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挑戦状。

「あー・・・何だかなぁ」


男の自室に面倒臭そうな声音が響く。

虎少年が屋敷に来た当日、お互いに挨拶を済ませた男は自室で封筒をぴらぴらと振っていた。

いや、ぴらぴらというには少々分厚く、だが固い物は入っていない事が解る。

男は一度それを開いて中を見たのだが、綺麗に閉じた後に手で弄んでいる様だ。


「こんなもん持ってこなくて良いのに」


男はそう呟きながら机に突っ伏す。頭の中には「面倒だなぁ」という思いが強い様だ。

それは当然手元の封筒が理由であり、その中には大量の現金が入っている。

送り主は虎少年。前回と今回の分の、屋敷で世話になる間のお礼との事だった。


「彼としては、そういう訳にはいかないのでしょう」

「・・・借りは作らねぇ、ってか」

「そんな所でしょうね。あの子の前に立つ為にも、一人前の男として、と」

「ご立派だねぇ。まだまだ幼いだろうに」


自分があの子ぐらいのときはどうだっただろう、などと考えて男はすぐに頭を振った。

丁度嫌な思い出のある年頃だったという事を思い出してしまった様だ。

女は何かを察した様で、男のその態度には何も突っ込む事は無い。


「しっかし、なぁ・・・」


男としては虎少年が屋敷に居る間の費用なぞ取る気はなかった。

少女が楽しくしており、少年とも良い友人になりそうな人間。

それだけで男にとっては迎え入れるに利の有る人間であり、それ以上の事は望んでいない。

だからと言ってこれを突き返す事は彼の顔を汚す事になる。


「結局その封筒、どうされるおつもりで?」


悩んでいる様子を見て女が問いかけると、男は封筒をポンとテーブルに投げた。

そして頭をぼりぼりとかいてから、窓の外に視線を向ける。


そこでは早速遊んでいる少女と虎少年、そして巻き込まれた少年の姿が。

彼女も傍で一緒に遊んでいる気がするが、そこはスルーするつもりの様だ。

男は皆の愉しげな様子を眺めつつ、少し溜め息を吐いてから女に顔を向けた。


「んー・・・金庫にでも入れといてくれ」

「解りました」


女は封筒を手に取ると、懐に封筒をしまい込んだ。

男はそんな女の行動に何も心配する様子は無く、また視線を庭に向ける。


「まるで挑戦状だな。気張れよ少年。恋敵は中々強いぞ」


男にとって先程の封筒は、虎少年の挑戦状だと捉える物だった。

少女が望むのならば、何が有ろうと僕は少女を連れて帰ると。

僕にはそれだけの事が出来る生活力も有ると。

少女が幸せならば何も文句は無い。だけどいつでも連れ帰る用意は有ると。


「何が気張れよですか。その前に貴方も保護者として気張って下さい」

「お前こそ、そろそろその眉間の皺どうにかしてから言ってくれませんかねぇ」

「貴方の様に年中へらへらしてるよりはマシです」

「お前みたいに年中人をびくつかせるよりはマシだ」

「「・・・あ゛?」」


何時も通り屋敷に響く打撃音と、その後に崩れ落ちる男。

だが女は勝ったというのに何処か不満そうな表情をしている。

今日も今日とて女の勝ちでは有るが、どうやら頬をかすった様だ。


「ちっ」


不満げに思いながら舌打ちをするが、ふと庭に目をやると少女が女を見ていた。

どうやら今の打撃音が聞こえていたらしく、ニコーッと笑って手を振っている。


「・・・ふふっ」


女は少女に手を振り返し、それだけでもう不満は吹き飛んだのであった。

ただしその顔の迫力に変化はほぼ無かったので、隣に居た虎少年は少々ビクッとしていたが。

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