チラチラ。
肌を刺す様な空気、という表現が似合う寒さの夕方頃の事。
少女は少し呆けている様な、でも何処か嬉し気な表情で廊下の窓から外を眺めていた。
ただし一点をじーっと見ている訳では無く、不規則に頭がゆらゆら動いている。
視線を上に向けたと思ったらゆらゆらと顔ごと動かして下げて行き、ある程度下がって行くと視線を上に戻すの繰り返し。
そして少女の腕の中には猫が抱かれており、同じ様に頭を動かしていていた。
偶に前足をタシッタシッと窓に向けて動かして、何かを捕まえようとしている風に見える。
ただし足が短いので全く届いていない。猫自身は楽しいのできっとそれで良いのだろう。
「角っ子ちゃん、何してるのー?」
そこに通りかかった彼女が声をかけると、はっと少し驚いた顔で振り向く少女。
どうやら目で追う作業に集中して、他の事に全く意識が行ってなかった様だ。
えっとえっと、といった感じで落ち着きなく顔を動かして慌てている。
少しの間そんな風にしていたが、落ち着くと恥ずかしそうに上目遣いで彼女に目を向けた。
「脅かしちゃった? ごめんねー」
まさかそんなに驚くとは思ってなかったと、頭を撫でながら謝る彼女。
少女は少し恥ずかしそうにしながらもフルフルと首を振り、にこーっと笑顔で返す。
その様子が可愛く感じた彼女はそのまま撫で続けていると、猫がぶなぁんと鳴くのでそっちも撫でておいた。
「で、何して――――ああ、成程、寒いと思った」
少女と猫を撫でながら窓の外を見ると、ちらちらと白い物が落ちている。
つまり先程の頭の動きは、雪が落ちているのを見つめて揺れ動き、猫は窓の傍に落ちて来た雪を捕まえようとしていたのだ。
少女も一緒に窓の外を見て、久しぶりに見る白い物が嬉しかったらしい。
「さっき外に出た時は降ってなかったのになぁ・・・今年は積もるかな?」
彼女の言葉を聞いてぱぁっと笑顔になる少女。
わくわくした様子で首を傾げ、もっと降るのかなー? という感じで空に視線を向けている。
どうやら以前雪が積もった時の事は、少女にとって良い思い出になっている様だ。
「でもこの降り方だと、今日はちょーっと難しいかなぁ」
楽しげな少女に水を差すのは申し訳ないとは思いつつ、期待させてがっかりもどうかと正直な予測を告げる彼女。
外では確かに雪が降ってはいるが、彼女の言う通り積もるような量ではない。
本当に可愛げのある量がちらちらと降っているだけで、むしろ暫くしたら止みそうだ。
だからこそ少女が目で追えていたのであり、そんな量では雪ウサギも難しいだろう。
「折角だし、寒いけど外に出よっか。今日は角っ子ちゃんモコモコだし大丈夫でしょ?」
にまっと笑顔で提案してきた彼女の言葉に、コクコクと嬉しそうに頷く少女。
今日の少女は完全冬仕様のモコモコ姿なので、そもそも寒さに強い少女なら全く問題無い。
ただその前に猫が寒くない様に懐に入れて、服の上から抱える様にしてから玄関に向かう。
外に出ると雪の降る勢いは強くなる様子は無く、やはり止みそうな気配だ。
少女は数少ない雪を手で受け取め、その冷たさに何だか凄く楽しい気分になっている。
猫も少女の服の中から前足だけ出して、傍に来た雪を捕まえようとしていた。
ただ実際に雪が触れると冷たかったのか、ぶなぁんと情けない声を出して足をひっこめる猫。
少女はその様子をクスクスと笑い、優しく抱きしめて猫の頭を撫でている。
「あはは、冷たかったか。猫の癖に寒がりですねー」
彼女が揶揄う様に猫をつつくと、ぶなあぁ!と抗議する様に鳴く猫。
だけど本当に冷たかったらしく、前足すら外に出す様子が無い。
それが尚の事可愛いと感じた様で、少女は雪が止んでも楽しそうに笑っていた。
「よかっ・・・たぁ・・・!」
その頃男は自室で安堵の声を漏らしながら、思い切り力の籠ったガッツポーズをしていた。
雪が降って来たのを見て、このまま降り積もったらと怯えていたらしい。
一応念のためにタイヤは交換しているが、それでも出来れば雪の中運転はしたくない。
雪は少女や住み込み使用人にとっては楽し気なイベントでも、仕事人には辛いイベントである。
「今年は、今年は道路の凍結も有りませんように・・・!」
何度か怖い思いをしている男の願いはとても切実だった。