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薄衣。

少女はわーいと喜びながら羊角に写真を撮られていた。

夏用の新しい服をプレゼントされ、それが着心地が良い上にとても涼しいと。


汗を良く吸い蒸発も早いインナーと、同じ様に汗を吸う薄衣の服。

と言っても着物の類ではなく、服装的にはチャイナドレスが造形的に一番近いだろう。

薄衣と表現したのは先に述べたインナーが透ける程の薄さだからだ。


腋の部分から太腿まで隙間のある形で縫われており、太腿の部分はスリット状になっている。

ひらひらと舞うその様子をローアングルから撮る羊角は真剣そのものであった。

偶々通りかかった複眼は呆れた様子で見つめている。


「あのさぁ・・・自室ならともかく廊下の床に寝そべるの止めてくれないかしら」

「大丈夫よ、ここさっき掃除したから」

「そういう問題じゃ無いんだけど」


言いたい事の意味をあえて解らない振りをしている羊角に、ああもうと頭を抱える複眼。

だが少女はそんな複眼の傍にトテトテと近づき、みてみてーとご機嫌に腕を広げて見せる。


今日の少女はテンションが高いせいで何時も以上に子供っぽい。

広げた腕をピッコピッコと小さく動かして、複眼の反応を今か今かと待ち構えている少女。

羊角は絶妙に複眼を映さない角度で前側から撮影し、満足そうにガッツポーズをしている。


羊角に言いたい事が色々とある複眼だが、真正面に立たれては少女を優先せざるを得ない。

少女の服を良く見てから一瞬「透けてるのは不味くないかな」と思ったが、一応中に下着以外の服も着ているし大丈夫かと思い、素直に似合ってて可愛いよと告げて頭を撫でた。


少女はにへへーと嬉しそうに笑い、複眼の手にスリスリとすり寄る。

相変わらず可愛い笑い方ではある少女だが、最近何処か笑い方が彼女に似てきた気がする。

そう思った複眼は今度もう少し可愛く笑う様に彼女に言おうかと思ったが、多分それは言っても直らないなと即座に諦めた。

彼女が時々する変な笑い方をしない様に祈るのみである。


「・・・せっかく涼しい格好してるんだから、頭も涼しくしたらいい―――」

「天使ちゃんの髪を切るなんてとんでもない!」

「食い気味に来ないでよ・・・そうじゃなくて纏めたらって話よ。何時ものままじゃ首回りが暑いでしょ。折角涼しい恰好してるんだから後ろ髪だけでも纏めちゃったら?」


羊角の勢いに呆れつつも説明をして、少女の髪を持ち上げながら提案する複眼。

少女が嬉しそうにコクコクと頷いたので、羊角はダッシュで自室へゴム類を取りに行った。

当然カメラは固定してそのままである。録画を止めるはずがない。


「ちみっこ、あいつ休みの日ずっとべったりだけど、迷惑じゃない?」


実は本日羊角は休みである。そして休みなので一日中少女の傍で撮影をしている。

しかもこれは今日だけの話ではなく、普段もこの調子なのだ。

何か外に出る用事が無い限り、常に少女を撮り続けるのが羊角の休日である。


だが少女は複眼の問いにフルフルと首を横に振り、ニコッと優しい笑みを向けた。

その顔に「ああ、やらせてあげてるのか」と複眼は悟り、少女も羊角が欲望をぶつけているのは解っている様だと安心した笑みを見せる。


とはいえそこは少女である。お世話になってる先輩で、大好きな屋敷の住人である羊角。

そんな羊角は普段から優しく服もいっぱいプレゼントしてくれる。

ならば自分を撮るのが楽しいというのなら、存分に撮らせてあげなければと考えている様だ。

羊角の欲望がどういう形なのか、という思考は一切していない少女である。


「天使ちゃん、ゴムとカバー両方持って来たんだけど、カバーも付ける? 私としては付けた方が可愛いかなーって思うんだけど。あ、違うのよ、つけなくても天使ちゃんはとても可愛いのだけど、付けたらもっと素敵だと思うの」


そこにパタパタと戻って来た羊角の手には髪ゴムとシニヨンカバーが。

カバーには独特のデザインの刺繍と大げさすぎない程度のフリルが付いている。

付けて欲しいと言っている様にしか聞こえない言い訳を聞いた少女は、特に何も問い返す事無くニコーッと笑って両方受け取った。


「じゃあ、髪纏め・・・はいはい、そんな目で見ないでよ。最初から私がやるなんて言うつもり無いわよ。大体今は仕事の途中なんだから。じゃあちみっこ、また後でね」


複眼が少女の髪を軽く持ち上げたのを見て、ぎゅるんと目だけを動かして複眼を見る羊角。

どうやらやる気満々だった様で、今日ばかりは取られるまいという想いが目に出過ぎていた。

複眼も別にやりたいならやれば良いと思っているので、二人に手を振って仕事に戻っていく。

少女はまた後でねーと手をぶんぶん振って見送り、さてどうしようと髪ゴムに目を落とした。


「天使ちゃん、私がやって良いかしら?」


羊角の恐る恐るといった問いかけに、少女はんーっ?と少し考える。

それは羊角にやって欲しくないという訳では無く、自分でやろうかどうしようかという悩み。

ただ羊角の手がわきわきと動いてとてもやりたそうなので、ニコッと笑ってコクリと頷く少女。

OKを貰った羊角は今日一番の笑顔である。


心の中は「ああ天使ちゃん、可愛い。最高。好き。本当に天使」などと語彙力が死んでいた。

だが表面はそれなりに優しいお姉さん顔を向け、少女に座る様に促す。

そして少女の背後に立つと、流石と言うしかない手際の良さであっという間に纏め上げた。


少女を待たせてはいけないと凄まじい速さであったが、だけどもとても丁寧な仕上がりである。

ゆっくりやって触れ合う時間を、という考えは出来上がってから気が付いた。遅すぎる。

少女的には髪を触られるのは気持ちいので、フンフンと鼻歌を歌っていた程だというのに。


そうして出来たシニヨンにキャップを付ければ完成だ。

後頭部に可愛いお団子が出来上がり、少女はカバーをふにふに触ってご機嫌である。

パーッと大輪が咲く様な笑顔を向けられ、羊角は先程の後悔などもうどうでも良くなっていた。


「可愛い。天使ちゃんは本当に何でも似合うわね」


手鏡を渡されてお団子を確認する少女を見ながら、羊角はポソリと呟く。

その声がどうやら耳に届いていたのか、少女は羊角に顔を向け、じーっと見つめ始めた。

羊角は突然の凝視に固まって少女の行動を待っていると、少女は羊角の手を引いて座らせる。


何事かと思いながらも羊角はされるがままになっていると、少女は羊角の髪をおぼつかない手つきで纏めだし、四苦八苦しながら何とか羊角の頭にお団子を作り出す。

作っている最中の羊角は「ここが天国か」などと訳の解らない事を考えながらじっとしていた。

そして最後に解けない様にきちんとゴムで留めて、羊角のお団子にもカバーを付ける少女。


終わったらトテトテと羊角の前に回って手鏡を見せ、お揃いだねーと笑顔で頭を傾ける。

羊角は頭の上で祝福の鐘がなるような音を聞いた気がした。確実に幻聴である。


「天使ちゃん・・・幸せにするから・・・!」


いきなりなり少女の片手を両手で包み込み、意味の解らない事をのたまう羊角。

少女はふえっ?と首を傾げるが、羊角は膝をついて祈りを捧げる様に見つめるだけである。

ただ何だか良く解らないけど羊角の機嫌が良さそうなので、良かったねーと頭を撫でる少女。

羊角は頭を撫でられるのが余程気持ち良いのか恍惚とした表情になっている。大分危ない顔だ。


「あっ・・・はぁっ・・・ふぅんぅ・・・! 天使ちゃ―――――いったあ!」

「変な声出して何してんのよアンタは」


口から完全に何かが漏れていた羊角であったが、それを見かけた彼女が頭を叩いて止めた。

かなり良い音が響いて少女はびっくりしているが、響いた音程は痛い物ではない。

なので羊角はすぐに復帰し、少し不満そうな目を彼女に向ける。


「お、角っ子ちゃん、かーわいいー。お団子似合うねー」


だが彼女はその視線を無視し、少女のお団子をツンツンしながら褒めていた。

その間に羊角は自分が取り乱していた事に気が付き、こほんと咳ばらいをして立ち上がる。

少女の大丈夫?と問う様な首を傾げながらの視線に静かな笑みを返しているが、内心はあのまま変な事しなくて良かったと心底安堵していた。

その後は普段通り撮影に戻り、だけどお揃いな髪型に何処か機嫌の良い羊角であった。




因みにローアングル撮影を見つけたのが彼女の場合、情け容赦なく踏まれていたりする。

その度に少女が優しく構ってくれるので少々味を占めている気配が有るのだが、止めなかったら止めなかったでエスカレートするので手の施し様の無い羊角であった。

髪を結って貰っている時の映像で自分の影に少女が隠れた時、自分の存在すら煩わしいと思う程に末期である。

https://twitter.com/kskq89466/status/1104769946683228160

ピコピコ動く少女

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