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二度目の冒険。

少女はフンフンと相変わらずズレた鼻歌を歌いながら、街道をぽってぽって歩いていた。

手にはメモを持ち、偶に立ち止まってキョロキョロ周囲を確認しながら進んでいる。

メモには目的地までの簡易地図と、そこで買う物の一覧が書かれていた。

つまり少女は、久々にお使いに出て来たのだ。


蝙蝠男の件で暫く外出が出来ず、遠出のお使いは結局あの一回だけ。

なので久々に任された街へのお使いに、少女はやる気満々である。

鼻歌もどこか鼻息荒く、気合いが入っている様だ。ズレてるけど。


「お嬢ちゃん、そっちは行き止まりだよー?」


道中で近所の住人らしいおばちゃんに声をかけられ、ふえっと驚いた様子を見せる少女。

どうやら道を間違えた様だ。

やる気は満々だが、そのやる気に行動が付いて行けていない所は少女らしい。

ワタワタと慌てながら周囲を見回し、地図をもう一度確認する。


「ふむ、ここに行くなら、あそこの信号が見えるかい? あそこまで戻れば良いよ」


おばちゃんもその地図を見ながら、指さしで少女に道を教えてくれた。

どうやらそこまで大きく外れていた訳では無く、見える所に元の道が有る様だ。

少女はほっと息を吐くとぺこりとお礼をして、パタパタと元のルートに向かって走り出す。


「飛び出したら危ないよー。車も通るんだからねー」


だがおばちゃんの言葉にはっとした顔で立ち止まり、そうだったと反省する様な顔を見せる。

そしてまたぺこりと頭を下げてから、今度は注意深くぽってぽってと歩き出した。

傍から見ると呑気に歩いている様にしか見えないが、きっと注意深く歩いているはずだ。

おばちゃんは少女が元の道まで戻って見えなくなった所で、ほっと息を吐いた。


「あぶなっかしいねぇ・・・これで良いかい?」

「おーけーおーけー。あんがとねー」


おばちゃんが通路の角に向かって声をかけると、そこからひょこっと彼女が出て来た。

つまり先程の誘導は、彼女が頼んだ事だったのだ。

どうやら少女の買い物は、まだまだ見守り隊が付いているようである。


ただ今回は羊角も現場に来ており、徹底的に少女の買い物風景を録画するつもりの様だ。

それも以前は出来なかった、店内の撮影をする為に変装までしていた。


一番特徴的な綺麗な角は、カバーを付けて誤魔化している。

羊角の様な角の持ち主は少なくないので、これでも誤魔化せてしまえるらしい。

鞄にカメラを入れて偽装して撮影しており、一歩間違えれば完全に犯罪者の様相だ。


「慌てる天使ちゃんも可愛いけど、ああ、手を引きたい・・・!」


一人での街中へ外出する経験の少ない少女の動きは、周囲に不安を与える動きになっている。

単純明快に子供が歩いているという事だけでも、見ている者を不安にさせるに十分なのに。

だが羊角は思わず駆け寄りたい気持ちになる自分をぐっと抑えて見守っていた。


とはいえ基本的にはちゃんと危なくない様に端っこを歩き、十字路では足を止めている。

人の波にも攫われない様に避けて歩き、本人はちゃんと歩けている気満々だ。

実際は小さな子が歩いている事で、大半の人は道を譲ってあげているのだけど。

いや、きっとそれを含めても出来ているのだ。多分。


そうして少女は今回も多くの人に見守られながら、安全にお買い物を済ませて無事帰った。

帰宅した少女は二回目の大冒険に興奮したまま、見た物あった事全てを皆に報告する。

後に帰って来た羊角と彼女には、興奮の余り一切の疑問を持たないのは良いのか悪いのか。


当然皆は何が起こったのか把握しているが、誰一人としてそんな事は口にしない。

なにせ少女は猫にも報告するぐらいご機嫌なのだから。

そんな少女の楽しそうな笑みを見ながら、皆は最後まで話を聞いていた。

当然猫はぶなーと、良く解らずに鳴き返しているだけだったが。







少女が自分のお使いを見守られていたと知った時、どういう反応をするのか。

それはもう少し大きくなってからのお楽しみにしようと、その記録だけは少女の記録部屋とは別で保管される事になっていたりする。


大きくなった少女は恥ずかしがるだろうか。それとも喜ぶだろうか。

もしかしたら何でそんな事したのと、ぷくっと頬を膨らませるかもしれない。

そんな事を話し合う住人達はとても楽しそうで、少女とずっと接していられる事を疑わない。

男と女はその事を嬉しく感じながらも、ほんの少しの不安を感じているのだった。

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