表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
230/285

全滅。

それは、見るも無残という表現がぴったりだろう。

整備された土壁は崩れ、その中にある耕した土も流れ、当然そこに在った作物も流れている。

水圧や土砂の重みで崩れた物も有れば、純粋に大量の水によって駄目になった物もある。

実がなっていた物は割れて散乱しており、つい昨日までは形を保っていた段々畑も無残に崩れ落ちていた。


先日の長雨による被害は、畑の全滅という結果をもたらしてしまったのだ。

少女はその光景に、呆然と立ち尽くしていた。

やっと晴れた朝に喜んで畑に向かい、そして視界に入ってきた状況を理解出来ていない。

だって、多少崩れていたとはいえ、昨日までそこに畑が有ったんだから。


山自体は屋敷から多少離れた位置だった為、家屋が土砂災害に見舞われる事は無かった。

ただ裏の畑とビニールハウスにも、その被害は届いてしまっている。

不幸中の幸いは、危険と判断した老爺が蜂の避難をさせたので、蜂達は助かった事だろうか。


少女の瞳から、つっと雫が頬を伝う。

声を出さずに、嗚咽を我慢しながら、それでも涙は我慢できなかった。

スカートをギュッと掴み、目の前の光景を理解し、だけど受け入れたくなくて。

ぼたぼたと、涙の量が増えていく。


一生懸命頑張って作った畑。大好きな人の為に作った畑。

皆に喜んで貰おうと、頑張って頑張って作った畑が、無くなってしまった。

旦那様が喜んでくれた。褒めてくれた。笑ってくれた。休んでくれた。

そんな大事な物が、一瞬で、消えてしまったのだ。


記憶の限りでは初めての経験に、少女は自分で良く解らない程に悲しくて堪らなくなっている。

泣いたって畑が帰ってくる訳じゃない。災害事故なんだからしょうがない。

そんな事は少女でも解っている。それでも、悲しくて、涙が止まらない。


だけど皆を起こしてはいけないと、心配させてはいけないと必死に声を堪えている。

自分の悲しい気持ちを頑張って抑えようと、嗚咽を殺して悲しみを耐えようとしていた。


「馬鹿者。声を殺して泣く奴が有るか。悲しいなら思いっきり泣け。その方がすっきりする」


背後から聞こえた声に、涙で濡れた顔を後ろに向ける少女。

そこには何時も通りの女が立っており、スタスタと少女に近づいて来ていた。


「泣け。早朝だという事など気にするな。思いっきり泣いてしまえ。私が許す」


女は少女を抱き抱えると、優しく頭と背中を撫でた。

たったそれだけの事。だけどそれだけの事が、少女の我慢の糸を切るに至る。

女の腰に抱きついて顔を埋め、呻く様に泣く少女。


大声では泣かないが、それでも涙も嗚咽も我慢せずに女に縋りつく。

強く、とても強い力で女の服を握り、抱き締め、甘える様に。

だけどそれでも、声だけは大きくしない様に我慢して。


「・・・馬鹿だな、思いきり声を上げれば良いのに」


少女の頭を優しく、とても優しく撫でる女。

女は少女が畑に向かう前から、畑の惨状を知っていた。

何せ夜中に崩れ始めたのを見ており、いざという時は角を使ってでも押し返すつもりだった。

そして雨がやみ、夜が明け、屋敷の無事と共に畑の惨状も確認してから少女を起こしたのだ。


きっとついて行けば、傍に誰かが居れば、少女は涙を我慢すると思った。

辛いという事を吐き出さない可能性が有ると思った。

だからショックを受けるのは解っていて、一人で先に畑に行かせたのだ。

少女が悲しいという事を我慢しないで良い様に。ちゃんと、泣ける様に。


「今は泣け。泣いて、泣いて、落ち着いてから次の事を考えれば良い」


女の声はとても優しく、少女は涙が自然に止むまで、縋りついて泣き続けた。











泣き止んだ少女はふんすと気合を入れて山に踏み出そうとし、当然女に止められる。


「馬鹿者。崩れて翌日だぞ。下手に足を踏み入れるな。暫くは近づくなよ」


雨が止んだのは昨日であり、土は水を大量に含んでいる。

当たり前だが、一度崩れたという事は、再度崩れてもおかしくない。

せめて水気が多少抜け、地面のぬかるみが取れてからでなければ危険だろう。


「屋敷傍だけなら良いが、崩れた土の近くには近づくなよ。良いな?」


そう女に言われ、しょぼんとしながら屋敷近くの小さな区画だけ手を付ける少女。

この惨状で心が折れず、また頑張ろうとする少女に、女は優しい笑みを向けていた。

その強さを、誰から見習おうと思ったのかは自覚せずに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ