修理業者。
最近屋敷には業者が入っている。
前回の事件で壊れた屋敷を直しに来ているのだが、中々に大仕事になっている様だ。
壊れ方が明らかにおかしいので、業者は男が直接信用出来る人間にお願いしている。
余計な詮索をされない様、今後も余計な茶々が入らない様にする為だ。
「坊主、相変わらず苦労性だなぁ」
綺麗な円形を描く、思わず触りたくなるほどの球形のスキンヘッド親父が男に苦笑いを向ける。
だが男は面倒臭そうな表情を返し、女は少し後ろから呆れた顔で二人を見ていた。
「うっせ、早くクタバレおっさん」
「お、良いのか、良いのかそういう事言っちゃって。いけないなー、俺口が軽いからなー?」
「くっ・・・! スミマセン、口ガ滑リマシタ・・・!」
「おー、そうそう、それで良いんだよなぁ! お前の親父も余計な事良く言って面倒な事になってたから、ちゃーんと学習しねえとなぁ! あ、後今度酒驕ってね。勿論報酬とは別で」
「アンタが面倒な人間なだけだろ・・・!」
このスキンヘッド、男とは父親の代からの知り合いであり、口も本当は固い。
だが人間性的な物がどうにも合わず、男はなるべくなら関わりたくない相手であった。
とはいえ仕事上で顔を突き合わせる事が無くはないからこそ、今もこうやって繋がりが有る。
まあ仕事が無くてもこうやってウザ絡みを仕事中にしに来るのがこのスキンヘッドなのだが。
「しっかし、どうせなら完全に建て替えろよ。この屋敷もう古いんだしよ」
「っせえなぁ、俺はこれが気に入ってんだよ」
「っかー! お前本当に今時の若者かよ! ゲームと端末だけ新しい物持ちやがってよぉ! そんな調子で必要最低限以外の金使ってねえんだろ? 女寄って来ねーぞ!」
「うっせーわ! 女のケツ追いかけまわしてしょっちゅう嫁にぶん殴られてるお前が言うな!」
「ばっかやろう、あれはあいつの愛情だよ愛情! 独身男には解んねーだろうなぁ!」
傍から見ると仲が良いのか悪いのか判断しかねる所だが、男は割と本気でウザがっている。
だがスキンヘッドはこの関係を楽しんでいるので、今後も今の絡み方を止める事は無いだろう。
そんな様子でギャーギャー騒ぐスキンヘッドに向けて、女がぽつりと呟く。
「奥さん、昔離婚届書いて用意してましたよ」
「・・・え? まじ、ねえそれ何時の話? ちょっと待って、冗談だよね?」
さっきの強気から一変、スキンヘッドは弱弱しい様子で女に訊ねる。
だが女はそれ以上語らず、ツーンとした様子で顔を背けた。
その様子に「これはマジだ」と思ったスキンヘッドは愕然とし、端末でおもむろに愛していると妻に送るのであった。今更遅い。
因みに送られた奥さんは行き先を知っているので、唐突な愛の言葉に何となく事情を把握して「死ね馬鹿」と返し、スキンヘッドは脂汗を流している。
「ま、まあ、こういう事も夫婦なら有らあな。それを乗り越えて行かなきゃな」
「不倫で離婚の形ですから、慰謝料どれぐらいでしょうね」
「具体的な事言うの止めてくれる!? 俺帰ったら平謝りして来るからもう止めて!?」
「謝って許してくれれば良いですね」
「ごめん、今日は大人しくしてるからもう止めて下さい!」
スキンヘッドは崩れ落ちながら女に頭を下げ、女は少し満足気に口を噤む。
遠くでその様子を見ているスキンヘッドの部下達は呆れた様子で笑っていた。
この三人が関わると割といつもの光景なので、部下達は余り気にしていない様だ。
特に今日は事情が事情なので新人は連れて来ておらず、全員昔からの顔見知りである。
そんな部下達の間に、チマチマ動く存在が居た。
汗を流して屋敷を直してくれる人達の為に、少女がお茶を振る舞いに来たのだ。
チマチマと動きまわり手渡しに行き、ニパーッと笑みを見せてまたチマチマと移動。
偶に作業している姿をじーっと見つめ、目が合うとにこーっと笑顔を返したりなどもしている。
作業員達は皆娘か孫が居る年齢の者達の為、可愛くてしょうがなかった様だ。
素直で笑顔の可愛い娘にデレデレとなり、落ち込む上司の事などどうでも良いらしい。
フォローに行く人間など一人も居らず、可愛い可愛いと少女の相手をしている。
現場で働く男達の雑な撫で方にも嫌な顔一つしない少女には、全員ノックアウトであった。
「天使ちゃんの頭を汚れた手であんなに雑に! 天誅を、いや、人誅を下してくれる・・・!」
「待って待って待って、可愛がられてるだけなんだから!」
その様子を見ていた羊角は業者達に突っ込んで行こうとし、必死に止める単眼。
そんな事になっているとはつゆ知らず、業者の男達に無邪気な愛想を振る舞い可愛がられる少女であった。