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アイロンがけ

少女はある日、不可解な動画を見つけた。

今はその動画を見て、とても不思議そうに首を傾げている。

少女が今まで学んだ常識では、そこに映る人間達の行動が理解出来ないのだ。


事の発端はとある言葉を目にした事。

今日は特にやる事が無かった少女は、何となく男から貰った携帯端末を取り出した。

以前男から貰った携帯端末。型落ちでバッテリーの持ちも良くない。デザインも可愛くない。


それでも少女は満足で、良くこうやってニマニマしながら見つめている。

だって大好きな人が長年使っていた道具だから、それはそれはとても特別な物なのだ。

男にとってはもう使わない物でしかないが、少女にとっては大切な宝物なのだから。


ただ偶にはちゃんと使ってみようと思い、ブラウザを立ち上げる。

端末を操作していると、それだけで増々ご機嫌になっていく少女。

どうやら男の端末を操作している、という事がとても楽しいらしい。

とはいえもうこれは少女の物なので、正確には男のおさがりを、となるのだが。


そんな風に携帯端末をご機嫌に操作していると、途中で首を傾げる単語を見つけたのだ。

それは俗にエクストリームスポーツと呼ばれるもの。


最初は普通にふんふん成程と少女は思っていた。

そこに書かれていた物はレースやクライミング等、危険性の有る中で競う競技。

つまりはそういう系統の競争をするスポーツなんだと納得し始めた所で、少女の目におかしな単語が入って来たのだ。


『エクストリームアイロン掛け』


この単語が目に入ってきた瞬間、少女の思考は少しばかりフリーズした。

アイロンの何に危険性を求めるのかと。そもそもアイロンでどうやって危険になるのかと。

意味が解らなかった少女は、取り敢えずその単語で動画検索をしてみた。


そして出て来た動画を見て、少女は尚の事首を傾げる事となる。

何で空を飛びながらアイロン掛けをしたり、水中でアイロン掛けをしたりしているのかと。

そもそもアイロンは皺を伸ばす為なのに、そんな事をしてたら何時までも伸びないのではと。


ただ少女は見ている内に少し面白くなって来た様で、時折わぁと声を漏らしたり、手を小さくパチパチ叩き、楽しんで動画を見始めている。

意味が解らないし訳が解らないが、何だかやってる人達が楽しそうで釣られた様だ。

時折動画と同じ様に手を動かして真似をしている時もあった。


きっと世の中にはこういう物も在るのだと、不思議に思うよりも受け入れたらしい。

ピョコピョコ飛びながら真似をするその様子は、格好良いとはかけ離れたものだったが。





後日彼女にそれを話し、二人で動画の真似をして空中でシーツにアイロンをかけていたら、女に見つかって二人して叱られてしまう。

だた少女にしては珍しく、競技が有るのになーとちょっと納得していない顔をしていた。

強く怒られた訳ではないとはいえ、女に叱られたのにだ。

その様子に気が付いた女は少しだけ驚きを見せ、けど静かに言葉を続ける。


「お前はその競技者になるつもりか? それとも旦那様の役に立つのか? どっちだ?」


女にそう言われ、はっとした顔を見せる少女。

確かに自分は男の役に立つ為にここに居るのだから、本来の使い方を確りしなければ。

そう思った少女はすぐにぺこりと女に頭を下げ、自分の考えの浅さに少し恥ずかしくなって手で顔を抑えている。

みゅ~と変な声で唸りながら、先程の態度を後悔している様だ。


ただそんな少女を見て、女は少しだけ嬉しくなっていた。

その感情のままに少女の頭を撫で、少女はキョトンとした顔で女を見つめる。

けどすぐにニパーッと笑みを見せ、女の手に自分を預けた。


何故撫でられたのか良く解らないが、女が撫でてくれるなら何でも良いらしい。

むしろその手にすりすりと頬を寄せている。


「そうか、あんな態度も見せる様になったか・・・ふふっ」


今まで少女は何でもかんでも頷く子だった。

勿論疑問は持つ子であったが、女の言葉には何だろうと頷く。

けど今日初めて、女に対して目に見えて不満と取れる態度を見せた。


普通ならそれは不快に感じてもおかしくない事。

けど女はそれがとても嬉しくて、珍しく優しい笑みをこぼすのだった。

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