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普段の屋敷。

少女に関しての会議から数日、屋敷は変わらない日々が続いていた。

屋敷の住人達は普段通りに少女を構い、少女はニコニコお仕事をして日々を過ごしている。

相変わらず手を出す時に偶に一瞬間が有るが、それでも暗い顔をする事は無い。


毎日楽しそうに、幸せそうに笑う少女。使用人達は普段通りで、少女も普段通り。

何時もと何も変わらない、のほほんとした屋敷の日常が、そこには在った。


「思ったより早く元に戻ったね」

「そうね」


玄関から少女の様子を確認してニマッと笑う彼女と、それに気のない返事を返す複眼。

複眼は少女の事が気にならない訳ではなく、彼女に引きずられた為に機嫌が悪いだけだである。

別の用事で通りかかった所だったので、尚の事彼女への返しが雑な様だ。


因みに少女はニコニコ笑顔で庭掃除をしつつ、じゃれついている犬と偶にかけっこをしている。

傍に単眼も居て時々混ざっており、それが一層のほほんとした空気感を強くしていた。

当の本人達はそんな事は気にしておらず、キャッキャとじゃれついているだけだが。

猫は虎少年に抱えられて傍に居るが、その様子は何故か偉そうだ。


「ま・・・あの子も少し大人になったって事でしょ」


一度溜め息を吐いてから少女に目を向け、優しい声音だが少し寂しそうに口にする複眼。

それは言外に「全部を無邪気に振舞う子ではなくなった」と言っているのだ。

子供ならではの難しい事を考えない思考ではなく、あえて無邪気に振舞う考えを持ったと。


それを無邪気と言って良いのかは措いておくとして、複眼の言葉は正しいのだろう。

今回の事に関しては、少女の中で踏ん切りがついたという訳ではない。

心の中ではまだ不安が残っており、その不安を解決しないまま生活を続けている。


つまり少女は男の言葉と気遣いにより、自分らしく振舞う事を「意識して」やっているのだ。

今までの自分が振舞うであろう事を、心の内にまだ有る恐怖を表に出ない様に押さえつけて。


「もうちょっと子供のままで居て欲しいんだけどなぁー」

「そうもいかないでしょ。あの子は成長したいと思っているんだし、良い事じゃない」

「悪いとは言ってないよ。ただ寂しいなって話」

「そうね・・・確かにそれは解るわ」


少女は一つ、まだ子供っぽくは有るが、それでも一つ成長した事になるのだろう。

自分の中の嫌な感情を抱え、それを気にしないのではなく気にしたまま生活を続ける。

その事柄に塞ぎ込むではなく、完全に解消出来る事柄ではなく、心情はまだ不安定なまま。


だけど人間そんな物だろう。歳をとって大人になれば、そんな事だらけだ。

消化不良な気持ちを上手く誤魔化し、それでも日常を過ごしてゆく。

生きていれば全てを全てすっきり解決、なんて事はどうやったって出来ないのだから。


少女はその事を男の言葉から理解し、不安を不安と解った上でそれを見せない様になった。

不安になった所で解決策は無く、自分が気を付けるべき事なのだからと。

そうして何時かそれが当たり前になって行けば良いと。


だから表面上は相変わらず可愛い少女なのだが、その反応の違いに皆が気が付かない訳もない。

あれは今迄とは少し違うと。だけど無理をし過ぎている風でもないとも。

ならば屋敷の住人達が撮る行動は、やはりいつも通り少女に接するだけだろう。


「まっ、あたしは変わらず可愛がるけどねー」

「成長してるって事は感性も変わって行くんだから、嫌われても知らないわよ?」

「大丈夫だいじょーぶ、角っ子ちゃん優しいから」

「全く・・・程々にしとかないと本当に嫌われるわよ」


呆れる複眼ではあるが、内心複眼も少女が屋敷の者を嫌う姿がイメージ出来ない。

だけどこうやって変化しているという事は、その可能性だってない訳じゃないだろう。

そう思うと自分自身も何時まで完璧なお姉さんを出来るか、少し自信の無さげな複眼である。


「私は天使ちゃんが大天使になる過程だと思ってる」


何時の間に居たのか、何時も通りが過ぎる羊角である。

今日も今日とて少女を撮影し、変わらず記録を溜め続けている様だ。

一応二人とも途中で現れた事に気が付いていたが解っていて無視をしていた。


「・・・あえて話題を振らなかったのに」

「・・・ちみっこが撮られる事に恥ずかしがる様になったらどうするのかしら」


羊角のぶれない言動はある意味頼もしいが、彼女も複眼も呆れの感情が強い。

とはいえそのぶれなさが少女に安心を与えると思うと複雑な気分である。


「私は天使ちゃんが天使ちゃんである限り、ずっと味方のつもりだもの。それは貴女達だって同じでしょ」


それは羊角だからこそ当たり前に口に出来る言葉なのだろう。

人に裏切られ、それでも人を信じる事を、愛情を向ける事を止めない羊角だからこその言葉。

そしてそれは二人も納得できる言葉であり、苦笑しつつも穏やかに頷いていた。


「でも実際さ、角っ子ちゃんが撮られるの嫌がったらどうすんの?」

「本格的な盗撮も得意だから大丈夫」

「ごめん、流石のあたしも何が大丈夫なのか解んない」


彼女の疑問に自信満々に応える羊角だが、それは完全に犯罪である。

複眼は頭を抱えつつ、庭で単眼に高い高いされてキャッキャと喜ぶ少女に目を向ける。


「・・・あの二人が一番強いわね、この屋敷では」


今回の事で単眼は、当然の様に少女にとって良いであろう事を提案した。

少女も単眼に元気がなければ全力で笑顔にさせに向かうだろう。

そんな二人が屋敷で元気であれば皆も自然と笑顔になる。

実質あの二人が屋敷の空気の要の様で、複眼は叶わないなと苦笑するのであった。







因みに少女が元気になった後、男の自室でとある一幕があった。


「旦那様、今回は褒めておいてあげます」

「は? え、何が?」

「追及されて困るのは貴方ですから、大人しく頷いておきなさい」


今回少女が元気になった理由の一因として、間違いなく男の力は大きかっただろう。

気が付いていた女は珍しく男を褒め、ただ男としてはいきなり言われて訳が解らなかった。

男が納得する前に女はスタスタと去り、その姿が見えなくなってから男はもしやと考え至る。


「あいつ気が付いてたのかよ・・・」


もしこれで少女が更に落ち込んでいたら酷い目に遭ったんだろうなと思いながら、女の察しの良さに恐怖する男であった。

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