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二度目の別れ。

今日の少女はとてもニコニコと笑顔を振りまいていた。

勿論少女は何時も笑顔な事が多いが、今日は殊更笑顔になっている。


「虎ちゃん、旦那様表で待ってるから、何時でも行けるよー」

「あ、はい、解りました。じゃあ行こうか」


彼女の言葉に頷き、虎少年は少女に手を差し出した。

差し出された肉球を確かめる様に握る少女は、やはり満面の笑みと言って良い。

ただその笑顔の意味を、二度目となれば周りが気が付かない訳が無い。


今日は、虎少年が帰る日だ。外では男が車で送る為に待っている。


本当は悲しい。寂しい。帰って欲しくない。

少女にとって屋敷の中での出来事は、ずっと続いて欲しい日常だ。

その日常に虎少年が入って来て、だけど虎少年の居場所は本来ここではない。

当然そんな事は解っている。だから少女は笑うのだ。


虎少年と一緒に居た時間は楽しかったと。


「お、来たな。ほれ、乗りな」

「はい、今回も車を出して頂いて、ありがとうございます」

「気にするなって、これぐらい」


玄関を出ると男は既に運転席に乗っており、虎少年は礼を言って後部座席に乗り込む。

虎少年の隣に少女が座り、その隣に女が当然の様に座った。


「お前は助手席座れよ・・・」

「お断りします」


男は呆れた様に女に言うが、女は一切聞く気が無い。

そもそも既に少女の手を握っているので、この状態になって動く訳が無い。

少女は右手に虎少年、左手に女と、これからの憂鬱が少しだげ紛れる程度には楽しそうだ。


「・・・まあ、良いか。あれ、お前は行かないのか?」

「ええ、私はここでお見送りを、と思っています」


見送りの態勢から動かない複眼に男が声をかけるが、どうやら動く気は無いらしい。

その様子に少女は少し心配そうな顔をしたが、対する複眼は顔色から思考が窺えない。

何時も通りクールな様子で、静かな目が広く周りを見ているだけだ。


「はーい! はいはい! じゃあ代わりにあたしが行きますよー!」

「ちょ、あんた何――――」

「はい乗った! さ、旦那様しゅっぱーつ!」


ただそこに彼女がバタバタと車に乗り、複眼が止めるのも構わず鍵をかけた。

複眼の目が全て彼女を睨んでいるが、どこ吹く風と言った様子である。


「・・・はぁ。行ってらっしゃいませ、旦那様」

「お、おう。じゃあ行って来る」


複眼は呆れた様に息を吐くと、もう諦めて男に向けて腰を折った。

男は少し戸惑い気味ではあったが、それに応えるとエンジンをかける。

ただそこで不安になっているのは少女だ。

本当にここでお別れで良いのかと、虎少年と複眼の顔をキョロキョロ見比べている。


「・・・大丈夫だよ。別に喧嘩したとかじゃないから」


少女の心配を感じ取り、頭を撫でながら虎少年は大丈夫だと伝える。

そして何かを伝える様に複眼に目を向けると、複眼は一瞬とても優しい笑みを見せた気がした。

だけどそれは本当に一瞬で、もう何時も通りのクールな様子に戻っている。

少女は余計にどういう事か解らなくなっており、へにゃっと眉を下げながら首を傾げていた。


「んじゃ出発するぞー」


だがその答えが出る前に車は走りだし、複眼も他の使用人達も手を振って車を見送る。

前より空港に向かった人数が少ない事に、少しだけ寂しさを覚える少女。

だけどそれじゃいけないと、にこーっと可愛い笑顔を虎少年に向けた。


虎少年もそれにこたえる様に虎顔でも解る優しい笑みを見せ、えへへーとまた笑い返す少女。

女はその光景が可愛くて、邪魔しない様に必死に腕に力が入らない様に堪えている。


「・・・何してんだこいつ」

「先輩ですからねー」


男はバックミラーから見えるその様子に呆れているが、彼女は特に気にする様子は無い。

そんな感じで和やかに車は走り―――――5分もたたないうちに停車した。

信号待ちでも左折右折の為でもなく、屋敷から少し離れた民家の庭の中でだ。


訳の解らない状況に、ふえっ?っと少女は驚く様子を見せている。

だが驚いているのは少女だけで、周りは誰一人として驚く様子は見せていない。

特に彼女に限っては腹を抱えながら震える様に笑っている。


「さて、着いたぞ。お前の大好きな虎のお兄ちゃんの家にな」


男が車から降りて少女に告げたが、当の本人はその言葉の意味が中々頭に入らなかった。

ゆっくりと噛み締める様に意味を理解したのは、たっぷり5秒程経ってからだろう。

キラキラと期待した瞳を虎少年に向け、握った手をブンブンと振りだした。


「あはは、うん、そういう事で、これからはご近所さんになるかな。とは言っても車で5分ぐらいの距離だから、近所っていうのもどうかなと思うけど・・・移住したんだ。ちょっと強引な方法を使ったけど、無事に出来て良かった。驚かせようと思って君には内緒にしてたんだ」


本人からその言葉を聞いた少女は、感極まって泣きながら虎少年に飛びついてしまった。

ついさっきまで寂しくて、だけど笑顔で別れないとと思っていたせいで、余計に涙が溢れて。

虎少年は優しく少女を抱きしめ、男と女も少女が落ち着くまで見守っていた。











「っていうか、内緒には確かにしてたけど、本当に気が付いてなかったんだね」


落ち着いた後に彼女にそう言われ、コクリと頷いて返す。

だけど全員が自分に対し内緒にしていたのなら、それは気づけないと思う。

少女はそう思いぶーっと不満そうに唇を突き出すが、彼女はそれを摘まんでくすくすと笑った。


「いやー・・・だって、ねぇ・・・」


唇を摘ままれたまま少女が首を傾げて話を聞くと、偶に複眼や羊角がこの家に来ていたと説明する彼女。

なるべく気が付かれない様にはしていたけど、少し不審な動きは何度か有ったはずと。


「角っ子ちゃんは観察眼が足らんね。一人前にはまだまだかなー? ふふっ」


彼女にそう突っ込まれ、ガーンと肩を落として項垂れる少女であった。

周りが見えない時が有るのを自覚しているだけに、ちょっと本気でショックだった様である。

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