下着。
「・・・やっぱり僕って、男性とは思われていないんだろうなぁ・・・子供扱い多いし」
少年がふと感じた事をぽそぽそと呟きながら、浮かない顔で洗濯物を干していた。
その手と足元の籠には下着が有り、シンプルな物や色っぽい物、若干透けた物など様々だ。
ただ少年にしては特に狼狽える事も無く、シーツの陰になる様に黙々と干している。
最早これは今更焦る様な事ではなく、慣れた日常なのだ。
屋敷の使用人達は基本的に、決まった仕事だけをするという様な事はない。
手の空いている人間がその場で必要な事をする。それが何時ものやり方だ。
勿論単眼の力仕事や複眼の料理など頻度の高い低いは有るが、基本的には皆が同じ様に仕事が出来る事を良しとしている。
それは誰かが休んだ時、そして辞めた時、残った人間で回せる様にする為。
不測の事態で人が足りない、なんて可能性はいつだってあり得る事。
多少問題が起きても仕事は滞りなくする為、作業能力の均一化をしているのだ。
なので複眼が休もうとも夕食が無い、何て事は滅多に無い。滅多になので偶にあるが。
という訳で少年も洗濯を任される事が有るのだが、最初の内は狼狽えていた。
屋敷のやり方に文句は当然無いし、出来る限りの事は覚えておきたい。
だから洗濯だからといって適当な事をする気は無い。
ただ屋敷の大多数が女性であり、必然的に洗濯物は殆どが女性物となる。
普通の衣服は別に構わない。そこには何の抵抗も問題も無いのだが、少年は下着の洗濯も任されるとは思っておらず、最初はかなり動揺していたのだ。
なにせ大人の女性の下着が沢山有り、何よりも少女の下着が有るのだから。
「変な事はしないと信用してくれてる、と思った方が良いか・・・」
溜め息を吐きながら、最初はドキドキしていた少女の下着も干す少年。
だが少年が下着の洗濯を任され始めたのは、実はそんなに前の話ではない。
少年も少年とはいえ男。一応少年の人となりを観察してから任せてみようという話が有った。
だから現状一人で洗濯物を干しているという状況は、本人の言葉通り信用されているのだ。
そもそも少年が少なからず少女に好意を持っている事は全員解っている。
もしかしたら少女の下着を・・・と多少思ったのも致し方ない事だろう。
とはいえ皆の本音は「あの子にそんな度胸ないでしょ」という話なのが悲しい所だが。
因みに最初に言ったのは彼女であり、誰からも反論は出なかった。
ある意味全ての人間からしっかりと信用されているのは間違いないだろう。多分信用なのだ。
とはいえ少年も流石に慣れたというだけで、全く気にしていない訳でもない。
あくまで「慣れた」であって「何も感じない」とは違うのだ。
以前女装させられた時に、今穿いている訳では無い下着に顔を赤くしていた事からも解る事。
だからこの状況で、今まさにパタパタと手伝いに来た少女に対し少年は―――――。
「あ、え、あ、ありがとう、ござい、ます」
―――――このように凄まじく動揺するのである。
手に持っているこれをあの子が、などと考えるのはきっと健全なのだろう。
決してむっつりではない。男の子だからしょうがない。そう思ってあげて欲しい。
少なくとも少女以外の住人達はとても優しい目で見ているので。
ただ少女だけはそんな少年の動揺に気が付く事も無く、何時も通りにニコニコ接している。
何も解っていない少女の無邪気さは、相変わらず少年を困らせている様だ。
大物は既に干しているのですぐに終わり、終わったーと万歳してから少年の手を引いて屋敷に戻っていく少女。
仕事では少年の方が上だと解っているが、少しぐらい先輩ぶりたいらしい。
なので時々よく頑張ったねーと、少年の頭をなでなでしてる時も有ったりする。
その際の少年は恥ずかしい様な嬉しい様な顔で、無抵抗に受け入れるしか出来ない様だ。
今回も先程の動揺を引きずったまま、その手を振り払う事も出来ずについてゆくのであった。