スポーツウェア。
暑い日差しが当然になり、皆の服も薄着になる季節がやってきた。
少女も当然薄着になり始めているのだが、今日は殊更薄着になっている。
今日の少女は何時もよりがっつり動く気らしく、動きやすいスポーツウェアを着ていた。
因みに出資者は女でも男でもなく羊角で、少女に着て欲しくて事前に買って来た物である。
ぴっちりとしながらも伸縮性が有り、蒸れにくく着心地も良いので少女も喜んでいる様だ。
あえて問題が有るとすれば、上は小さめの物なのでお腹が出ていて、下は短パンな事だろうか。
短パンもゆったりしたものではなく、ホットパンツ系でぴっちりした物だ。
完全に羊角の趣味全開では有るが、少女本人は動き易くてとても気に入っている。
ならば何故問題が有るのか。それは少年にとって大問題なのである。
去年の格好でも大概狼狽えていたのに、今回の格好で狼狽えない訳が無い。
「う、上着とか着た方が、よ、良くないですか?」
偶々通りかかった少年に、みてみてーと腕をパタパタ動かしながら今の姿を見せる少女。
少年は距離がそこそこ離れているにも関わらずオロオロしており、顔は真っ赤で目線は明後日の方を向いている。
だが少女はこっちを見てくれないのが不服だった様で、むーと頬を膨らませながらぽてぽて少年に近づいて行った。
そしてそのまま少年の視界に入る様に、少年の顔の前に立つ。
「や、そ、ま、えっと、あの」
隠すべき所は隠しているが、逆に言えば隠すべき所しか隠していない格好。
そんな格好で迫って来る少女に、最早言葉にならない声を漏らしてアワアワとしている少年。
少女はそんな様子を可愛いなーと思いながらも、上着を摘まんでむーんと困った顔をしている。
少女としてはお気に入りになった服なのだけど、少年は駄目なのかーと。
普段なら可愛いと言ってくれる少年なのに、今回は上に服を着ろと言われ気にしている様だ。
みぃ~・・・と妙な声を漏らしながら肩を落とし、ちらっと上目遣いで少年を見つめる。
「うっ―――」
それが尚の事少年を固まらせる事になるのだが、無意識の少女には解らない。
困った顔で上目遣いの可愛い少女の視線。そんな物を少年が平常心で受け取れるはずがない。
視線をどこに向けて良いのか解らなくなり、グルグルと視線を動かす少年。
だがそうすると正面に居る少女の姿を尚の事見る事にもなり、余計に顔を真っ赤にしていく。
「はいはい、その辺でねー。少年、さっき旦那様が呼んでたからお願い。自室に居るから」
「―――へっ、は、え、は、はい!」
そこに彼女がやって来て、少年をぺりっと少女から離した。
ついでに告げられた要件に正気を取り戻し、ワタワタと男の部屋に向かって行く少年。
その顔はまだ真っ赤ではあったが、助かったーという安堵の様子だった。
「角っこちゃん、今日はセクシーな格好だねー♪」
彼女は少年が去って行くのを見届けると、少女の頭をわしゃわしゃ撫でながら感想を告げる。
少女は普段言われ慣れない言葉に少し首を傾げるが、「セクシー=大人」という良く解らない構図が頭に有ったらしく、わーいと手を上げて喜びだす。
今のその行動はセクシーからは程遠いのだが、取り敢えず少女は嬉しかったので良いのだ。
褒められてニコニコ笑顔の少女は運動を再開するべく、パタパタと広い所に移動する。
少年に感想を貰えなかったのは残念だったが、予想外の誉め言葉に上機嫌になっている様だ。
ニコニコ笑顔でピコピコと妙な動きで運動をする少女に笑顔を向けていた彼女だが、すっと目を細めると視線を横に向けた。
「アンタ、見てないで助けてあげなさいよ。また気絶するじゃない、あの子」
「二人共可愛くて、思わず撮影に力が入ってしまったわ・・・それもこれも天使ちゃんが可愛すぎるから・・・!」
「うん、今のアンタに何言っても無駄だって事は良く解った」
実は先程からずっと羊角は傍に居たのだが、少年がどれだけ困っても真剣な様子で撮影をするだけで、見かねた彼女が救いの手を差し伸べたのだ。
普段ならまだ適度な所で止めたのだろうが、少女の姿に興奮しきっている羊角にそんな思考は浮かばなかったらしい。
今も頭を抱える彼女の事など一切気にせず、妙な踊りをする少女を撮り続けている。
「フフ、良いわ、良いわぁ、やっぱり天使ちゃんは何着ても素敵・・・!」
「駄目だコイツ。通報しようかな」
因みに直前まで男も居り、少年に用が有るから来る様に言ってやってと告げて去っていた。
なので助けたと知られない様に、本来後に回す予定の仕事をさせる為に用意している。
とはいえちゃんと落ち着いた後にその事に気が付き、自室で身悶えする少年であった。