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ボタン。

少女はフンスフンスと気合を入れながら、針と糸を手にさあやるぞと虎少年の服を握る。

その横では上着を脱いだ虎少年がくすくすと笑っており、少女の手際を見つめていた。


事はほんの数分前。

虎少年の服のボタンが取れかかっていると、彼女が気が付いた事に始まる。


「虎ちゃん、袖のボタン取れかかってない?」

「あ、本当ですね」

「どれどれ、おねーさんが付けなおしてあげよう。お礼はお腹モフモフで良いよ」

「あ、あはは、ど、どうしようかな・・・」


その会話を聞いた少女は、ハイハイとぴょんぴょん飛びながら手を挙げた。

私がやると強い意思表示に一瞬面食らう二人だったが、すぐにその表情は崩れる。

ただし虎少年の可愛いなという想いとは違い、彼女はニマッと揶揄う気でだが。


「角っ子ちゃんできるのー? 本当に大丈夫~?」


ニマニマしながら疑う声音の彼女に、少女は頬をぷくっと膨らませる。

そしてポケットをごそごそと漁ると、小さな人形を見せて来た。

何時か作った自分の人形。男に貰った携帯端末に付けていた人形だ。

人形だって作れるもん、という事らしい


「あはは、そうだね、ごめんごめん。角っ子ちゃんはもうお人形も作れるもんね」


彼女が謝りながら頭を撫でると、少女はむふーと満足げな表情を見せていた。

その様子が余計に彼女を楽しませるのだが、本人は真剣なのである。

最近ちょっとだけ成長して来た様に見えた少女だが、こういう所は相変わらずの様だ。


「んじゃ、虎ちゃん、脱いで脱いで」

「え、あ、はい、え?」


袖のボタンの付け直しなので脱ぐ必要は無いのだが、無理矢理服を脱がす彼女。

虎少年は狼狽えている間に脱がされてしまい、抵抗する暇もなかった。

因みに服の下は毛皮である。つまり何も着ていない。


「わーい、もっふもふー」

「あ、ちょ、まっ」


そして脈絡なく虎少年を抱き寄せる彼女と、ずるいーとばかりに抱きつく少女。

二人でモフモフする事暫くして、ようやく少女はやるべき事を思い出したのだった。

因みにその横では彼女が相変わらず虎少年の背中をモフモフと撫でている。


「はぁー・・・何て言うか、売り物の毛皮とは違うものが有るよね。毛の艶というか、力強さというか・・・若いから? こういうの欲しいなぁ・・・無いかな?」

「いや、僕に聞かれても・・・」


虎少年は「毛皮を剥がされるのではないか」という身の危険を少し感じつつ距離を取る。

彼女の冗談は時々冗談なのか本気なのか解らない時が怖い、と思っている様だ。

勿論彼女にそんなつもりは無く、虎少年を揶揄って遊んでいるだけである。


「お、角っ子ちゃん、早いねぇ。前より上手になったんじゃない?」


だが彼女もそればかりではなく、ちゃんと少女の監督もやっていた。

少女は真剣にボタンの付け直しをやっており、その早さは手馴れていると言って良い早さだ。

人形を幾つも作っていた効果が出ているのだろう。

あっという間にボタンをつけ終わり、できたーと掲げて虎少年に渡す少女。


「わあ・・・あ、前より硬めに付けてある。ありがとう」


少女は褒められた事でにへーっと笑うと、虎少年の腹にぽふっと抱きついた。

やっぱり触り心地の良いお腹に顔を埋め、褒めて貰った照れくささをちょっと誤魔化している。


「いやー、しかしほんと、上手になったよね、角っ子ちゃん。ボタン付けして反対側の布迄一緒に縫っていた頃が懐かしいね。あっはっは」


そして気分の良い所に彼女に昔の失敗を暴露され、ひゃう!?と変な声を上げる少女。

ガバット顔を上げて虎少年に顔を向け、違うの、違うんだよ、と言う様に首を横に振る。

お兄ちゃんに良い所を見せようとしたのに、失敗を語られ顔を赤くしている。


そんな少女に苦笑する虎少年だったが、それが余計に恥ずかしくなってしまった。

少女は恥ずかしさを彼女にぶつけようと、ぷくーっと頬を膨らましてポカポカと叩き始める。


「あっ、ごめ、いたっ、ちょ、角っ子ちゃんごめん、ごめんごめん」


頬を膨らませながら少し涙目な少女抱きしめ、背中をポンポンと叩く彼女。

ちょっと失敗したなーと思い、恨めしそうに見上げて来る少女に頬ずりしつつ謝っていた。

そしてお腹が地味に痛いとも。これはちょっと本気で拗ねていたなという証拠である。


「虎ちゃん、角っ子ちゃんお裁縫上手でしょ」

「ええ、とても。あっという間でしたし」


少々助けを求める様に虎少年にパスを投げ、すぐさまキャッチする虎少年。

だけど少女は恐る恐るという様子で虎少年を見ており、今回は中々ダメージが大きかった様だ。


「ありがとう」


だけどそれでも虎少年は笑顔を崩さず、少女の頭を優しく撫でた。

コクンと頷くと少女はまた虎少年のお腹に顔を埋め、ん~~と顔を横に振って押し付ける。

少女の機嫌が直るまで好きな様にさせ、貸しですからねと小さく彼女に告げる虎少年であった。









「あー、虎ちゃんのお腹モフモフがもう出来ないかもしれないー」

「自業自得でしょうが。ばーか」

「あうー、同僚も冷たいようー」


その後その事を複眼に話すも、冷たくあしらわれる彼女であった。

実際自業自得なので当然であろう。

因みに複眼は偶にモフモフさせて貰っているが、それは内緒である。

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