少年の悩み。
執事見習いの少年は、最近悩みを抱えている。
それは人によっては些細な悩みでもあるが、少なくとも少年にとっては大きな悩みであった。
ある日の少年は、休暇日に読書をしながらのんびりと過ごしていた。
だがその最中に大きな音が耳に入り、気になって本から目を離して窓の外に目を向け、その目に入ってきた光景は耕運機の如く畑を耕す少女の姿。
それを見た少年は、最初こそ少女の身体能力の高さに驚きを隠せない顔を見せていた。
なにせ自分と同じぐらいの大きな鍬を軽々振り、時には素手で地面を掘り抜いて行くのだから。
だがそれも暫くすると、とても楽し気に畑を耕す少女の笑顔に、少年は思わず見惚れてしまう。
そして少女が何気なく館に目を向けた際に少年と目が合い、少女は無邪気な笑顔で少年に手を振る。
少年は勿論手を振って返したが、顔は赤く、心臓は早鐘の様に鳴っていた。
少年は、ありていに言えば恋をしているのだろう。
それなりに人生を経験してきた大人であればその事が理解出来ただろうし、自分の中で感情を上手く処理出来た。
だが残念ながら少年は、少女に対する気持が何なのか理解出来ないでいる。
少女を可愛いという気持ちはある。その気持ちは間違いなく在る。
だがそこから恋心なのだと結び付けるまでの知識と経験が少年には無かった。
ただ何となく、少女の姿を見ていると心地が良い事と、笑顔を向けられると平常心ではいられなくなるという事だけを理解していた。
だが少女はそんな事をお構いなしに少年を構いに来る。
その根幹は主人である男に頼まれた事ではあるのだが、それを抜きにしても少女は少年を構う事が多かった。
それは単純に「同じぐらいの年代の友達が出来た」という認識が在ったりするのだが、少女は今までが今までだったために、距離感という物が余り解っていない。
男女間の距離感などは更に理解の範疇外だ。
結果、少女は少年が怯むのも構わず腕に抱きついたりなどもする。
当然少年が平常心でいられるはずもなく、慌てて離れようとするのだが、畑を耕すのを見ていれば解る通り少女は力が強い。
並みの抵抗では引きはがせず、だからと言って全力で抵抗は気が引ける。
その時に沸き起こる引きはがしたくないという矛盾した感情も、少年の悩みの種になっていた。
そして何よりも少年を悩ませる事が、今目の前で起きている出来事。
少女が楽し気に畑を耕し、一通りの作業が終わった所に男が水を渡しに行っている。
そしてそれを本当に嬉しそうに、それこそ少年に向けた笑顔よりも嬉しそうに受け取り、男に頭を撫でられることに抵抗しない少女を見て、少年は複雑な想いを抱える事になる。
それは間違いなく嫉妬の類。
例えいつか元の家に帰る身だとしても、仕える主人に向けて嫉妬の感情を向けている。
そして悲しいかな、少年はそれすらも自身で上手く理解出来ていない。
故に少年は、自分で処理しきれない想いを抱えながら、ここ最近を過ごしている。
そしてそんな少年の様子に気が付いている使用人たちは、新しい玩具を見つけたとばかりに楽しむのであった。
女がそんな二人をみて酷い顔になっている事は、最早言うまでもないだろう。