表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
222/285

練習の続き。

段々と暖かくなりつつある天気の良い日、少女は庭でウトウトしていた。

ただ今日は仕事中ではないので、只々のんびりと陽気を楽しんでいる。

ニヘーっとだらしない表情を見せ、完全に気が緩んでいる様だ。


そしてそんな少女を膝に乗せ、モフモフの毛皮の有る腕でお腹を包む虎少年。

虎少年の毛並みの良さとお腹の暖かさで、少女は一層眠気に逆らえない。

むにむにと寝言を言いながら、キュッと虎少年の腕を握ってのおねむである。

時折寝ぼけているのか手をワタワタと動かして何かを掴もうとし、その手を虎少年が握ってあげるとニコーッと笑って大人しくなる様子なども見せていた。


そんな和やかな様子ではあるのだが、残念ながら虎少年はのんびりしている様子が無い。

その原因は膝に乗る少女・・・ではなく、虎少年が背もたれにしている存在にある。

背後に居て、更には自分を抱き抱えている複眼に。


「あの・・・大丈夫、ですか? 重かったら、言って下さいね?」

「うん、大丈夫よ」


虎少年は少々しどろもどろな様子で、自分が寄りかかっている複眼に訊ねる。

つまり背後に居る大人のお姉さんの存在に動揺しているのだ。

何せ虎少年の首元辺りに、どうにも意識してしまう物があるせいで。


ただそんな虎少年とは違い、複眼は特に気にしていない。

何せ複眼には虎少年を「男性」と見る事が出来ていないからだ。

年の離れた可愛い思春期の男の子、となれば複眼には少女を抱えるのと大差ない。


因みにこんな事をしている理由は恋人のふりの練習の続きである。

彼女曰く「普段から慣れておかないと、その時だけふりをするのは無理でしょ」との事だ。


複眼は彼女が遊び半分なのが解っているのだが、虎少年が真剣なので黙って付き合っている。

元々は自分の為なので、虎少年の頑張りを無駄とは言いたくない。

実際彼女の言う事もあながち間違ってないとは思うので、来る日までこうやって傍に居る事に慣れようとしているのだ。


「ごめんね、今更だけど、無理言って」

「い、いえ、一度引き受けましたし、大丈夫です」

「そっか。ありがとね。君も良い子だね」


複眼は申し訳ない気持ちと、その優しさに感謝の想いを込めながら虎少年を抱き締める。

虎少年は驚いてビクッとし、膝の上に居る少女は振動に驚いてビクッと目を覚ました。

はふ?と声を漏らしながらキョロキョロする少女であったが、複眼が頭を優しく撫でるとそのままウトウトし始める。

虎少年はかなり動揺しているのだが、少女を起こさない様にと必死にじっとしていた。


「ちみっこの事を妹みたいな感じで扱ってるよね、虎ちゃん」

「え、えっと、まあ、そう、ですね」


またもしどろもどろになりながらも、何とか答える虎少年

実際には少し違うが、虎少年は大体そんな風には振舞っている。

少女が望む優しいお兄ちゃん像をなるべく壊さない様にと。


「なら私はお姉さん、は図々しいか。親戚のおばちゃんぐらいのつもりでいてくれたら良いよ」

「おばちゃんというには、若いし綺麗だと思いますけど」

「ふーん、お世辞は上手だね。将来が心配だ」

「お世辞のつもりは無いんですけど・・・」


複眼の言葉に虎少年は少し困りながら答えている。

虎少年の言葉は間違いなく本音であり、お世辞を言っているつもりは無い。

とはいえ種族の差から来る認識の違いも多少ありはするが。


「ふふ、ありがとう。でもそう考えたら気が楽にならない?」

「どうでしょう・・・僕としては、優しい気の利く料理上手なお姉さん、という感じですから」

「そっか、んー、難しいな。もっと肩の力を抜いてくれて良いんだけどね」

「肩の力、ですか、頑張ってみます」


何処までも真面目な虎少年の応えに、複眼は思わずクスクスと笑ってしまっていた。

可愛い子だなと、本当にいい子だなと、虎少年の頭も優しく撫でながら。


「頑張っちゃ力が入ってるよ」

「あ・・・そうですね」

「ふふ、まあこのまま転寝ぐらいは出来る様になった方が良いかもね」


複眼の言葉に照れながらも、意識しして力を抜こうとする虎少年。

不自然な脱力ではあった物の、脱力は脱力して効果が有ったのかもしれない。

後ろから抱きしめてくれる優しい暖かさと、頭を撫でる心地いい感触。

それに前に抱く少女の体温に、気が付くと虎少年もウトウトし始めていた。


「ふふっ、可愛い」


自分の胸の中に体を預ける様に寝る虎少年と、その虎少年に抱きついて寝る少女。

二人共心地よさそうで、何だか自分も眠くなって来る複眼であった。











「あれ、何か良い雰囲気。もしかしてあの二人、本当にくっつくんじゃない?」

「いやー、どうかな。あれは角っ子ちゃん見てる時と同じ顔な気がする」


その様子を見ていた単眼と彼女は、そんな事を話していた。

実際の所は、きっと複眼にしか解らない事であろうが。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ