女も羊角の事は言えない事だけは確かだ。

何とか車体を洗い切り、ふうと一息つく少女。

水で洗剤を洗い流し、綺麗になったとニコニコしながら車を眺める。

だが少女はとある一点を見て顔が曇った。

ライトなどのへこんでいる個所がまだ少し汚れているのを見つけてしまった。

だが少女は慌てず、クロスを手に再度洗剤を付けて洗い始める。

そうして今度こそ綺麗になったのを確認すると、満足そうに頷いていた。

今度は流し損ねが無いか確認をしていき、水が渇く前に車体をクロスで拭いて行く。

水玉が残ったらそれは後で汚れになってしまうからだ。

当然これもひと作業であり、後で女が満足する光景が繰り広げられた。脚立が大活躍である。

そして今度は仕上げにタイヤに艶出しのスプレーをかけ、ボディーにもコーティングスプレーをかけて拭き上げる。

これは男がワックスを使わないので、少女にとっての幸運であった。

ワックスをかけようとすると実は中々に面倒であり、少女では確実に失敗したであろう。

最後に車内のフロアマットを取り出し、掃除機をかけて行く。

取り出したマットも布団たたきではたいてから掃除機をかけ、車内に設置し直す。

全部きちんと出来た事を確認すると、少女は満面の笑みで後ろを振り向いた。

だが当然そこに男はおらず、少女は少しだけ残念な顔で片づけを始める。

ただ片づけを終えて洗車が終わった事を報告すると、男は少女の頭を撫でて褒め、それだけで少女は満足な様である。

その光景を見ていた女は「教えたのは私なのですが、貴方ばかり良い役ですね」などと男にねちねちと文句を言うのだった。