雨天中止。
少女はわくわくして、出発調整の日を待っていた。
それはもう、毎日毎日楽しそうにカレンダーを眺めていた。
日程が決まった日には花丸でマークを付けていた程に。
だがその当日、空は曇り、雨音が響き、少女の目も同じ様に曇っていた。
あれだけ楽しみにしていた当日の朝、目が覚めると何だが雨音がする。
外を見ると結構な勢いで降っており、屋外動物は見られない可能性が高い。
何で? と空に問いかける様に呆然としている少女。
女が起こしに来る前にベッドに戻る、という事すら忘れる程にである。
「・・・」
女は扉を開けても気が付かない少女に、何と声をかけようか悩んでいた。
昨日の天気予報は晴れだったのだ。だから絶対大丈夫だと喜んでいた少女に。
そもそも「大丈夫だ」と言ったのが自分だったので、女は余計に言葉が出て来ない様だ。
そうしてどれぐらいたっただろうか。
ひょっこりと彼女が少女の部屋を訪ね、固まっている二人を確認。
余りにも予想通りな状態の少女に、彼女も少し困った顔を見せている。
「あのー、先輩、どうします?」
「ん、あ、ああ、そう、だな」
彼女に声をかけられて女はやっと起動し、少女から視線を切って後ろを振り向く。
少女も彼女の声でハッと正気に戻ったのか、二人の姿を見てあわあわとベッドに戻った。
慌て過ぎて自分が何をやっているのか良く解っていない様である。
「くっ・・・!」
「ぷふっ」
余りに慌ててベッドに戻るので、女はクワッと険しい顔を見せ、彼女は吹き出してしまった。
そこでやっと少女もおかしい事に気が付き、あうあうと狼狽えながら起き上がる。
あう~と恥ずかしそうに頬を押さえ、近くに居た猫を抱き上げて気持ちを誤魔化し始めた。
「この雨では、屋内公開の分は見られるだろうが、屋外は難しいだろうな」
「くふっ、そう、ぷふっ、ですね」
女は取り敢えず少女の事は措いておいて彼女に応えるが、彼女は笑いが止まらない様だ。
ただ女も相変わらず顔が険しいので、彼女に注意する事が出来ないでいる。
すると段々少女はぷくーっと頬を膨らませながら彼女を見つめ、気が付いかた彼女はコホンと咳ばらいをして笑いを抑えた。
「日程を変更、出来ます?」
「問題無い。旦那様の尻を蹴り上げれば良いだけだ」
「・・・たまーにこの屋敷の主人が誰か、解らなくなりますね」
「一応旦那様が主人だぞ。一応な」
女の言葉にほっと息を吐くと、彼女はニッコリ笑って少女の傍に寄る。
少女は二人の様子をキョトンと見つめており、無防備に頬をブニっと抑えられてしまう。
ふえっ?と首を傾げる少女であったが、彼女はそのまま頬をムニムニしながら口を開く。
「大丈夫、中止じゃないよー。延期延期。お天気な日に改めて行こう。ね?」
彼女の言葉に数秒固まる少女。どうやら脳が言葉を理解するのに時間がかかっている様だ。
そして意味が脳内に達すると、パアッと笑顔を見せる少女。
更に笑顔のまま良いの?という顔を女に向けると、女は一層眉間の皺を深くしながら頷いた。
どうやら今の頬を潰されながらの少女の行動がツボにはまったらしい。
「旦那様には私からちゃんと伝えておく。安心しろ」
女のその宣言に実感が増したのか、きゃーっと彼女に抱きつく少女。
彼女も同じ様にきゃーっと声を上げて抱き着き、女は少し羨ましそうだった。
「という事でお願いします、旦那様」
「・・・雨天決行じゃ駄目なの?」
「駄目です」
「・・・俺今回結構予定詰めて頑張ったのよ?」
「何時ものんびりしてるんですから丁度良いでしょう」
男は今回の件をいきなり伝えられ、それでもちゃんと予定を調整したのだ。
以前の海水浴の時は男も元々何処かで行ける様にと、事前に調整をしていた。
だが今回は本当に、本当に突然言われたので、急遽予定を詰めたのだ。
仕事に影響が無いように頑張っていたのだが、女の報告によってそれが無に帰した。
なので結構落ち込んでいるのだが、女は一切の容赦がない。
「あの子が晴れた日に喜んで見て回る、っていうのをさせたくないんですか?」
「お前狡くない? そういう言い方は狡くない?」
「私は見たいですから」
「そうだろうよ! あーあー、解りましたよ! やれば良いんだろうがやれば!」
「ええ、頑張って下さい」
男は半ば自棄になり、今後の予定を更に詰めるのであった。
出発前日、死にそうな顔でベッドに転がる男に、少女がマッサージに向かうなども有ったが、女は特に文句も悔しがる事も無かったそうな。
その後自分もやって貰ったからではないだろう。多分。




